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帝国編
20
しおりを挟む「カーナ!」
「アウラ様!・・・」
カーナは僕に手を伸ばしたが、届く前に魔法陣が発動してしまった。僕は愕然としてしまう、まただ・・・自分が情けなくて嫌になる、無理矢理でもカーナを止めれば良かったと後悔してもしきれない、拳を地面に叩きつけると拳が赤く染るが気にせず何度も続ける、
「くそ!またか!」
「アウラ落ち着け!」
ワルドが僕の行為を止めようと手を伸ばし手を止めるが、僕はそれを振り解いた、ワルドの横に居たスワロキンに押さえられてしまった。細い見た目の割に力がある、止められた事にイラつき振り向き見ると、土色の小さな精霊達が、スワロキンを守る様にふわふわと周りを飛んでいるのが見えた。
「まずは落ち着け、今湖の水をミラが、砂を俺が調べている、フィルムは月の光を調べている、分かるまでは待て」
「カーナを攫われて・・・落ち着いていられるはずがない!」
下を向き頭を働かせるが、カーナがどこに居るのか検討も付かないでいた。僕の目の前に小さな足が見えるが、誰かいるらしいが今の僕は確認すらしたくない、
「私の事忘れている訳では無いのよね?」
「?!」
勢い良く顔を上げると、ミューが困った顔をしながら僕の顔を見ていた。
僕は情けなくもミューに縋る様に見る、ミューはツンと横を向き無言で手を伸ばす。僕は分からずにいると髪の毛を1本寄越せと言う、
「こっちまで帰って来るのが面倒臭いのよ、それに何かあったらすぐにこっちに帰れるのよ、今から私と契約を結ぶのよ。」
「契約?」
少し前にカーナが言っていたな、と思い出す。
「契約は私と契約者を糸で繋ぐのよ、その糸はどちらかが空に帰れば糸は切れるの、分かったかしら?」
僕は頷くと、ミューも自分の髪を1本抜く、器用に僕の髪と絡ませ始めた。ザウラクがそれを見ようとこちらに来るが、ミューはそれを拒否し僕達の周を風の壁を作った。
ミューは忌わしいと言わんばかりにザウラクを見るが、見られた当人は気にした様子は無い、
「契約を覗き見ようだなんてなんなのよ!」
「ダメですか?」
ザウラクは凄くガッカリとしているが、こんなやり取りをしている場合では無い、
「ザウラク悪いが今は急いでいるんだ、後で聞く」
「絶対ですよ!王太子様!」
ザウラクは喜び小さくジャンプし「ヨシ!」とガッツポーズを取ると、紫色の髪が横に揺れた。そそくさと他の精霊王の所に行ったが、正直もう少し落ち着いて欲しい、僕はミューの方を向くと、ミューは僕を見て物凄く驚いた顔をしていたが、すぐにプイと横を向くが何かを気にする様にチラチラと僕を見る、
「け・・・契約は終わったのよ。」
「ミュー僕の顔に何か付いてる?」
「そ・・・そんな訳無いのよ!契約は無事に終わったのよ、行ってくるのよ!」
ミューは何だか慌てながら光になって消えて行った。誰かが言っていたな、同じ事を2回言うのは大事な事だと、契約が終わっても何も変わらない、僕はミューの行った方向を見て、空を見上げる、湖に入った後カーナも見ていた月がそこにあった。アルゲティの父様に連れていかれたあの時の、カーナの悲痛な声がまだ聞こえる様な感じがする、握り拳を作ると手を胸に当てて祈る、
「カーナ・・・君がどんな姿でも、無事なら僕は構わない、僕の所に早く帰ってきて欲しい」
「アウラ落ち着いたか?」
