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二章までの閑話
72、寂しい心を君で埋めて(ウル視点)
しおりを挟む告白が信じられないと言うデオは、初めに誓約の事を聞いてきた。
「ウルは、イルとの誓約はそのままなんだよな?」
「誓約はそのままだね。別に誓約をしていても損はないからさ」
正直、イルと誓約を解くことはすぐにでも出来る。
しかしそれをするつもりはなかった。
本当はまだイルの事が好きだという感情が消えてないのもあるけど、それ以上にパートナー誓約には利がある事に気がついたからだ。
「それに誓約しておけば何処にいてもイルと通信できるから、何かあればイルと話せて便利だと思わない?」
「そ、それは確かに……」
誓約に疑問を持つデオさえも納得してしまうほど、それはとても便利だと言えるものだった。
そして俺はイルと誓約したのが初めてだったからまだ詳しく理解していなかったけど、このパートナー誓約には他にも特典があった。
それは通信を行えるようになる事の他に、パートナーになると相手の場所が何処にいてもわかる事、パートナーに魔力を供給してもらえる事……。
など、まだ俺は誓約して日も経っていないのに、すぐわかった事だけでも3つもあったのだ。
しかし便利と言っても、ちゃんとパートナーがそれを許可をしてくれないと使う事は出来ない。
俺もイルから魔力の供給は上手くできなかったからね……。
だから誓約されたデオが相手の位置を知れるかと言われたら、きっと相手からの一方通行だろうと思っているのでそこは期待していない。しかしあの男にデオの位置がバレているのはどうにかしたかった。
だからデオには早く誓約のコントロールを覚えてもらいたいのだけど、そんな簡単に上手くいくかどうかもわからない。
そして通信についてもう一つ、不思議な事がわかった。
パートナーに複数のパートナーがいる場合、そちらのパートナーともどうやら通信できそうなのだ。
なにより、今の俺にはそれが一番必要な事だった。
何故ならデオと誓約した男を探すためには、どうしても協力者が必要だからだ。それに最適だと思ったのがイルと誓約している男の1人、憎たらしいが俺よりも強い男であるダンという存在だった。
念のために手紙も用意したけど、それが届く前に話をつけられるかもしれないのはありがたい。
しかしデオに、ここまで詳しい事は絶対に言えない。
言ってしまえば、ダンとイルが誓約している事や2人がそういう仲である事もバレてしまうからだ。
イルがすでに男にヤられているなんて、俺の口から言う勇気はまだなかった。
俺がそんな事を考えている間に、デオはどうやら誓約について納得してくれたようだった。
「……誓約についてはわかったけど、進化についてはどうなんだ?前にウルは進化した人としか誓約しないって言ってたよな……それなのに、俺でいいのか?」
そしてデオがもう一つ気にしていたのは、俺がずっと言い続けている進化した人間としか誓約しないと言う事についてだ。
でもこれは俺が勝手に決めた基準だった。
だって好きな人が先に死んだ後、何十年、何百年もその気持ちを抱えたまま生きていたら、寂しがり屋な俺は心が壊れてしまうだろう。
そう、心が壊れて……あれ?
何か引っかかった俺は謎の既視感に襲われ、そして気がつけば俺の前にはずっと置き去りにしてきた過去の景色が一瞬だけ見えたのだ。
そこで俺は沢山の人に囲まれて、罵倒されていた。この景色は故郷を出る前の姿だけど……俺はこの後どうしたんだっけ?
何か大事な事があったような気がするのに、全く思い出せない。
だけど、今の景色を見て気がついた。
俺はすでに故郷を追い出されたあの日、一度心が壊れてしまっていた事に……。
だから俺はもう二度と同じような状況になりたくなくて、ずっと一緒にいてくれる相手を探していただけだったんだ。
それにきっと心が壊れていた俺が人間的な感情を取り戻せたのは、デオがいてくれたからなんだよね……。
出会ってからずっとデオは俺をちゃんと見てくれた。そして俺の寂しい心を埋めてくれてたのはデオだけだったんだ。
だからこそ、デオが先に死んでしまうなんて考えたくないのに、本当はそこまで踏み込んじゃいけなかったのに、俺はもうこの気持ちを引き返すことなんてできなかった。
俺はデオから離れたくないし、デオを離したくもない。デオを俺だけのものにしたくて仕方がなかった。
そんな気持ちを俺はどうやっても、抑えられそうにないのだ。
だから俺は無意識にデオの頭を撫でながら、その気持ちを必死に伝えていた。
「俺、デオだけは諦めたくなかったんだ。もしデオに好きな相手ができたって、進化出来なくたってデオが死ぬまで一緒にいてあげたいって思ったんだよ」
その言葉を聞いたデオは一瞬眉を寄せて考えこむ。
そしてデオは少し不安そうな顔をしたままゆっくりと口を開いたのだ。
「それなら、本当に俺が進化できなくてもウルは俺をずっと好きでいてくれるのか……?」
「もちろん、デオは特別だから。だけど本当は進化してくれたらもっと嬉しいんだけどね」
「それは……」
黙ってしまったデオを見て、これは今言うべきじゃなかったと俺はすぐに話を戻す事にした。
それにきっともう、デオには俺の気持ちがちゃんと伝わっているはずだからね……今はそれだけで充分だ。
「ねぇ、デオ。俺の気持ちは全部話したつもりだよ。これで俺がデオの事を好きだって事、わかってくれたでしょ?」
「……ああ、疑って悪かった」
「俺のせいだから謝らないで。そのかわりにデオの本心、そろそろ俺に教えてくれてもいいよね?」
「……ああ、ちゃんと話すよ」
頷くデオを見て、ようやく本心が聞ける事に俺は少し緊張していた。でもデオの答えがどうであっても受け止めて見せると、俺は無理矢理笑顔を作った。
それなのにデオは突然、俺を引き寄せてギュッと抱きしめたのだ。その不意打ちに驚いた俺は、その作り笑顔を保てなかった。
「俺は、ウルが好きだ!確かにウルは最低な男だってわかってる。それでも俺はウルのそんなところだって、本当は優しいところも、たまに俺に対して必死なところも……全部好きなんだ」
まさか俺の何もかもをわかったうえで好きだと言ってくれるとは思っていなくて、つい唖然としてしまう。
「なにより俺はウル無しじゃもう生きてけない体なんだからな。だからウルとエッチな事出来ないなんて俺には考えられないから、ちゃんと責任とってくれよ……?」
気がつけば俺は、徐々に口がニヤけるのが抑えられなくなってしまった。
その事がとても嬉しくて、デオが愛おしくて仕方がないという感情を抑えられなくて、俺もデオを強く抱きしめながら叫んでいた。
「で、デオ……!俺もデオが好き、大好きだよ!!もちろんこんな俺だけど、デオを責任もって一生愛してあげるからね?」
「……一生って、ウルからしたら俺はすぐに老けるぞ?」
そう言われてデオが老けて皺々になった姿を想像したら、可愛いおじいちゃんになったデオの姿が思い浮かんだ。
うん……全然いける気がする。
どうやら、俺の気持ちは変わらなそうだった。
「それでも、愛せる自信があるから大丈夫。それに俺はデオの進化を最後まで諦めないから」
たがらデオを必ず進化させる方法を見つけてみせるから……待っててね、デオ。
こうして俺はデオと両思いになった。
でもこの幸せを続けるためには絶対にあの男を殺す事が必要不可欠だ。
そして俺は絶対にデオを進化させて、俺と誓約させてみせると強く心に決めたのだった。
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