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白の星の騎士

コネコ

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「コネコ!」
「待て!これだけは勘弁してくれ!」

 赤樹騎剣を手にコネコに詰め寄る。
僕の狙いは彼の背後にある像だ。
コネコは両手を広げ、僕の前に立ちふさがっている。


「庭に置いていいのは三つまで。約束しただろ!」
「これだけは許してくれ。お願いします!」
「却下!」

 土下座する彼を無視し、剣で像を真っ二つにした。

「オーノ―!」

 コネコは土下座したまま、動かなくなった。
この一連の流れは一度や二度ではなく、数えるのも面倒になるくらい経験している。
無駄に赤樹騎剣の扱いが上手くなってしまった。


 最初はコネコさんと敬称を付けてたし、軽く敬語で話してたんだけど、すぐにやめた。
コネコの性格は超身勝手な芸術家タイプ。
 この人に譲るとか敬うとかの精神を見せちゃダメ。
この数日で譲らず戦うということを覚えた。それを学ぶぐらい彼は身勝手だった。


 ピギはコネコに対して苦手意識を抱いているみたいだった。
ウザイぐらいに追いまわしているからしょうがない。
 ピギが本気で嫌なら止めているけど、追いかけっこを楽しんでいる節もあるから、基本放置している。
ウザさが限界になったら、ピギも泡攻撃で撃退しているし。
 コネコはすでにそれで何度も失神している。
それでもまったく懲りずに追いまわしていた。


 で、その結果完成したのが庭のど真ん中にある木製のピギ像だ。
3Dプリンタで作ったみたいに忠実に再現されている。
 彼曰く、これでも納得できる出来じゃないらしい。
だから、まだ追いかけっこは続いていた。


 僕もピギ像一つだけなら怒らない。でもいつの間にか、庭中に彼の作品が溢れてしまったのだ。しかもクリーチャー。
クリーチャーだらけにされて、さすがにキレた。
 それからは庭に置いていい作品はサイズに関わらず、三つまでと決めた。
壊されたくないなら、自分の部屋に入れろと言ってある。
 もし違反した場合、容赦なく真っ二つにする。
真っ二つにした作品はとっくの昔に二桁まで到達していた。


 最初からこんな過激な手段を用いていたわけじゃない。全くルールを守ろうとしないから、実力行使出ざる負えないのだ。
 今はこんな風にショックでうなだれているが、五分もすれば元に戻る。
彼はくよくよしない。その切り替えの早さにはびっくりだ。


 ちなみに庭に常駐させている作品はピギ像とカーボちゃん像の二つである。
残り一つは日替わりでどんどん変化している。
今日はハンバーグ像らしい。昨日の夕食だったそうだ。


 彼がこのように芸術作品ばかり作っているのには理由がある。
設備がないからだ。
金属加工用の設備がなければ、彼の真価は発揮できない。
合金も金属を溶かす炉がないとできない。
 町にはあるが、四等民じゃ借りれないし、作ろうにもお金が足りない。
一度、工房に必要な設備一式の見積もりを出してもらったけど、個人で払える金額じゃなかった。
四等民じゃ借金もできない。地道に貯金だ。


 堀と土塁。
これが思わぬ結果を生んだ。
 僕の家だけでなく、町にもこれを作るという計画が持ち上がり、その仕事を僕に任せてくれることになったのだ。
報酬は今までの稼ぎの合計と同額以上。こんなおいしい仕事ほかにない。


 この町は島の南側に位置している。
というか島全体で人間の領域は南。北はモンスターの領域だ。
ちなみに宇宙船不時着場所はここから西。
 とりあえず、今回作るのは町の北側。そこに土塁を作る。
町を守るのに必要なんだから、土塁ぐらい作っておけよと思ったけど、無かったのには理由があった。


 それは予算不足と必要性の薄さ。
この島の住人の数では、得られる税金なんて大したことないそうだ。
 それにモンスターも治安維持隊のおかげでこの町までは来ない。
なぜなら、彼らは頻繁に北に行き、南に近づくモンスターを狩っており、南に近づくモンスターはあまりいないからだ。


 だけど、それは今、以前ほど活発に行われていない。
原因は燃料不足。機体をしょっちゅう動かす余裕はなく、ここまでモンスターが来る可能性が高くなっている。
 それで僕という土塁作りの戦力がいるうちにモンスターへの備えをしておこうという考えなのだそうだ。
発案者の治安維持隊隊長のシフさんから直々に説明を受けた。


 この事業はもちろん、僕一人でやらない。ちゃんと町の住人も参加する。
僕がやるのは一番大変な穴を掘る作業だ。
 その作業も巨大スコップを使えば、楽勝。すぐに終わる。
貯金とこれの報酬を合わせれば、機体が買えるし、コネコのデバイスも買える。気合を入れて頑張ろう!


 ちなみにコネコとピギはお留守番。
ピギはモンスターだし、コネコは町の人たち、特に子供たち、から恐れられている。
 原因はクリーチャー像。それを町の広場に設置したから。
保護者扱いされてシフさんに滅茶苦茶怒られた。
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