気がついたら乙女ゲームだった!チートって何ですか?美味しいですか?

おばば様

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帝国編

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 めっちゃ長くなりました。帝国編はこれで終わりです。ハロウィンの頃閑話としてお茶会の話を上げる予定です。楽しい話が書きたい…

 ◆
 メガネを掛けたメイドが気合いを入れ拭き掃除をしている。メイドは前日配属されたばかり張り切っているが、何をやってもドジな為先輩メイドから世話を放棄されてしまっていた。ちなみにその先輩はプリプリ怒りながらどこかに行ってしまい、今は違う場所を掃除している。

「もう少し向こうをやるっぺ、先輩様に迷惑ばかりかけられないッペ!慌てない転ばない慎重にやれば出来るっぺ。ファイトいっぱつだっぺ!」

 メイドは小声で呟き、気合を入れ両手をギュっとにぎる。雑巾を持って歩くが途中メガネが汚れている事に気が付いた。立ち止まるとまだ支給されたての白いエプロンで綺麗に拭きあげる。王族の方々は今日ここには来ないらしいが、身だしなみを整えるのもメイドの仕事、口を酸っぱく言われ続けている為嫌でも覚えてしまう。
 これで先輩から褒められるっぺ!等と鼻歌でも聞こえてきそうなメイドの背後に、突如四角い魔法陣が浮かび上がる。

 明るいピンク色の光が城の廊下や壁や調度品等に広がって段々と薄らいでいく、薄らいでいくのと同時に魔法陣と光りも徐々に薄らぎ魔法陣は音もなくフッと消え、絨毯に刺繍されてる華だけになる。
 ほぼ全員転移後目を閉じていたが、光が強烈で頭の中まで光がチカチカとしてた。
 光は収まったのか?と転移陣に乗っていたアウラ達は恐る恐るゆっくりと目を開けていく、薄く開いた瞼から光が収まったのが分かると一気に瞼を開き見ると、大きな窓から太陽の光が廊下を照らしている。
 まだ少しチカチカしているが慣れたからかぼんやりと周りが見え始め、次の瞬間離れた所から女の人のつんざくような悲鳴が聞こえた。キーンとして耳が痛い、

「ひゃー!誰か!誰か!」

 横を見ると丸いメガネを掛けたメイドだった。手には布を持ってる掃除をしていたらしい、細いメイドの肩はフルフル震えている驚いた拍子に転んだらしい、ペタンと廊下に着けた両足は何度も立とうとしていたが、残念な事に廊下に張り付いてしまった様に座り込んでいた。

 肩に着くかつかないか位に縛った赤い2つの三つ編みがやけに目立つ、メイドはやっと立ち上がったがライラ達に背を向け慌て走って行く、ワルドは慌てて「待て」と言うがメイドには聞こえない、そのまま走り去ってしまった。

 ワルドは伸ばした片手をそのままダラリと下ろし、諦め気味に思いっきりため息を吐いた。
 そりゃ突然何もない空間から人が現れたら誰でも驚くし自分も同じ状況なら助けを呼びに行く、だがなんでここなんだ?
 城外なら気が付かれず騒ぎにならなかった筈だ。また大きくため息を吐くと、ここに転移して騒がせた言い訳を考える。

 メイドの知らせを受けたのか、慌ててこちらに来た騎士達はワルド達を取り囲んだ。ワルドは顔を上げ瞳を見せつける様に騎士を見て、国王と王妃を呼んで欲しいと頼むと、騎士達はワルドを見てすぐに敬礼をし騎士の1人が足速に去った。王族にしかない青眼を持っていて良かったと、ワルドは苦笑いをして周りを見て騎士を呼び、ここに来た経緯を簡単に話す。

「転移魔法陣で転移して来た。それだけだ」

「魔法陣?教会にある魔法陣ですか?まさかこのお方は…天使様?!」

 信じられない等とけして言わないが、騎士の目は視点はシャムで固まり動かない、
 ワルドは分かりやすく説明する。髪色は少し違うがこの前騒ぎになったばかりだ。城の中で知らない奴等いない、

「一緒に来たルピーの友達がそれを使えるんだ。分かったか?」

「はい…先日突然いらっしゃった天使様ですね。」

「あちらがお友達のシャム様失礼のないように、」

 ライラはシャムが選んだ転移先はけして豪華とは言えないが、とても清掃されとても広い廊下だった。足元の絨毯は毛足も長くふわふわ、絨毯には色とりどりの華の刺繍がされとても豪華な作りとなっている、ライラは足元の刺繍をじっと見て思う、花なら外から持ってきて飾れば良いのにと、

 ライラは窓辺にゆっくりと近づき窓の外を見る。緑は少なく草花の形は悪い、そしてなにより感じるのは魔力とても少ない事、そういえばアルゲティが禁忌の魔法を使ったとダブエルから聞いていた。しかし禁忌魔法類いでは無いとモヤモヤと考えるが、分からないでも何か引っかかる。ライラは考えを一旦止め後ろを振り返る。

「なんだか寂しい場所ね、魔力が少なく感じるわね」

「誰のせいだと…」

「ワルド!」

 ワルドがライラに突っかかりアウラがそれを止める。ライラは可愛くクルリと回りワルドの前に立ち可愛らしく微笑むと、ワルドは眉を寄せ一歩後ろに下がった。悪戯心を擽られたライラは1歩前にいけばワルドは眉を寄せ1歩後ろに下がる。2、3度やり取りをすると、ワルドの背中に固い壁が当たった。ライラはワルドの耳元で囁く、