背中をポンと気遣う様に置かれ、その相手を見ると紫瞳と目が合った、そこに居たのはラフな格好をしたレオニス叔父上と、緑色の髪が特徴的な従者マルカブ、それと手紙を陛下に届けていたラケルタ、ラケルタは僕の横に来ると頭を下げるが、動揺しているのか少しぎこちない、レオニス叔父上がここに居る事に驚き見ると、叔父上は手に持っていた手紙を僕に手渡す。
「兄・・・いや陛下からの手紙だ、トゥカーナ嬢の事は一部始終を見ていなければ、とても信じられない事だろうな・・・。」
「叔父上も・・・見られたのですね、カーナに何が起きたのかは、今精霊王様達が調べてくれています。」
僕は正直カーナに何が起きたのか分からずにいた。ワルドも同様なのだろう、叔父上に気が付きオレンジ髪の従者と共にこちらに来ると、2人は頭を下げる、
「お久しぶりです。レオニス様」
「久しぶりだなワルド、元気だったか?」
後ろにいる従者にも手を上げ挨拶すると、オレンジ髪の従者キタルファはそれに気が付き、慌てて頭を更に下げる、
「俺は堅苦しいの嫌いなんだ、それにしても精霊王達までいるとは・・・ん?」
レオニス叔父上は何かに気が付きそちらに行くと、スワロキンの周りをウロウロしているザウラクを見つけ観察をする、手元をじっと見ていて僕達が見ても邪魔なのが分かる、土に何か魔法陣を書きそこに小さな精霊達を送っている様だ、ザウラクはそれを一心不乱にメモしている、
叔父上は魔術師の黒いローブの首元を掴む、ザウラクは両手をバタバタとさせ暴れ後ろを振り向いた、ザウラクはやっとレオニスがここにいる事が分かったらしい、顔は青ざめサッと頭を下げるが、視線はスワロキンに固定されているので、頭が揺れ紫色の髪がシッポの様にユラユラ揺れている、そんなザウラクをレオニスは大きなため息と共に質問をする。
「おい・・・ザウラクは何をしているんだ?」
「はい!土の精霊王様のお手伝いをしています!」
背筋を伸ばし答えるザウラクに、レオニスは疑わしい視線をザウラクに送る、土色の精霊達と話をしていたスワロキンは前を向き作業をしながら、虫でも払う様な仕草をしながら淡々と答える、
「お前は邪魔だ!ウロウロされるとこちらも集中出来ん!」
「そんな酷い!私は未来の王国民達の生活をより良くする為の見学なのに!」
「土の精霊王様、この者は私が引き受けます。」
「頼む!今じゃなければあしらう事が出来るが、今は難しい」
スワロキンは片手を上げ簡単な礼をするとすぐまた作業へと戻る。レオニスがザウラクのローブの首元を掴もうと手を伸ばすが、ザウラクは自分で歩きますと頭を下げゆっくり時々後ろを振り向きながら歩く、
ザウラクは赤い瞳は潤ませレオニスをチラリと見るが、その視線は好きな物を取り上げられた子供の様にも見える、少し不貞腐れた様に口を尖らせ話す。
「レオニス様はなぜこちらに?」
「俺は手紙をアウラに届けにな、で、お前は何してたんだ?精霊王様達に邪険にされていた事が、いい証拠では無いのか?」
レオニス叔父上が視線を送った先はミラで、水の上に立って小さな精霊達を集め何か話をしているらしい、小さな精霊達に微笑む姿は女神のようだ。
次に叔父上が見たのはミクロン、背丈は元に戻り黒い精霊達を集めケーティとヒドゥリーの3人、何やら白い砂の上で円陣になって考えているらしい、
「ザウラク副団長、副団長は何しにアウラの所に行ったのか覚えているのか?」
「けん・・・ケーティ嬢の護衛とエニフ王国の土の調査です。」
「ではケーティ嬢の護衛をしてくれ」
「はい!失礼します!」
研究と言いかけたなとレオニス叔父上が言うと、ザウラクは滅相もございませんと手を動かし否定をし、パタパタと掛けて行く、砂場に居たケーティ達に合流しケーティ達と話をしだしたようだった。そこまで見送ると、はぁと大きくため息を付き叔父上にお礼を言う、本来なら暴走を止めるのは僕の役目だった筈だ、そんな不甲斐ない自分の事が情けなくなる。
