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帝国編

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 ミューは飛びながら焦っていた。
 なぜなら自分の力が強くなったと感じていた筈なのに、トゥカーナの髪色は一瞬だけ染まり、元に戻ってしまったから、

「何でなのよ・・・トゥカーナに頼まれたから、ライラの所に行かなきゃなのよ・・・」

 急いで飛んでいるのに、葉っぱがヒラヒラとゆっくりミューの目の前に落ちてくる、
 それが出来るのはかなりの上位存在だけ、嫌な予感を感じながら、ミューは葉っぱを受け取ると案の定手紙になった。

 手紙は精霊しか読めない文字で書かれていて、受け取った人が手紙の中を読む、すると手紙は消える、読んだ精霊の魔力が伝わり手紙を差し出し人に読んだ事が分かる、
精霊達の手紙はこんな仕掛けが掛けられていた、なんでも昔手紙を出しても返事をくれない精霊がいたらしい、精霊王様が昔ボヤいたのを思い出した。

 嫌な予感を感じながら、差出人を見る為に手紙に魔法を掛ける、手紙を受け取った本人の魔力を感知すると文字が現れる、ミューは気軽な相手である様にと願いながら裏返す、

 そこには「私」と一言だけ書れてあり、ミューは絶望すると同時にその差出人を思い浮かべ、苦い顔になる、一言で言い表すなら、面倒臭い、この一言で終わる相手だった。

「ウゲ!なんでこんな時に・・・」

「私」と書かれたその差出人は、水の女神と見間違える程の美女でその姿を見た人を魅了する、とても美しい水色の髪と、柔らかな白い肌、宝石の様に美しいエメラルドグリーンの瞳をしている、見た目だけなら、近隣の人々に慈愛と優しさを振りまいていそうな感じさえする。

 それに反してとてもいたずら好きで、近くに精霊が居るのを見つけると、子供の様なイタズラを仕掛けクスクスと笑っている、1度引っ掛かると何度も繰り返す。とてもやっかいな精霊王だった。

 精霊達は気まぐれだが、精霊王はそれを無視して暇だからとよく精霊達を呼び出す。ミューは特にお気に入りらしく、『急いで来て』と呼び出されて行ってみると『暇だから何か面白い話をして!』とか『ちょっとそこで待ってて』と言われ30年待ったり(人間の感覚だと3日位)水の精霊王の事を思い出すと頭が痛くなる、

「ウゲ!水の精霊王様!もー!今忙しいのに!本当にこの人面倒臭いのよ・・・後から読むのよ・・・」

 ミューは後から読もうと思い、手紙を空間にしまう、それからしばらく飛んでいると、白く大きな門にたどり着く、その門を抜ける前に上に飛ぶ、そのまま門を抜ければ地上に落ちる、そんな間抜けは空の人族には居ない、

これは幼少期のアルゲティが教えてくれた。その後に『あっ!私達空飛べるから関係ないね』と聞こえた気がして、周りを見るが自分1人の事に気が付き落胆する。ここはアルゲティとの思い出も多い地でもある、

「ここには来たく無かったのよ・・・」

空を飛ばないと入れない場所にある魔法陣に触れると、視界が切り替わり、目の前には空の人族の街が見え始めた、この場所に門番は居ない、背の高い建物が見え始め、所々カラフルな建物が立ち並ぶ街を見下ろしつつ、ライラの元に急ぎ飛ぶ、

 街の1番奥にアルゲティの両親は住んでいて、
 奥に進むと大きな門のある古ぼけた屋敷がある、屋敷の門から入ると、手入れをされた綺麗な庭を飛ぶ、視界が広がった場所に目的の人物を見つけ急ぐ、

 ライラは純白のワンピースを着ていて、優雅に1人お茶を飲んでいる、茶器はトゥカーナとお揃いの物で、ライラが土魔法等で精製したお気に入りの茶器でもあった。

 ライラは茶器を見て微笑む、無論茶器は夫の分もある、夫は使わずに大事にしまっているらしい、大事にしまって置くのもいいけど、
 一緒にお茶している気分も大切なのよとライラはため息混じりで呟く、

 トゥカーナから貰った緑茶を飲み、抹茶クッキーを食べほっこりしていると、両手をパタパタさせて飛ぶミューに気が付く、その姿はまるで水中を泳いでいる様に見えてしまい、ライラはクスクスと笑ってしまう、

