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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
57、急ぐ心(ウル視点)
しおりを挟むウル視点が数話続きます。
デオの救難信号を受けてすぐなので少し前の話です。この回でウルが何故少し遅れたのかがわかります。
ー ー ー ー ー
デオの助けを求める声が聞こえた俺は、王宮から急いで転移していた。しかし今向かう先はジュディーのもとだ。
今の俺には直接デオのもとに転移する事はできない。
だけど朝に出会ったジュディーは、魔力増幅バーストアイテムが入荷したと言っていた。
もしかするとそれがあれば、デオのもとにすぐに辿り着けるかもしれないのだ。
「ジュディー!!」
「っ!?ちょっと、いきなり転移してきたらビックリするじゃないの~!」
突然現れた俺にジュディーは少しだけビクッと驚いていた。
でも、今はそんなこと気にしていられない。
「突然ごめんね、でも今はとても急いでるんだよ!魔力増幅バーストアイテムを今すぐに売ってもらえないかい?」
「急いでるのはアンタを見たらわかるし、何かあったんだろうなとは思うのよ……。でもそれって、私との約束を破るつもりなのよねぇ?」
ジュディーの言う約束というのは、夜にお店の子達に会いに行くという話の事だろう。
「もう皆には話してしまったのよ~?だから凄く楽しみにしている子も、気合を入れてオシャレをしようとしている子もいるの。だから今すぐに、はいそうですかと言ってあの子達のテンションを下げたくないのよねぇ?だから決して意地悪でこんなことを言っているわけではないのよ~?」
「わかった、わかったよ!!俺が悪いからね……じゃあ、その埋め合わせとして今日の売り上げの落ち込む金額を俺が全額支払わせてもらうから、だからお願いだ!すぐにそのアイテムを売って欲しいんだよ!!!」
今の俺は羞恥なんかよりも、デオの方が大事だった。だから俺は床に手をつき、ジュディーに土下座をしていた。
「あらあら~、あのウルが土下座をするなんて驚きだわぁ~!?まさか急いでいる理由は……恋のお相手かしら?」
「そうだよ!俺の好き人がピンチなんだ……だから、急いで向かわないと!!」
俺はこのとき無意識に、デオの事を好きな相手だと口走っていた。
だけどこれが事実なんだからと、今の俺は否定する事はしなかった。
「そうなのね!信じられないけど、ウルにもついに良いお相手が出来たのね~!?」
「いや、まだ俺の一方通行だよ……」
「あらあら、その感じだと本気かしらぁ?それなら、なおさらお姉さんは応援してあげないといけないわよねぇ~。だからウルがそこまで言うのなら、この埋め合わせはそのお相手と今度一緒に来て貰うことで許してあげるわぁ」
デオをこんなところに連れてきたら、また怒ってしまいそうだと一瞬思ったけど、今はそんな事言ってられない。
「無理言ってごめんね?今度は必ず約束を守って2人でいくからさ、だから早く魔力増幅バーストアイテムを……!」
「ふふふ。そんなに焦るほど大事なら、1人にしたらダメよ~。はい、これが魔力増幅バーストアイテムね」
そう言いながらジュディーは、革製の黒い腕輪を取り出した。その真ん中に三つの魔石が埋め込まれている。
「使い方は至って簡単、この腕輪を利き手の手首につけるだけよ~」
「それで効果は、どれぐらい上がるのかな?」
俺はすぐにそれを受け取ると、利き手がある右の手首にその腕輪を付けながら、ジュディーの説明を聞く。
「相性があるから、人によって5~10倍といったところじゃないかしらぁ?」
「それはまた凄い効果だね」
「そうじゃないと、裏ルートから仕入れる意味がないもの」
「まぁ、確かにそうだよね~。よし、できた!ぶっつけ本番で不安だけど、すぐにここを出るよ」