「私達のせいじゃないと言いたいけど、まだ何とも言えないわね。あなたも真実が分かっていないのに決めつけるのは良くないと思うの、」

 ズルズルと壁を伝い座り込むワルドをライラは手を差し出して起こすと、

「さて何の魔法を使ったのかしらね。」

 頭の片隅にアルゲティの顔が浮び消える。娘の顔に顔上半分を仮面で隠した。女の子なのに…これ以上は思い出したくない、
 ライラは頭を振り考えを止める。今気にしているのは今いる場所、空の人族の街や先程いた場所より緑が少ない、花瓶に花も無い、

「さぁ着いた。ここどこかしら?」

 ライラの背後にいたワルドは、苦々しい気持ちで目の前の空の人族を見る。
 ワルドは自分の目の前にいるライラを見て思う、シャムよりもライラの方が背が高い、

 シャム様の姿になったライラを見て思う、姿かたちはシャム様に見た目はそっくり、違う点をあげるならシャム様と髪色や瞳の色は違う、
 ライラの髪と瞳は本来の色オーキッド色をしているが、背丈や顔の作り等はシャム様と同じだ。
 変わり身という言い方は可笑しいのかもしれないが、こちらに帰る前遠目からクルクルと回るライラを見ていたが、あれを手触りのいい木でステッキを作って、クルクル回る妹を想像した所で、ボーッとしていたワルドは、ライラの発した言葉で現実に戻ってきた。

「ライラ様ご自分で転移魔法陣を作って分からないのですか?…いえ、ここはエニフ王国の謁見の間の近くにある廊下です。前にシィ様がいらっしゃった場所と同じ所です。」

「なるほど、シャム様はここを登録なさったのね。私はこの国に来た事無いもの、小さい頃に魔法陣をあちこちに作ったのは500年ほど前の話、その頃の魔法陣も無いから仕方がないじゃない、長でもない私達は1度来て自分の足跡を着けないと、転移先に出来ないんだもの、あっ。それと今からシャム様と呼んで、上手く真似して話せるか分からないけど、やれるだけやってみるわ、」

「500年…」

「女性の歳を想像するなど無礼の極みです。」

 誰かがボソッと声に出したが、ライラは声で咎めこちらに向けた視線はとても冷たかった。見られた方向にいたワルドは縮み上がっている。ワルドは女性への気遣いが苦手なのだろう、

 ふとアウラは思い出す。カーナが行った先は600年前だと聞いていた。幼少時のライラと出会い会話をしたと、そう話をしていた筈だ。そうなるとライラの歳は600歳を超えることになる。
 長寿だと聞いたがそこまでだと思わなかったが、冷たい視線に耐えきれず、ライラの事はシャムと呼ぶと同意して頷く、ライラがシャムと言うだけだが、それだけですんなり名前が把握出来る。シャム様が「名前なんてどーでもいい」と話をしていた意味を、シャムから離れて気がついた程だ。

 廊下をバタバタと走る音とそれを追う声が聞こえる。ワルドはキョロキョロと見渡した。王城で元気に走る子供など1人しか居ない、今まで邪険にされていた可愛い妹だ。
 まるでリリーと追いかけっこでもしていたかの様に、ルピー姫は青髪を揺らして走るが、シャムを見て急ブレーキを掛けたように止まる。
 ルピーは宝物を見つけた様に青い瞳をキラキラとさせシャムを見上げる、
 シャムはルピーの目線の高さに合わせる為、膝を曲げ目の前に来た幼い子供を見る。

「わーぁ。天使様とても綺麗!」

「久しぶりね。元気だったかしら?ねえ私の名前覚えてる?」

 ルピーはニコニコの笑顔で頷き答える。

「天使様の名前はシャムち…様。初めてお友達になった時に教えてくれ…ました。」

「覚えてくれていたの?嬉しいありがとう、でも私達はお友達なんだからシャムちゃんと呼んでいいわ、子供の時間はとても少なくて、その時間はかけがいのないもの大人になったらそれは大切な思い出になるわ、あなたは何も気にせずに子供らしく素直に元気に過ごしなさい」

 分かった?と聞けばルピーはパァーっと顔が綻び笑顔で頷く、ライラは素直にとてもいい子供だと関心をする。
 それもつかの間で何かを思い出したのだろう、視線をウロウロさせ、少し悲しい顔をして俯いてしまった。シャムはルピーの頭を優しく撫でどうしたの?と優しく聞く、

「とうさまは王族として恥ずかしくないように、きちんとした言葉と行動をしなさいって、むずかしいからルピーはイヤなの、
 でもかあさまはルピーと一緒に過ごせるの嬉しいのよって、かあさまも教えるからゆっくり頑張りましょうって、ルピーはかあさまと一緒にいたいの、むずかしいからルピーできるか分からない…」