「ライラ!」

「あら?ミュー久しぶりね、そんなに慌ててどうしたの?」

「トゥカーナの髪色が染まらなくて、ライラに頼んでとお願いをされて来たのよ・・・」

 ミューは空間から魔法の紐で結ばれたトゥカーナの髪を取り出すと、頭を下げ両手を前に差し出す。

「お願いします!なのよ」

 まるで告白をする様な光景に見えるが、そんな悠長な事を考えてる場合じゃない、
 髪の事で頭がいっぱいになっていて、精霊王からの手紙の事は頭から抜けていた。

 ライラは手に持っていた茶器を優雅に下ろすと、ミューの手にある数本の髪を見て染まらない理由を考える、

「あらあら・・・1度見てみたいわ、ミュー1度その髪を染めてくれないかしら?」

「分かったのよ、お願い染まって・・・」

 ミューは願う様に魔法を口に出すが、サラサラと髪色は染まるがまた元に戻る、ミューはやはりダメかと肩を落としライラをチラ見する、
 目の前で魔法を見たライラは、顎に白く綺麗な指を当て、んーと考える、
 今の時期はトゥカーナは帝国に居る筈、そして更に考える、

 あの国はダメだ、昔タブエルが捕まり何とか逃げ出したが、数百年後次は娘まで捕えた国だ・・・。以降空の人族は野蛮な地帝国に行かないと、決まり事を増やした。国の名前が変わろうと歴史は変わらないし、空に帰ってしまったアルゲティも帰らない、

 少し前トゥカーナが生死をさ迷った空間から帰った後、私は夫を問い詰めた。
 するとタブエルは、トゥカーナの洗礼式の時に、魂と記憶の解除の魔法で元の姿になった後、トゥカーナが帝国に行く、この意思が固まった時に発動する魔法を唱えていた、それは動けなくなる程度の魔法だった。

『また空の人族が捕まれば、何もしないでは済まないだろう、天と地の大戦争になりかねない、それを避ける為の苦肉の策だった。』

 苦い顔をしたタブエルは言っていた。しかし実際は違った。
 中途半端に魂を解除されたトゥカーナは空に帰り死にそうになった・・・、
 その際トゥカーナとも会えたが、あの子が怖がるから言えなくて、帰ってから夫に八つ当たりをして『あの子に嫌われるわよ』と耳元で呟きしっかりと釘を刺した。言われた夫は肩を落とし絶望した顔をしていた、

 ライラは心の中で葛藤する、トゥカーナの元に行ってやりたいが、あの地には掟がある為行けない、もしあの場所に行けば空に帰ったアルゲティの事を思い出し苦しくなる、ハァと小さなため息をした、

 1番の難題は、アルゲティが使った禁忌の魔法、いくら魔法に優れている空の人族でも、こればかりは彼女自身で調べなくてはならず、膨大な魔法書から探すのは骨が折れるが今後の為に調べてみよう、
 これ以上は埒が明かないとライラはこれ以上の考え止め、顔を上げゆっくり首を横に振る、

「あの子はあの国にいるのね?私達の決まり事空の人族の掟であの国には行けないの、」

「じゃあ髪色は?染まらないの?」

「そうね今は無理ねミュー、あの子トゥカーナの髪を私が預かっても良いかしら?それとトゥカーナにこれを渡して欲しいの、」

「ライラこれは?」

 ライラに渡された物は水晶の様に透明なのに、どこか不思議な球だった。キラキラと輝く光はどこか懐かしい感じがするが、それが何なのか迄は分からなかった。
 ライラは球を見ると、懐かしそうで寂しそうな顔をする、ミューはその球が分からなくてキョトンとしていた。

「この球は・・・お守りよ、後これを・・・」

 ミューはお守りと、ミューには大きい純白のドレスを受け取る、純白のドレスは今ライラが着ているドレスと同じに見える、びっくりしてライラを見る、

「それは空の人族のドレスなの、あの地で何があるのか分からないけど、何があっても掟がある以上・・・私達は行けないもの、もし困った事があったらこれを着てと伝えて頂戴」

「分かったのよ、でも空の人族のドレスを出して良いの?」

 門外不出の複雑な魔法が組み込まれたドレスだと、昔旅の途中でアルゲティは話してくれた、ミューは白く綺麗なドレスが羨ましくて、それを覚えていた。

 ライラは顔を曇らせ俯く、「今の私にはこれ位しか出来ないから」と寂しそうに微笑んだ、
 ミューはその姿を見て胸が痛く苦しくなる、何だか泣きたくなって俯いた。しばらく重く沈黙の時間が過ぎる、

 突然ライラがパチンと手を合わせ鳴らす。ミューはその音に驚き顔を上げた。
 ライラは空間からドレスを取り出し、「暗くなっちゃったわね」とフフッと笑い、もちろんミューの服もあるわよ!と差し出された服を受け取り、「ありがとうなのよ!必ず渡すのよ」とトゥカーナの元に帰っていく、ミューは精霊王の手紙の事は頭から抜けていた。

