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帝国編
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気が付くとベッドの上で寝ていて、時折涙が頬に伝い柔らかい枕に落ちる、
眠りながら泣いてる人物はアルゲティで、私はまた夢の中にいるらしい、
瞼が重く目が少し腫れぼったく感じて、私は涙を流していないのに、頬に流れるリアルな感覚に不安を感じていた、
私は頭を抱えた、アウラに連れて来られた部屋は魔法の類いは掛からないと言われ、寝る前いつも掛ける安眠魔法を今回は掛けていない、
それに本日2回目のアルゲティの夢だ、
私の気分はどん底まで下がってしまった。
私はアルゲティが何故泣いていたのか分からないが、泣き疲れ寝てしまったのだろう、今のアルゲティはスヤスヤと寝息を立て眠ていて、余程疲れたのか深い眠り迄落ちている、滅多な事では起きなさそうだ、
『今迄無かったタイプの夢?それにしてもアルゲティの涙が流れ落ちる感覚まで分かるなんて・・・』
私が見てきた夢は、まるで映画館に行きアルゲティの夢を鑑賞していた。
今回は体感型らしいアトラクションか!と突っ込みたくなる気持ちを押さえる、
いつも見るアルゲティの夢は翼が生えている事さえ分からない程なのに、今日は酷く重く感じる、背中はミシミシと地味に痛く首にも違和感がある、
今回の夢は体感型で私は頭を抱え考えようとしたが、考えた所で夢が覚める訳では無い、それでもモヤモヤと考え込んでしまう、
私があーでも無いこーでも無いと考えてる間に、アルゲティが目を覚ました。
まだ頭が起きていないらしく目が半開きでぼっーとしていてる、
暫くぼっーとすると、頭が起きてきたのか上掛けを足元に退け、手を上にあげ大きく伸びする、
私の意識とは関係なく、アルゲティの手が伸びたので私は体感出来るだけらしい、
『よく寝た・・・』と伸びをしながらアルゲティは思ったらしい思っている事まで凄く分かる、
アルゲティは豪華なベッドで上半身を起し、キョロキョロと辺りを見る、ベッド脇には水差しが木のコップと一緒に置いてあり、窓には上質とひと目で分かる薄手のカーテンが引かれ、太陽の光が無い事から今は夜だが、この部屋からは月は見えないが、その代わりに夜に鳴く鳥がホーホー鳴いていた。
アルゲティは夜だと分かるとぎょとして口を尖らせた、『ちぇー朝の内にミューを呼び出して、ここから逃げ出そうと思ったのに・・・仕方がない夜中逃げ出すか』と内心で呟いている、先程迄泣いていたのに切り替えが早い!と私は思い苦笑いしてしまう、まぁ・・・今の私は意識だけだけど・・・
私は夢で見た青髪の王に捕まった後だと直ぐに分かる。
青髪の王のニヤケ顔と笑い声が脳裏に蘇るがそれを頭の隅に追いやる、
その間もアルゲティはキョロキョロしていて、喉が乾いたらしい、先程見つけた水差しの側迄行き水差しの中を覗きこむ、水の中にはスライスした果物が入っていて、アルゲティは水をコップに入れて飲んだ、水は少し酸味があり口の中がさっぱりする、涙を流し出た水分が身体の隅まで潤う感じがする、鼻から柑橘系の爽やかな香りが抜け出る、
「美味しい・・・」『レモンみたい・・・』
私はレモン水みたいだと思ったが、口に出た言葉は違う、声はトゥカーナの声では無い。口は勝手に動きアルゲティが見た事や感じた事等も分かる、
私はこのままアルゲティを体験してみる事にした。何かが分かると信じて・・・
それにトゥカーナはトゥカーナであり、
アルゲティはアルゲティなのだろう、
私は過去に何があったのか知りたくなった。
前々から感じていた1番の謎、それは何故アウストラリス王国は守り神でもあるアルゲティの話しを知るのは、王家のみとして隠しているのか・・・これは私の怖いものみたさである、