「そう、じゃあ練習の成果を私を呼んで毎回見せて、それならあなたも頑張れるでしょう?それではまず私にお名前を教えて欲しいわ、できるかしら?」

 ルピーは視線をあげ思い出す様に考えた後、ドレススカートの端をちょこんと摘み細い脚を少しだけ曲げ挨拶をする。細い足はプルプル震えているがそこが可愛い、

「わたしの名はルピー・エニフでふ。シャム様エニフ王国にようこそいらっしゃいました。」

「まぁ!偉いわねよく出来ました。挨拶をされたらキチンとかえすのは礼儀なの私も挨拶するわ、」

 噛んだのは緊張したからとシャムは微笑んだ。白いドレスの背中から翼をパッと出す。その翼から羽根が抜け落ちると精霊が集めてどこかに持って消える。前回ライラがアウストラリス王国で羽根を落とした。風の精霊が回収する前だった事と、ライラ自身がケーティに羽根を持つのを許した。この偶然が重なったからだ。もしライラが許さなければ、風の精霊がこっそり回収した筈だ。
 風の精霊の役割の1つに空の人族の羽根の回収がある、精霊達に人気でその羽根は空の人族の教会に収められ結界の維持用にされている。

 空の人族の挨拶は翼を出してするのが恒例、同じ種族なら隠す必要もないが、地の人族の街などで挨拶をする時は、考え方の違いもあるからだと、昔は他種族だとアピールしなくてはならなかった。
 純白の白い翼が姿を表すとルピーの青い瞳はキラキラと輝く、ライラは目の前に居るのが子供だろうとしっかりと挨拶をするが、この国には翼を毟られた過去があるため、翼でルピーを包まない、結晶で固められお茶会に出られない長に、無事で帰ると約束したから、

「私は空の人族の長シャム、現代の風の精霊王でもあるわ、ルピーずっと友達でいましょうね。私の子供を紹介するわ。」

 そう言うとライラはこの国にいる風の精霊を呼んだ。少ないが集まってくれた小さな子達をその場で集め散らした。ルピーはとてもキラキラした瞳で精霊を見上げ両手を広げる。散った小さな子達はルピーと遊ぼうとしていてとても懐いていた。そしてルピーの周りでクルクルと回りルピーも一緒にクルクルと回ると、水と光、土と闇、もやってきて全ての精霊がクルクルと回る。
 精霊に愛される子は清いココロを持っている。とライラは嬉しくて微笑みながら見守る。

「ルピーよく出来たな!えらいな!」

「ワルドお兄ちゃん!ルピーいっぱい頑張った。」

 ワルドがルピーの挨拶に感動した。ルピーはワルドに盛大に抱きついたが、ワルドはビクともせず小さな妹を受け止める、ルピーも首に巻き付き甘える。

 ライラ達がルピーとやり取りを終えた頃、ルピーの後ろから人の気配がしてそちらを見た。
 ノッサノッサとお腹を揺らし急ぎ歩く白い教会の服を着た男、その男の横に黒髪の女こちらも急ぎ足で歩いているが優雅に見える。ドレスの裾に刺繍がある淡い緑色のドレスで歩く姿はピンと立ちとても優雅だ。
 そのまた後ろに灰色の髪を後ろに撫で付けた男がやって来た。
 お腹を揺らした男は女の横に立ち止まるとハンカチで汗を拭き、女はライラを見て一瞬固まった。ルピーを優しく何かから守る様にギュッと抱きしめた。可愛い娘を自分の側に寄せ立ち上がった。ルピーは先程までしていた事を母親に報告をする。

「かあさま、ルピーはきちんとあいさつできました。」

「まぁ!ルピー挨拶をしていたのね。ようこそいらっしゃいました。私はエニフ王国王妃マタル、やっとあなた様に会えました。私はずっとルピーの事でお礼をしたかったのです。」

「当然の事をしたまでよ、私は無慈悲ではないの、大事にされてるなら何もしないわ、」

 満面の笑みでルピーは頷き王妃を見上げる。人目もはばからず王妃は可愛い娘を抱きしめていたが、スっと立ち上がりライラに深く礼をする。ライラは短い時間だがこの国での出来事をシャムから聞いている。

 シャムはルピーはずっと父親に蔑まれていた。理由は、アルゲティを虐げ国を1度破滅させた原因となった青髪と瞳を持ったからと、ルピーに懐いていた精霊から聞き知っていた。ライラもこの事は聞いていて、驚いたのはルピーを大事にしないなら、自分の屋敷に連れ去ると脅したらしい、ましてやここ自体が禁忌の国であり、屋敷は離れた所にあると言っても、空の人族以外の者が街に入るのは許されない、なにより禁忌を犯すとどうなるかそれを決めた長が1番知っている筈だ。

 母親の隣りにいた男が父親らしい、その男が膝を着きシャムに頭を下げる。

「天使様は青髪と瞳を許すのですか?」

「許すも許さないも私が許可することでは無い、あの子が罪を犯した訳では無い、あなたは昔の罪を自分の子供に背負わせるつもりなの?親がする事ではないわ。」

 ライラは青髪の娘を邪険にするつもりはない、長い間本が友達と豪語していた空の人族の今代長シャムがおそらく初めて出来た友達だ。シャムの信頼を失いたくないのと、子供の相手が好きなライラは自分の娘に愛情をそそぐ様にタップリ甘やかす。