「レオニス叔父上・・・ザウラクの事ありがとうございます。僕は・・・」
「気にするな俺はアウラよりも年上だ、俺を頼れ!それよりも今日は夜も遅い、アウラ疲れてないか?」
気遣うように叔父上が僕を見るので、僕は大丈夫ですそれよりも早くカーナを連れ戻したいと言う、叔父上もそれを分かっていて、激励だと背中を数回バンバンと叩かれた。ガタイのいい叔父上に背中を思いっきり叩かれると正直痛い、でもその痛みで頭の中のモヤモヤが飛び考えられる様になった。
「あっ悪い強かったか?」
「いいえ、レオニス叔父上ありがとうございます。やっと考えられる様になりました。今は自分のできる事をやってみます。」
「それなら良かったアウラ頑張れよ!頭が動き出したなら行動する前にまずは陛下の手紙読め、俺はその間ザウラクの所に行き何か進展があったか聞いてくる、アイツの監視も込みだけどな、」
僕はお礼を言うと、緑髪の従者と共にケーティの所に行く、僕はそこまで見送ると陛下の手紙を開く為精霊王が作ったテーブルへ向かう為歩く、今日は月の光が眩しい位で月明かりで手紙を読める程で、ラケルタをチラリと見るが気持ちは落ち着いたらしい、
「ラケルタも見たのか?カーナの事」
「はい、家は代々王家に仕えていますが、翼がある人を見るのは私が初めてなのでは?と思います。遠目で見ただけでしたが、教会で立つあの天使像そのままでした。空を飛んでいたのはトゥカーナ嬢ですよね?」
「もう隠し事は出来ないな・・・。けどこれだけは信じて欲しい、どんな姿になろうとカーナはカーナだ、詳細は必ず話す。少し待って欲しい、」
「話せる時で良いです。私は、いえ我がマルシ家は王家に忠誠を誓ってます。それを覆す事はありません。それにトゥカーナ様の事になると、自分の事よりも優先されますので、そこだけは心配しております。それにアウラ様が怪我をされると、トゥカーナ様も心配されますよ、」
「ラケルタありがとう。」
頭を下げると簡単に頭を下げないで下さいと叱られる、僕はカーナの事なら何度でも頭を下げられる。と言うと、ではこれで最後にして下さい。と苦言をいわれてしまうが約束は出来ないだろうな。
空の人族でもあるアルゲティが望んだ事だとカーナは言っていた。この国の流行病を治し、戦争中の隣国のけが人や食料を配るなんて天使の他に無いが、精霊王達に聞かれ真実を言われたら偽りを言う事など出来ない、テーブルに着いたのでソファに座る、
「ラケルタ僕は陛下の手紙を読む、暫く1人にして欲しい」
ラケルタは頭を下げると少し離れた所で立つ、僕はラケルタが離れた所に立ったのを見て手紙を開ける、
『アウラ、8代前の事を調べていて分かった、あの時代の王太子は空の人族を庇い空に帰っている。
それをしたのは帝国の宰相ムシダ、負け戦になる帝国を消し去ろうとし、国中に毒をばら蒔いたらしいが、それをアルゲティ様に阻止され、空に返そうとしたらしいがそれはアウストに阻止されている、、トゥカーナ嬢に空の人族を呼んで貰おうと思っている、』
僕の頭の中は真っ白になる、いつか魘され見た悪夢そのままだ、僕は本を読むのは好きだがそこは盲点だった。歴代王の事は成人してから解禁される話だ、けど肝心なカーナはアルゲティの父様に連れていかれてしまった。
僕は胸の前で腕を組むと、足でリズムを取るようにトントンと地面を叩く、段々と考えがまとまってきた