今回も記憶を見るだけにしよう、そして余り干渉しないようにしたい、
誰かに呼ばれれば感情を感じる事もなく見るだけになるだろう、過去に何度も経験した事であり、今回は勝手が違うだけと自分に言い聞かせる、
◆
※お知らせです。ここから先『』はアルゲティの心の声になります。分かりずらくてすいません・・・
◆
私は逃げ出す為の情報が欲しくて、キョロキョロと周りを見た、視線の隅に黒髪の人物が居る事に気が付き、視線をそちらに向けた、
黒髪の人物は黒色の従者服を着ていて、背は高く身体は細身だが肩幅は広い、特徴的なのはその赤目で私が視線を向けても、じっと私の事を見ている、『なんなのこの子』私も負けじと見る、
黒髪の男は見た目は14~15歳程の容姿に見えた、黒髪はカツカツと靴を鳴らしながらこちらへ来る、
「アルゲティ目が覚めたか?王がお呼びだ」
「何よ!私に何させるつもりなの?」
「ミルア、アルゲティの着替えを手早く頼む、着替えが終わったら扉を叩け」
ミルアと呼ばれた少女は、背丈は私より頭1つ高く、膝丈程の長さの黒いドレスを着て、腰には可愛らしいフリルが着いた白いエプロンを着けている、少女は錆色の髪を揺らし頭を下げていた。
私の質問には答えず、黒髪は私に背を向け足早に扉から出て行った、
『人の話を聞きなさいよー!』
イライラして、ヒィヒィフゥー・・・と息を吐き気持ちを落ち着かせる、
ミルアは表情を変える事も無く、扉に頭を深々と下げ黒髪の従者を見送り、頭を上げ私の側まで来ると、慣れた様子で服に着いたボタンを外し始めた。
「私1人で出来るわ、自分で服も着られるから!」
「アルゲティ様申しわけございません、それは聞けません私が帝王様に怒られます。」
「分かったわ・・・でも着替えを手伝って貰うなんて子供みたいで恥ずかしいわ・・・」
ミルアは私の服を丁寧に脱がせると、その服を籠の中に入れた、私は肌着だけになると初夏なのに少し肌寒いと感じるが、一緒に居るのは女の子とはいえ急に恥ずかしくなってきた、恥ずかしくて胸を片手で隠し、おへその下をもう片方の手で隠し身体を少しねじる、羞恥からか顔は熱く感じる、
ミルアは私に構わずドレスを準備していて、
私はミルアが持つドレスをガン見する、
上質な生地を使った真っ赤なドレスで、胸を美しく見せる事が出来る様Vラインであり、袖は無くノースリーブタイプで、翼が入る様に背中は大きく開いている、
スカート部分は細くスリットは太腿迄大きく入り、その胸元には青糸で花の模様が施されてかなり露出度が高い、
ミルアは下着を準備していて、ドレスに合う下着を着けると言う、流石に下着は自分でするとミルアに言うと、「ではお願いします」とすんなり意見が通りホッとして、サッと下着を着ける、
ミルアはドレスを慣れた手つきでテキパキと着せていく、ドレスは私の翼も無理なく通ったのでホッとした。最後に魔法封じの首輪を隠す為に、首に薄手の赤い布を巻き付け完成したらしい、背中に布がヒラヒラと当る、
ドレスを着て分かった事は、最近大きく成長した所が少しキツイ、私は上からチラリと胸元を見て少し胸元の布を上にあげる、Vラインの胸元は柔らかな白い肌が谷間を作り、ドレスから溢れ出そうになっていた。
「このドレス脚が出過ぎじゃない?それに胸が苦しいわ、このドレス変えられない?」
「確かに胸の部分がキツそうですね、アルゲティ様申しわけありません、帝王様がアルゲティ様には是非このドレスをと仰いました。アルゲティ様・・・とても美しいプロポーションですね、さぞかし帝王様もお喜びになるでしょう。」
『もしかしてこのドレス・・・帝王の趣味とか?』
モヤモヤと考えた結果最悪な結論にたどり着いた。
「ミルア・・・私は今から何処へ行くの?まさか一緒に寝ろとか言わないわよね?!」『絶対に嫌!』
ミルアは無表情で淡々と答えるが、アルゲティの心の声は絶対に嫌の一択でだった。私も嫌だ一択だわ・・・