「友達の為よ。」

「はい。ルピーずっとお花を育ててい…ました。後からシャム様にもっていきます。」

「ルピー私達はお友達なの。私の事はどうかシャムちゃんと呼んで欲しいし、練習の成果を見せてもらったら堅苦しい言葉もいらない…ダメかな?ねぇそこのあなたもそう思うわよね?まさかとは思うけど…ねぇ?」

 シャムに扮したライラは「もちろん許すのはお友達のルピーだけよ」とニッコリと笑う、エニフ王国現国王のアルオトは顔を青くし、国王の後ろに立っている灰色髪の男と一緒に深く頭を下げる。頭を上げた時国王の後ろにいる男の顔色は変わっていない、この国の国王は顔を青くしているのに、これではどっちが国王だか分からない、だが口を開いたのは国王だった。灰髪の男は国王が口を開くのを黙って見ている。

「は…はい勿論でございます。天使様の言う通りでございます。」

「私達は天の使いなんかではありません。空の人族と呼んで欲しい、私達は魔法が得意とし、鳥の様に翼はあって空を飛べるだけです。もちろん喜怒哀楽もあります。かつての私達はあなた達の事を地上を統べる人、地の人族と呼んでいます。空と地住む場所は違えどあなた達と変わらない私達も人族なのです。」

 国王がオズオズと顔を上げまた更に頭を下げる。ルピーは幼い頭で大切な話だと感じ取った。目の前で起こっている事は普通ではない、だがこの話はキチンと聞かないといけない気がした。
 分からない事は後から母様か兄様に聞こう、けど聞いていて少し怖く感じた。そう思い近くにいたワルドの腕をギュッとすると、ワルドは優しくルピーの頭を撫でた。

 ワルドは古い書物は全て読み尽くしたと思っていたが、まだあった事や今までアルゲティはこの国を不毛の地にしたと思っていた。しかし初代国王に書き留められた書物は、ワルドの見解と違った事が書かれていたらしい、

「人族なのは私達も存じております。戦時中逃げ惑いココロに酷い傷を負い弱った子供や女性達には罪はないと、隠れて治癒魔法や水場の水の浄化をして頂きました事まずは感謝をさせて下さい。
 当時の帝国は敵国であり、アルゲティ様を傷つけたのは当時の帝王です。
 アルゲティ様が施して下さった治療や食料等とてもありがたく、どれだけ感謝をしてもしきれない、そして我が国がした事は後世に伝える為に書き記し残す。エニフ王国初代国王がそう仰り全ての真実を記入し保存の魔法を掛け残してあります。王妃もまたアルゲティ様に助けられた1人でした。
 私たちにとってあの方は空からの使いそのものでした。民には天使様は人族となんら変わらないと、わからない者も多くいます。もちろん恩を仇で返すつもりもありませんが、私達は長い間空の人族を天使様と呼んでいました。長く浸透したものは長い時間を掛けないと変えられません。どうか私達に時間を下さい。」

 国王は深く頭を下げ次に王妃が話を継ぐ、

「シャム様。私達は昔に間違いを犯しました。今更謝罪してそれを許される様な出来事ではないと思います。
 仮に立場が逆だと考えました。しかし、私達は…わかりません。アウストラリス王国は空の人族達と敵対関係にはならないと聞きております。空の人族と遠い昔の様にとはいかないかもしれませんが、シャム様どうか私達の謝罪を受け取ってください」

「そう…あの子の両親に伝えておくわ。この返事は保留で両親の返事次第でいい?」

 国王と王妃は同時に息を呑む、地の人族は何代も生を重ねて繋げているが、空の人族はアルゲティの親世代がまだ存在している。下げている2人の頭が同時に揺れ更に頭を下げる。

「っ…?!…ご両親はまだご生存なのですね。国が変わったとはいえ本当に申し訳ない事をしました。…ご両親の胸の内はとても複雑だと思います。初代国王は私達はいずれ罰を受けなければならないと…」

「罰は受けなくてもいい、あなた達が罪を犯した訳では無いもの、アルゲティも望んでいないと思う、」

 ダブエルはこの謝罪をどう思うのだろう、ライラは母親として思い考える。謝ってもらってもあの子は帰って来ない、
 アルゲティが空に帰った日の事を思い出す。

 ここに来る前シャム様が話された内容に私は思わず期待してしまった。しかしそれを顔に出さない様にして、必死にダブエルの話をして話をそらしてしまった。必死すぎて話を逸らした事をバレなかったかしら?空に帰った自分の娘が生きているかもしれない、そんな事を言われ期待しない親はいるのだろうか?否いないだろう、空の人族の親は自分の子供の存在を感じる。本来子供は親に愛され育ち成長をする。仮にもしそれをあの子が希望し祈っていたら?と、ここに来るまで何度も考えていた。

 あの子が生きている。そんな事を聞かされ浮かれない親などいない、だが、かもといっている段階で浮かれ、やはり娘は空に帰っていたと言われたら、私もダブエルも何を生きがいに生きていけばいいのか分からない、娘大好きなダブエルに言えば絶対に期待する光景が目に浮かぶ、けど黙っているのも気まずい、なんて言ったらいいのかわからない時は託す事にしている。託す先はもちろん未来のライラ自分に託し、視線を王妃マタルに移す。ぼんやりしている様に見えたのだろう、やはりお疲れなのでは?と言われ首を横に振り苦笑いして誤魔化す。