俺はポケットからお金を適当に鷲掴みして、ジュディに差し出した。
「相場がわからないけど、これで足りるかな?」
「え!?ちょ、ちょっとこれじゃぁ逆に多過ぎるわよっ!こんなの1日分の売り上げぐらいあるじゃないの~!?」
「お詫びの分も含まれているんだよ?これで女の子達の機嫌が良くなるものでも買ってあげてよね!じゃあ俺は急ぐから、またね~!!」
「ちょ、ちょっとウル~~!!!」
その叫び声を聞きながら俺は急いで転移をした。
俺の魔力が腕輪を通して、爆発的に膨らんだのがわかる。
そして、転移した場所は───。
デオが待っている隣国の国境付近の町、その少し手前だった。
微妙に距離が届かないなんて……それにもう半日間転移は使えない。でもここから走ってデオを探すのにどれぐらいかかるのだろうか。
そんな事を考えながらも俺はひたすら走っていた。
とりあえず宿に向かい、デオの痕跡を探さないと。
全く、こんな事ならデオに追跡魔法かけておけばよかったよね……。
そして宿に着いた俺は、宿の前でおきた出来事を店主から聞いていた。
「お連れの方なら窓を飛び出して、あっちの方角へ行きましたよ。でもなんだか追われている見たいでしたからね……無事だといいんですけど」
「情報ありがとね。大丈夫、俺達はすぐに戻ってくるよ」
店主にチップを渡して、俺はまたすぐに走り出す。
デオは屋根上を走ってどこまで行ったのかな?
追っ手から逃げるために、町の外に出た可能性もあるよね。
そう思い、俺は町の人に何度もデオの情報を求めて、走り続けた。
そしてデオが町の外に出ていった事をようやく掴んだ俺は今、森の中にいた。
探している間に魔力が少しだけ回復してきた俺は、森に探知魔法を張り巡らせる。
これは人が少ない森の中だからこそ出来る事だ。
そしてすぐに、俺の探知は複数人がかたまっている場所を捉えたのだ。
だから俺は、そこに向かって急いでまた駆け出した。
普段なら魔法でどうにかしているのに、その魔法が使えないため俺はすでに倒れそうなほどの疲労感に襲われていた。
でも、デオが助けを求めているのだ。
倒れてでも行かない訳にはいかない。
そして俺は走り続けて、ついにデオの姿を捉えた。
しかしその姿は……。
乳首に鈴をつけられ、デオのモノには何かベルトが巻かれているという、とても卑猥な姿をしていた。なにより男の物を咥え込んでいるのが、俺の目にはしっかりと見えてしまったのだ。
俺は目の前の光景が許せなくて、すぐにでも助けに行きたかった。
それなのにデオが他の男で気持ちよくなっている姿に、何故か体が動けなくなっていたのだ。
なにより俺は、あの男に見覚えがある。
あいつは前にデオをナンパしていた変態だったはずだ。
あのときあっさり引いたとは思っていたが、いまだにデオを狙っていたなんて……。
そう思っていたら、男がデオを抱えたまま何故か倒れている1人騎士のもとへ腰をおろしたのが見えた。どうやら男は騎士の立ち上がったモノを、さらにデオの中に挿れようとしているようだった。
そこには泣き叫ぶデオの姿があるのに、俺の足は動いてくれない。
そんな俺の脳裏に、再びデオから俺に助けを求める声が聞こえたのだ。
『ウルのバカやろう!!嫉妬するぐらい俺が心配ならなら早く助けに来いよ!!!』
その声にハッとした俺は、気がつけば目の前の光景にあり得ない程の嫉妬と殺気をぶつけていた。
そうだ、俺はデオを助けに来たのに一体何をやっているんだか!例えデオが俺以外としていたって、その相手を選んだ訳ではないのにさ……!!
そしてようやく動き出した足を、俺は一歩前へと踏み出す。
それはデオを愛しているからこそ助けたい、そうはじめて思えた俺にとっての第一歩でもあった。
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