「ミューの帰りを待つしかないのか・・・いや、可能性はまだある、もしかするとアルゲティ様は、カーナが言っていた空翼の乙女ではないのか?でないと、あの姿になるはずは無い、シィちゃんは、空の人族になる秘技があると言っていたな。それか!」
そこで最後にカーナが言っていた空翼の乙女を呼び出す、それにはケーティが必要だと思い出す。
僕は急ぎケーティの所に行く、ケーティは叔父上と何やら話をしていた。側にはヒドゥリーとワルドとオレンジ髪の従者も居るが、そちらもそちらで何か話をしているようだった。
「そのスプチを食べたと?」
「はい、近くに赤いスプチの実は実っているのですが、転がって湖に落ちる距離ではないのです。それにトゥカーナ様がお入りになるので、事前に葉っぱや大きな石等はミラ様と土の精霊王様のお力で取り除いているのです。ですからどこからチプスの実が落ちて流れてきたのか分からない状態です。」
「そうか・・・その実に異常は?」
「わ・・・私調べた。な・・・何もない」
は・・・はいと元気に手を上げ答える、可愛いとケーティはミクロンを抱きしめている。隣でザウラクも頷いていたが、チプスの実はミクロンが調べたらしい、そこで少しの間沈黙になった。
恐らく叔父上達の話が落ち着いたのだろう、僕は早速先程思いついた話をしてみる、
「ケーティ嬢お願いがあるんだ、カーナをいや、空翼の乙女を呼んで欲しい、僕の考えではアルゲティ様が空翼の乙女だと思う。今ミューがカーナの所に向かっているが、前回の事もある連れて来れない可能性もある。頼む!」
「アウラ様!そのような事!」
ラケルタは僕を止めるが、カーナの為なら何度でも頭位下げると思う、愛しいカーナには必ず、いや絶対に僕の横にいて欲しい、
サッザッと砂を踏む音が聞こえそちらを見ると、ミクロンが僕を心配そうに見上げ僕の手を握る、その後すぐに布スレの音が聞こえ僕は顔を上げる、
「王太子様分かりました。私にできる事ならなんなりとお申し付けください。」
「すまない・・・ケーティ嬢。」
「いいえ!ここで待っていても進展が無いよりは・・・。呼びましょう空翼の乙女を!」
ローズピンクの瞳に強い意志を乗せ頷く、「おい!」大きな声が聞こえそちらを見ると、声をあげたのは今までフィレムの後ろを着いて歩いていた筈のルクバトで、遠くから一瞬で来ると僕達の前に来て睨む、ミクロンはポカンと口を開けルクバトを見る、
光の精霊王フィレム様も土の精霊王スワロキン様も気が付いていない、何かがおかしい。
失礼だと思いながらも何をするのか観察していると、ミクロンを抱き上げ指を鳴らした。ガンガンと下から岩が出て僕達は閉じ込められた。僕は火の精霊王ルクバトを驚き見ると、ルクバトは僕達を虫でも見る様に見る。
「あのお方からの命令だ。事が終わる迄ここに居ろ!」
またあのお方か・・・更に頭を回転させ考える。
僕達地の人族は全員1箇所に居た為、ここに居た全員が閉じ込められてしまった。
叔父上の従者が魔術を使おうとするが全く使えなかった。叔父上も僕もワルドと、次々使うがケーティは精霊達からも力を借りる事は出来ずその場でペタリと座り込むと、叔父上が優しく気遣う、ザウラクとヒドゥリーは今日研究し完成した魔法を使う、しかし使えても弱く目の前の物を壊せずにいた。
「何をする気だ!ここから出せ!」
「うるせぇ黙れ!ここで見てろ!」
叔父上が大声を上げるが、精霊王が持っている威圧だろうか?それを浴びせられ流石の叔父上も黙り込んでしまう、ここで何かが始まろうとしているのか?僕達はそれを見守る事しか今は出来ない、
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