「これからの事を少し考えていました。私も両親にありのままを話す予定でいますが、やはり気が重いと言うのが本音です。」

「私も可愛い娘が同じ境遇になっていたら…と思うと胸が苦しくなります。
 今までの私達では空の人族との交流は出来ませんでしたし、今まで謝罪が出来ていなかった事が心苦しいと、何代もの国王が思っておりました。こうして機会を得られた事、歴代の王達も胸をなで下ろしていると思います。」

 両親と言うかアルゲティの母親のライラはここに居る訳で、娘大好きな父親ダブエルは愛娘が絡むと人の話を全く聞かない、夫婦2人でアルゲティの教育方針を決めた時も結局は愛娘のやりたい事をやらせる。とダブエルはライラの意見もそこそこに聞き言い切ってしまった。結局はやりたい事をやらせ親よりも早くに空に帰ってしまった。ライラはダブエルが動かない娘を抱きかかえて帰ってきた時を思い出した。胸が苦しくてとても悲しい気持ちになる。最近立ち直ったダブエルにこんな思いをさせたくないし、言う事でさえとても気が重いと言うのが本音である。ライラは明るい話題にして話をそらす。空間ポッケから可愛い似顔絵が書いてある便箋と手紙を取り出した。
 ルピーはシャムの真似をして手を入れるが、手は空を切るだけ、何度も何度も真似するルピーの姿が可愛い、

「実はこれを貰ったから今日ここに来たの、」

 何度も手を空に上げたから疲れたのか、飽きたのかは分からないが、手紙を広げるとキラキラとした目で手紙とシャムとワルドを次々と見る。

「あっ!これルピーがワルド兄様にあずけてたしょうたいじょう!」

「ルピー姫様、私も貰いました。ご招待ありがとうございます。」

「うれしい!きていただきありがとうございましゅ。」

 目の前で微笑ましいやり取りを微笑み見る王妃マタル、
 あの日と同様、同じ場所に突然現れた空の人族のシャム様と自分の息子や夏の長期休暇で遊学に来ていた隣国の王子アウラと手元を見れば噂で聞いた精霊だろう。ソワソワしながらアウラとシャム様を交互に見ている。
 土壌調査をしてくれてルピーに絵本をくれた令嬢、王妃がいつもアウラの横に居た婚約者トゥカーナがいない事に気が付いたが、まず情報が欲しいと息子のワルドをチラリと見る。

「シャム様やアウラ様達もお疲れでございましょう。お茶を準備させましょう。シャム様に客間を用意しますのでご案内をさせます。ワルドここ数日居なかった事の説明を私室で聞きます一緒にきなさい、」

「俺1人じゃ何話してるか分からないから、アウラも一緒に来てくれ、」

「僕はワルドが言う事のフォローしかしないよ、ミューはどうする?」

 ワルドが話を丸投げされる前にアウラは釘を刺し牽制をし、ミューは一緒に着いて来るか聞くと、シャムがこちらに気が付いてミューを手招きしている。「呼んでるから無理なのよ。せめてあの青髪の子供にもみくちゃにされない様に気をつけるわよ、」とガックシと頭を下げ、アウラは「ミューの為に休憩場所を準備しておくよ」と苦笑いして励ました。

「ラケルタ達は少し休んでいてくれ、僕1人で行ってくる。」

「トゥカーナ様の侍女はどうされますか?」

「…僕が話す。カーナはこの国に来て居なくなってばかりだ。あの侍女は1人でも探しに出掛けそうな感じがする。前回は堪えたらしいが今度は泣かれそうだ。」

 アウラは考えていた。自分は他国の人間だ。お茶会が終わればすぐにシャム様の待つ所にライラ様を連れて行き、カーナが居なくなった経緯をアウストラリス王国に帰って話さなければならない、
 アウラが帰った後に分からない事があり、もしそれを質問されてもすぐに答えられる人が近くにいる方がいい、その間もどんどん話は進んでいく、

「私もう少しルピーとお話をしたいの、いいかしら?」

 お疲れではないですか?と王妃マタルに聞かれシャムは頷く、

「リリはルピーと一緒に客間にシャム様をご案内して差し上げて下さい、ルピーお願いね。あまり急ぐとお客様が転んでしまうわ、だからゆっくりね。」

「かあさまわかりました。シャムちゃんをゆっくりあんないします。」

「ルピー頑張ったご褒美は何がいいかしら?楽しみに待っていてね。ではシャム様お茶会の準備をします。それまでごゆっくりお過ごし下さい。」

 リリは頭を下げ「受けたまりました。」と頭を下げる。顔を上げたリリの表情は柔らかい、
 ルピーは母親に頼まれた事がとても嬉しくなり笑顔で頷く、歩幅の狭いルピーはトコトコとシャムの横に来て見上げシャムの手を両手でギュッと握った。

 シャムに扮したライラはあまりの可愛さに手を握りしめたままギュッと片手でルピーを抱きしめると、立ち上がりルピーを見て微笑むと、「じゃあ案内をしてもらおうかな?」と自分からキュッと手を握り直した。

