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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!

58、許せない(ウル視点)

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ようやく俺はデオ達の声が聞こえる位置まで来ていた。
そこにはデオをいまだに貫いている男の戸惑う姿があった。

「ぐっ……な、なんだこの殺気?この俺が動けないなんて……!?」

近くで見るデオの姿に俺は感情が抑えられず、気がつけば魔力を練り上げた右手で魔法陣を描いてしまう。
あの男、絶対に許せない───。
そして俺は目の前の何もかもを全て吹き飛ばすため、腕輪の力で増幅させた黒い風を目の前の男達に向けて放っていた。

「ぐぁっ!!」
「うぐぁ!!」

それは狙い通り二人の男を吹き飛ばした。二人はそのまま木にぶつかっているのが見えたので、分断には成功したようだ。
でもその風のせいで、男に抱えられていたデオまでも吹き飛ばされてしまったのだ。
しまった!そう思ったときにはデオの体が宙を舞ったのが見えた。

流石にこれは誤算だ!怒りの余り位置調整をミスすなんて、どれだけ焦ってるんだよ俺は……!!
デオを助けるため、落下地点へと走り寄りその名を叫ぶ。

「デオっ!!」

しっかりデオをキャッチした俺は、そのボロボロな姿に怒りを覚えてしまう。そして薄っすらと残る魔力の残滓で、全ての事をすぐに理解してしまったのだ。
嘘だよね?デオがもう、誰かに誓約されてしまったなんて……。
俺にはその事が信じられないし、信じたくもない。
だけど今はデオにただ安心して欲しくて、俺はいつものようにニヤリと笑いかける。

「ごめん、待たせちゃったよね。でも俺が来たからには、もうデオには指一本も触れさせないよ」
「う、ウル!!ウル!!!」

ひたすらその名を呼んで涙を流すデオが愛おしくて、その感情が昂るとともにデオをこんな風にした相手を絶対に許せないと思っていた。

「デオ、俺は後始末をしないといけないから、ここで待っていて貰えるかな?」

俺はそう言いながら、デオの周りへ多重結界を頑丈に張る。それがちゃんと作動しているか触って確かめてから、俺は男の方へと振り向いた。
デオを犯していた栗色の髪をした男は、木にぶつかった衝撃からすでに立ち直り、こちらに歩いて来ていた。
そして一緒に弾き飛ばしたもう一人の男は蹲り、もう動けないようだった。

「まさかもうお帰りとはな……一体どんなカラクリを使ったのか知らないけどさ、とても早い帰還だな」
「そんな事、君には関係ないよね?だって君は今から一方的にやられるだけなんだから……」
「全く、これだからすぐ暴力に訴えてくるやつは嫌なんだ」
「そんなこと言われても、俺は君を許せそうにないんだよ?だから簡単に捻り潰しちゃっても許してよね~?」

さらに殺気を溢れされだ俺は、男にニヤリと笑ってやる。
それなのに男は何をとち狂ったのか、突然笑い出したのだ。

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「……その鬱陶しい笑いは何なのかな?」
「たとえ何を言おうが、お前はもう負けたんだ!もうすでに手遅れなんだよ!!!」
「……負けた?何を言ってるのかな?」
「いや、お前は負けたんだよ!!お前がいない間に、俺はデオと誓約してしまったんだよ?もうデオは俺のものさ!だから一生お前のものにはならないんだ!!どうだ?悔しくて憎くてたまらないだろう?」

その言葉を聞いたデオが後ろでビクリと反応したのがわかった。きっとその事を俺に聞かれたくなかったのかもしれない。
だけど俺はデオを安心させるように、この男に言ってやる。

「それなら、すぐにその誓約を塗り替えちゃえばいいよね?」
「ハハハ!!残念ながらそれはできないんだよ!」
「それは、どういう事かな?」
「俺の誓約内容には、他の誓約を跳ね除けるものが含まれているからね!だから俺が誓約している限り、お前はデオとは誓約できないのさ!!」
「……嘘……」

男の言葉にデオがポツリと呟いたのが聞こえた。
俺はその声に振り返ると、信じられないという顔をしてデオが膝から崩れ落ちたのを見てしまった。
そして俺も、激しいほどの怒りに燃えていた。
それは知らない間に笑い声が出る程の怒りだった。

「くくく……そっかぁ~、それなら仕方がない。今すぐ君を殺して誓約そのものを潰してしまえばいい、ということなんだもんね?」
「ハハハ!!俺を簡単に殺せるとでも?」
「俺はわかってるんだよ~?君が誓約したせいで、今の君は力が普通の人間並に落ちてるって事……」

上位種は普通の人と誓約するとき、相手を少しでも長生きさせるために、誓約する瞬間に膨大な魔力を注ぎ込む。
そのため誓約したばかりだと、ほぼ普通の人間並に力が落ちるデメリットがある。
そのため簡単に誓約する上位種はいない。
もし好きな相手に恨まれていた場合、不意にキスをしてしまえばその無防備な間に、反撃を受けかねないからだ。

「だから、何だって言うのかな?」
「今の俺なら君を一瞬で捻り潰せるんだよね!!」

叫びながら、俺は男のもとへと飛び出した。
右手に魔力を込めて打ち払ったのは、黒い炎。
これにもし少し触れでもしたら、男は一瞬で炭になるだろう。

「くっ、嫌な攻撃ばかりしてくるんだな!これは分が悪い……!!」
「なんだ避けちゃったか~」
「俺はまだ、死にたくないんだよ!だから本気をださせてもらうよ!!」

黒い炎を避けた男は、紫のモヤを辺りにばら撒いた。

「これは……?」
「ハハハ!そこに気絶してるやつらが沢山のいるだろ?このモヤでこいつらに無理矢理夢をみさせて、精力や魔力を吸い取ってるところなんだよ!!」
「……そうか、君は夢魔なんだね?」

夢魔は悪魔の中でも特別、愛に対して捻くれたやつが多いイメージだけど、こいつもそうなのかもしれない。

「ハハハ!お前はただの悪魔だよな?俺の方が一歩上の存在なのさ!!」
「種族名があるかないかで、そんなに変わらないと思うけどなぁ~」

そう言ってる間に、夢魔である男は倒れている男達から魔力を吸い取り終わったのか、ニヤリと笑ってこちらを見た。

「あーあ、残念だよ。もっとお前が悔しがって絶望してくれるかと思ったのに、全く面白くない。これでは復讐にならないな」
「……復讐だって?」
「そうだよ。でも今はここで今すぐ帰ることが、お前への一番の嫌がらせになりそうだよね?だから俺はすぐに帰らせてもらうことにするよ!!」
「なっ!!待てっ!それだけはさせないよ!!」

もしここでこいつを逃せば、デオと今すぐに誓約する事が出来なくなってしまう!
俺のためそしてデオのためにも、こいつはここで殺さないといけないよね……!

「ハハハ!!きたきた、今の歪んだ顔!!最高に焦ってて愉快な顔していたよ?あの日からずっと、俺はその顔が見たかったんだ!!」

そう叫びながら笑う男を睨みつけ、俺は右手に魔力を込めていた。

「俺を本気で怒らせたこと、後悔させてあげるよ」

そう言って俺は、不敵な笑みをこぼしたのだった。
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