 ライラはその後ろ姿が見えなくなる迄、小さく手を振り見送ると、
 ふとテーブルに置かれたトゥカーナの髪を見る、魔法の糸で結ばれた数本の髪は、バラバラになる事も無かった、
 ライラはミューが置いていった髪を手に取り、自分でも魔法を掛け染めてみたが、トゥカーナの髪は染まらなかった。

「何故こんな事に・・・」

 禁忌の魔法書を調べるしか無いわね。茶器を魔法でサッと片付け、空を飛ぼうと翼を広げると、聞きなれた声で後ろから呼ばれ振り返る、それは焦った様子のタブエルだった。

「ライラ!あのお方がお呼びだ一緒に行こう」

「・・・分かったわ」

 2人で足元に転移魔法陣を作る、場所を思い浮かべるとその場所に飛べる、ライラは魔法陣を見て思い出した。昔は地の人に頼まれて沢山作った。あの時は私もまだ子供だったわ・・・そんな気持ちになっていると、魔法陣はピンク色に光り輝く、



転移が終わりぼやけた視界がハッキリすると、目の前には広大な花畑が広がる場所に着く、
遠足の時や強制的に眠らされたトゥカーナも、行った場所でもあり、帝国行きを突きつけた本人がいる場所でもある、

私達は花を踏まない様に翼を広げ飛ぶ、そして不自然に出来た木の間の拓けた場所に降りる、その場所には、一脚の豪華な椅子と1人の少女がポツン居て、少女は豪華な椅子に足を組んで座っているが、
その少女からは女王の様な雰囲気を醸し出していた。

チラリと見たあのお方は、長いピンク色の髪を風に揺らし、飾り気のないシンプルな白いドレスを着ていて、とても愛らしい女の子に見える、
少女の前に着いた事で、私達は揃って膝を折り頭を下げる、


「ライラ例のものは渡したか?」

「はい・・・ですがあの子は・・・」

男とも女とも分からない中性な声が、生物がいないこの森に響く、
その声にライラは身を震わせ、少女の事を思い出す。空の人族はこのお方に守られていたから存続が出来た、と言ってもいい、見た目はトゥカーナと同じに見えるが、年齢は私達よりも遥かに上だ

 愛らしい少女は手をゆるりと横に振る、すると隣りから黒い布を被った人物が姿を表した、
 少女が顎で行けと指示をすると黒い布の人は消え、ライラは一瞬だけ黒い布の人物を見たが、背丈は高く翼は無い、多分地の人族だろう、それ位しか分からなかった。
不穏な空気を感じたタブエルは、頭を下げたまま堪らず声を出す。

「・・・シャム様何をなさるつもりで?」

 シャムと呼ばれた少女は、ピンクの髪を指でクルクルと回しニコリと笑う、
少女の事を知らない人が見れば、可愛らしい少女が愛らしいく笑っている様に見えるのだろう、しかしタブエルには、その笑顔はまるで悪魔の様に見え恐怖で身を硬くする、

「フフ・・・禁忌の魔法を使った罰だね」

「シャム様!罰なら私が受けます!」

ライラは堪らず叫ぶが、シャムは聞く気も無いらしく無言を貫いていているが、その顔は愛らしく微笑んでいて、何をするのか分からず不気味に見える、
タブエルは、今にも泣き出しそうなライラの肩を強く抱きしめる、

「罰は罰だよ、私が直接行っても良いけど、それじゃつまらないでしょ?」

「待って下さい!あの子はどうなるのですか?」

勢い良く立ち上がったが、タブエルは威圧されそこから動けずにいた。シャムはそんなタブエルをつまらなさそうに見ると、興味が無さそうに話す。

「知らないよ、私は魂と記憶の解除の魔法の使用を許したけど、これ以上は責任持てない」

落胆するタブエルにシャムは語り掛ける様に、優しく話し掛ける。

「それにあの国は立ち入り禁止、私が決めた事にもちろん異論はないよね?君達もこれ破ったらどうなるか分かっているよね?」

シャムは口を可愛らしく尖らせ呟き、立ち上がるとクルリと背中を向ける、そこには真っ白な翼が生えていていた。パチンと指を鳴らすとライラ達の下に魔法陣が出現する。

「お帰りはこちらから、じゃあ終わったらまた呼ぶから」

シャムは愛らしく笑う、何か言おうとしたライラに手を小さく振り、パチンと指を鳴らし魔法陣を発動させライラ達を元の場所に戻す、

「どうなるのか楽しみだよ、アルゲティいや・・・今はトゥカーナか、あれと出会って君はどんな顔をするのかな?この試練を乗り越えてみせて私を楽しませて頂戴」
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