 リリはこちらへどうぞ。と先に歩き出すと、ルピーはシャムの手を引っ張らない転ばせない様に気をつかいながらゆっくりと歩き出す。耳をすませば「ゆっくり、ゆっくり」と繰り返し言っているのがここまで聞こる。マタルは微笑みルピー達の姿が見えなくなるまで見送ると、ワルドの方を向き直しホッと息を吐くと、話をするならこちらへ、と大きな部屋に案内されソファに座る。真ん中にテーブルは無く、大きなソファが対面にあるだけ、ワルドに聞くと、家族でちょっとした話し合いをする時に使う部屋らしい、王族の私室らしい、ここのアルゲティの肖像画は2人並んでいる、1人は幼い感じがする。どことなくカーナに似ているそう思ったが、王妃の話が始まり前を見る。僕の横はワルドで、僕の前に陛下が座るっている。ワルドの前に座るのは王妃だ。

「連絡も無しにどこに行っていたのですか?アウラ様もです。ワルドから水の精霊王様の所に行くと話は聞いていました。数日間何も連絡もなしでしたから、教会から捜索隊出し国中捜索しましたが見つからないので、昨日アウストラリス王国に連絡を入れたのです。アウストラリス王国の宰相から連絡を貰い、アウストラリスの国境の街にどうやら居るらしいと連絡を受けたので無事なのは分かっていましたが、無事な顔を見るまでは本当に心配しましたし今はホッとしています。ですから」

「「ですから?」」

 ワルドとアウラの声が重なった。目の前に立つマタルの手が横に広がった。アウラは何か予感めいたものを感じた。横にいるワルドからサッと距離を取る。陛下とほんの一瞬視線が合いこちらへと言葉にせず言う、アウラはホッとしながら王妃の横にいる陛下の横に立った。

 陛下はオレンジ色の瞳を曲げ「よく逃げおおせたなアウラ、ワシはよく捕まるなぜだろうか?」ホォホォと笑ったその拍子にポヨンと、お腹が上下に揺れるのをアウラは見逃さなかった。
 アウラは考える、先程視線が合ったのは偶然?かと、逃げられないのは…そこまで考え、ポヨンとした場所から不自然に否、不敬にならない様にそっと視線を逸らし「…偶然です」と何とかその場を濁す。

 アウラが陛下と話?をしている間、ワルドはまだ捕まっていた。マタルは捕まえたワルドの頭を胸に寄せ少女の様に笑う、

「お仕置ですから仕方がありません。生まれた頃はこんなに小さかったのに、」

 マタルはこれくらいだったかしら?と指と指で間を作る、そんな小さい?!とワルドは絶句するが、すぐマタルは冗談です。と目を細め嬉しさを堪える様に両口端を上げる。不機嫌な顔をするワルドの頭を優しく撫で始めた。

「ワルド、いつの間に私よりも大きくなりましたね。母親の私が子供を抱きしめ甘やかせてるつもりが、逆に息子に介抱されてる様に見えてしまいす。
 …ルピーの事今までありがとう。陛下はルピーの髪色の事を貴族達を集め考えると約束をして下さいました。陛下はルピーを認知し公式の場にこれから沢山出す。そう仰りました。ワルドこれからも兄としてルピーの事沢山可愛がって下さいね。」

「母上ルピーはいつも可愛いのです。長年交流が無かった空の人族の長さえ、ルピーは魅了してしまう程ではないですか、俺も王族で教会に出入りしているから知ってます。困難は多いでしょう。だからこそ王族一族は仲がいい事をアピールしていきましょう。
 スビオやメケントから見てもルピーは妹に変わりはありません。これからも俺はルピーを見守り続けます。それに母上はまだ若く見えます。
 それに俺はもう子供ではありません…ここは開かれた場所だからどこで貴族に見られてるか分からない、お願いです!そろそろ離して下さい母上!」

「まぁ?若く見えるだけ、ですか?フフ…ワルドもしかしてお仕置が足りないのかしら?寝る前の挨拶の時覚えておきなさい、
 それにねワルド、親からしたら自分の子供はいくつになっても子供なのよ、そうですよね?陛下」

「ワシは愚かな事をした。聞けば我々を助け育てた天使様の親御様はご存命だと言う、親御さんが許すならワシだけでは無く、貴族や民にも考え方を改めなければならん。子供は宝であり希望でもある。子供達の笑顔は守らねばならない、」

 ワルドは慌てた。母上は華奢だがチカラは凄くなかなか離れない、それにチラリとアウラを見れば、アウラはワルドと目が合うと気を使いサッと目線を逸らすが、口元は両端が上がりニヤニヤしているのが分かる。

 ワルドは途方に暮れながら考える。自分はまだ未成年だが母上が居なくて泣く様な子供ではない、もしこんな姿をルピーに見られたら、と思うと嫌になる。

 若く見える母親にお仕置と評され抱きつかれている。
 友好国と言っても同年代のアウラに見られるのはとても恥ずかしい、

 母上に抱きつかれながらワルドは両手で母上の細い肩を押し戻す。疲れたのか諦めたからなのか分からないが、スルリとマタルの腕がワルドの頭から離れた。
 アウラは「お仕置なら仕方がないんじゃないか?」と苦笑いしてワルドを見ると、マタルは「あら?アウラ様も必要です?」と聞かれ手を胸の前で必死に振ると、「僕の婚約者が妬いてしまいます。」とても爽やかに微笑み頭を下げる。

 ワルドの顔を見れば真っ赤っだ。アウラの視線に気が付くと恥ずかしさからツンと横を向いた。すかさず横からアウラは突っ込みを入れる。「それシャム様みたいだよ」とからかわれワルドの顔はさらに赤くなった。素直になれてない自覚はあるらしい、王妃は涙ぐみ扇子で顔を隠しているし、陛下の目の下は疲れが出ていた。どうやら本当に心配を掛けたらしい、話せなくなったワルドの代わりにアウラが聞く、

「本当にご心配をお掛けしました。…僕達は何日程居なかったのです?」

「3日です…無事で本当に良かった。顔を見るまでは不安で夜も眠れず教会で祈りを捧げていました。ワルド私達も聞きたい事があります。」

 王妃は1度黙り込み、決心した様に顔を上げワルドとアウラを見る。王妃の瞳は心配そうに揺れている。

「アウラ様、トゥカーナ様がいらっしゃらないのですがどうされたのですか?お出かけ前に見掛けた時にはとても混乱されている様でした。やはり体調が優れなくて先にお帰りになりました?」

 ここを出発する前の事を思い出した。あの時シャム様と一緒に帰ってきたカーナは、微塵もアウラの事を知らなかった。ルピー姫を見て混乱したカーナは咄嗟に逃げ出した。だがカーナの居た部屋では魔術や魔法は使えない、走り出し廊下に出た所で捕まえ魔術で眠らせた。

 アウラは前を向き王妃を見る。カーナは未来で笑い話にする。そうアウラに話をしたでは無いか、シャム様が捕まった話は言わない方がいい、小声で言うとワルドは頷く、でも結局僕が話すのか、ワルドを恨めしく見つつ事の経緯を話していく、ワルド達に見られた以上、カーナの事を隠しておけないアウラは決心し覚悟を決め今まで起きた経緯を話した。

「アウラ様…トゥカーナ様は捕まってしまった精霊王様を助けに?ひとつ疑問があるのです。精霊王様を助け出すのはなぜトゥカーナ様なのでしょうか?各属性の精霊王様そちらの方が魔力量はとても多いのでは?もちろん私の勝手な推論ですが、」

「水の精霊王ミラ様がこの城に来た時にも話をしましたが、ここでもう一度話しておきます。アウラも聞いて欲しい、本当は漏らす情報ではないんだろうけど、
 母上トゥカーナ嬢は天使…様の生まれ変わり。水の精霊王様ミラ様に気に入られた。ここまでは前に話をした通りだ。
 ここからが追加になった事です。祈りの乙女を呼ぶ、そう断言したトゥカーナ嬢は湖に入り祈りを捧げた結果、トゥカーナ嬢の背中に翼が生えた。一時は空の人族に連れ去られていましたが、少ししてすぐシャム様と帰ってきました。他の精霊王様に捕まり閉じ込められていた俺達を助け出し、トゥカーナ嬢の背中に翼が生えた事の原因を探っていた精霊王様が何者かに捕まった。もちろんそれを解放したのはトゥカーナ嬢だ。そしたらまた別の精霊王様が捕まった。それを解除出来るのはトゥカーナ嬢だけらしい、捕まった精霊王様を助け出せるんだ。トゥカーナ嬢は精霊王様より力があるのかもな。」

 ワルドが陛下達に話した内容、それはアウラもワルドならここまで知っているのでは無いか?と考えていた内容だった。だが確信があった訳では無い、
 アウラがモヤモヤしている内に、アウラとワルドから話を聞いた王妃は頭を抱え混乱している。陛下はソファを降り祈りを捧げ始めてしまった。

「何が起きているのでしょう?どうか…天使様お許しください。お許しください…」

 王妃は慣れているのだろう、陛下が祈りを捧げた声を聞き冷静になったらしい、話を聞き疑問に思った点を頭の中でまとめ口に出す。

「トゥカーナ様は祈りの乙女だから祈りを捧げたら翼が生えたと?
 トゥカーナ様にチカラがあるかもしれないと、ですが地上に住む私達の魔力量なんて、空の人族や精霊王様達に比べたら微々たるものでは?私達は少ない魔力を補う為に精霊から力を借ります。トゥカーナ様も契約精霊様がいらっしゃるでしょ?
 詳しく聞けば聞くほど頭の中が混乱していくの、アウラ様これは本当の話なのですよね?」

「…全てシャム様にお聞きください。僕の口からは何も言えません。シャム様が手を尽くし調べた結果だけ言うのなら、新たに捕まってしまった精霊王様を助け出す。自ら望んで行ってしまったカーナが無事なのか、それもわからないままなのです。僕は果てしない旅の最中にカーナの無事だけを祈るばかりです。」

 ただ婚約者の無事なことだけを知りたい、そう素直に思った事を答えたアウラは、のちにアウラ自身とトゥカーナを救う事になる。その答えが分かるのはまだ少し先の話、この話に感動した王妃がポロリと話してしまう、シャムになりきっている?ライラはもしトゥカーナが祈りの乙女のまま元に戻らなければ、空の人族の街に連れて帰ると考えているから、

 無論シャム様が来ている事はもちろん王妃も知っている。ただアウラの口から聞きたかったらしい、王妃は何かを耐える様に震える瞼を一度閉じゆっくりと開いた。この国の直径王族特有の青紫の宝石の様な瞳は心配気にアウラを見る。

「アウラ様お時間を取らせてごめんなさい、私達の疑問はこの後のお茶会で聞きます。お茶会が終わったらアウラ様は帰られると言っていましたね。お茶会が終わるまではゆっくり身体を休めたらいかがですか?ワルドもゆっくりなさい、それと急ですがワルドにはエニフ王国から使者としてアウストラリス王国に行ってもらいます。準備はすでに出来ています。ワルドならこちらで何があったのか誤解もなく説明が出来るでしょう。」

「な?!なんで俺?」

 王妃はこの状況では仕方が無いわね、と困った様に微笑んでいるが、ソファから降りた陛下は相変わらず祈りを捧げていて王妃もワルドも気にしてない様子、けどアウラはものすっごい気になる。天使様はアルゲティ様だと思っていたが、天使様は空の人族全般を指し示す言葉だと先程も言っていた。ではこの国が祈りを捧げているのは空の人族、シャム様が言っていた祈りが足りない、なぜかこの言葉がやけに頭に残っている。

「行方不明な事がアウストラリス王国まで知られているのですよ、説明だけならアウラ様だけで良いでしょう。しかしあなた達の行方不明になった事は我が国にとって不祥事とも言えます。何もない事を説明しなければなりません。分かりますねワルド、」

 ワルドは言葉を無くし頭をガックリ下げた。

「アウストラリス王国の宰相の手紙では、連絡が取れたら早急に帰ってきて欲しいそうです。ですがお茶会が終わる頃には太陽は落ちているでしょう。今日はこのままお泊まりになって、明日の朝出発の方がいいのでは?」

「王妃、僕達は国境の街ニールでレオニス叔父上から手紙を受け取ってますし返事も出してます。ではお言葉に甘えさせていただきます。頭の中まだ混乱しているので僕は先に休ませていただきます。」

 軽く頭を下げアウラはこの部屋から出ていった。ワルドも疲れていた。「では俺も失礼します」と言って出ていこうとするワルドを陛下は捕まえ肩を揺さぶる。

「ワルド本当の事を言って欲しい、天使様は青髪をお許しになったのか?」

「許すも何もないのでは?父上教えて欲しい、ルピーが何をしたと言うんだ!ルピーは天使様を空に返したか?違うだろ!あの子はあの子として生まれたんだ!父上が謝るのは天使様なんかじゃないルピーだ。俺アルゲティ様の母親に会ったよ、空に帰ったかもしれない子供を思い泣いていた。とても愛情溢れる人だった。」

「ワルド、空に帰ったかもとは?アルゲティ様は生きておられると?」

 ワルドはしまったと顔を顰めたが、陛下と王妃は怪訝な顔をしワルドを見る、

「ワルド説明なさい、」

「母上それも全てシャム様から聞いてくれ、俺の口から説明出来ない、俺がポロリと漏らしてまた何かあったら大変だからな、」

 マタルはそれもそうね。と言葉を零し陛下の手に自身の手を重ねる。陛下の手は祈るだけのものでは無い、
 マタルは棚からクリームを取り出し手に取り塗り込んでいく、陛下の手はずっと祈り続け少しカサカサしているが、マタルがそれに気がついた時に保湿してくれるクリームを塗っている。

 ワルドはマタルが棚に向かって歩いたのを見て、いつもの事かと、部屋から出ていったらしい、

 陛下は大切な者の為ならなんだってする。民から悩みを聞けば解決する為に走ったり、子供達と遊んだりゲームしたりもする、それに手助けしてくれる民達と様々な活動をして日々信者を増やしている。

「アルオト陛下もしアルゲティ様がご生存なら、私達は空の人族を空に返したと言う汚名を返せる…かもしれないですね、ですが肝心のアルゲティ様はどちらにいらっしゃるのでしょうね。」

「そうだなマタル、だがまだ分からない状況だぬか喜びはしたくない、この話は保留だ。今のワシはルピーにどう謝って良いのか…」

「ごめんなさい、これでいいんです。ルピーはとても素直で元気は…良すぎですが、年相応だと思います。今度教会の子供達と遊ばせてみてはいかがですか?子供達は皆大きいですし、ルピーが大好きなワルドは隣国に行ってしまいます。遊び相手が侍女のリリでは、体力が持ちません。」

 陛下は王妃の手を取ると、この部屋にある2人の天使様の絵のそばに行く、そうだな明日少し連れていこう、とアルオトはマタルの黒い髪をひと房取り口付けをした。
 少しぼんやりと絵を見ていた。ふと絵の後ろに何かあるのが分かった。陛下が手を入れ取り出したのは封筒に入った手紙の様だ、この部屋の掃除は頻繁にしている、だがなぜ今まで気が付かなかったか分からない、陛下は誰かのイタズラでは?と宛名を見る。

「ライラ母様にお願いがあります。もしこの手紙を拾った方は空の人族までお知らせ下さい、…手紙を出したのは誰だろう?マタルこの手紙をシャム様に、なぜか分からんが渡さねばならん。そんな気がする。」

「はい渡しておきます。シャム様がライラ様を知っていれば良いのですが、」

 コンコンとノックが鳴り許可を出せば、宰相が頭を下げ告げる。

「お茶会の準備が整いました。王妃様の御要望通りになっております。」

「分かりました。では陛下、私はこれで失礼します。」

 王妃は陛下に綺麗な動作でお辞儀をすると、お茶会の会場に歩いていった。
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