「アルゲティ様ごめんなさい・・・私はどこに行くのかは存じません、髪を整えますので翼を少し横に広げて下さい、」
ミルアは泣きそうな顔をして頭を下げた、
私は慌てて手を前に出し手を横に振る、ミルアは悪くないよ、それだけ言うとミルアの要望に答える為に手を動かす感じで、今は少ししか動かない翼を横に広げる、
『私が悪者みたいじゃない・・・』
ミルアは私にまた深く頭を下げるのと同時に涙も拭き取る、私は見ない振りをした。
ミルアは顔をあげ、私の周りをクルクルと回る、その回る仕草が可愛らしく見えつい笑ってしまう、
ミルアは笑っている私を見て可愛らしく口端をキュと上げると、
その後私の髪を持ち上げてみたり、そのままにしたりとしている、
ミルアはその後無言になると、クシを使い私の髪を手早く整えていく、
「アルゲティ様の髪は長くて綺麗で艶かですね、髪は編み込んで上にあげましょう、帝王様はうなじがお好きなので喜びます。」
「お願いするわ、髪の手入れは怠らなかったの、後・・・最後の情報は要らないかな・・・。」
私はされるまま髪をセットされ、最後に豪華な金細工の髪飾りを着ける、
最後にもう一度ミルアがクルクルと私の周りを見て完成したらしい、ミルアは満足そうに頷く、私も見たかったがこの部屋に姿見が見当たらず断念した。
そのままミルアと一緒に扉の前に立つと、ミルアは内側から扉をノックした。
すると扉が開き黒髪の男の人は、私を見る様に上から下へ目線を動かし、納得した様に頷く、
「アルゲティこれを飲んでおけ、」
小さなコップに入った色が緑の謎液体を渡される、私は眉を寄せるとこれは何?と黒髪に聞く、
「変な薬では無い痛み止めだ、昨日変な体勢で寝ていただろう、痛むならと思っただけだ、」
「黒髪さんありがとう・・・飲むわ」
黒髪と呼ばれ眉を寄せ思いっきり怪訝そうな顔をして、私の顔を顰め面で見る、
私はそれをスルーして、女は度胸だとそれを飲み干す、緑の液体はそれ程酷い味ではなく、私は好きな味で何だか数種類のハーブぽい味、例えるならハーブティーより少し味が濃い感じかな?父様が良く入れてくれた味にも似ている、
父様がお茶を入れると茶葉の加減が分からず濃い味になるのを思い出した。『ふふっ』
私は空のコップを渡す為に黒髪を見ると、俯き手を組んで、何かボソボソと言っていた、私はよく聞こえず耳を澄ませるが、次に聞こえた声は先程よりは大きく聞こえた、
「・・・トラルだ速く行くぞ、あの部屋は魔法は一切使えない、昔空の人に頼んで魔法を掛けて貰ったらしいからな、使える者が少ないが精霊魔法も使えない、」
「・・・魔法なんて使わないわよ、」
ちぇー精霊魔法も使えないのかと唇を尖らせる、空気中の魔力で飛ぶミューも呼べないじゃないか・・・、
私はトラルの後を歩き、キョロキョロと辺りを見る、窓の外は緑が豊かで花々が綺麗に咲き木々は整えられている、私がキョロキョロしていて、目的地に着き立ち止まったトラルの背中に顔をぶつけ鼻を押さえ擦る、地味に痛いが鼻から何か出てないか鼻を触った手を咄嗟に見た。大丈夫何も出てない・・・
トラルはそんな私の事を呆れ顔で見ているが、私は気にしない、一々気にしたら負けだと母様が言っていた。
「着いたぞ」
その扉は上質で細やかな細工が施され、見ただけでも、城の中で1番の豪華な扉の向こうに誰が居るかなんて子供でも分かる、謁見の間だ、
大きな扉の前にゴツイ鎧を着た兵士がいて、その兵士は私の姿を見て目を見開き驚き、それと同時に
私はジロジロと見られている事に不快感を覚え、眉を寄せ顔を下にさげようと床を見る、
トラルはすかさず私の顎を掴み上げる、
私はビックリして変な声が出そうになったが、なんとか耐えた、
トラルは私の顎を掴んだまま私の目を見る、
その赤い目は何かを訴える様にも見えた、
「いいか絶対に顔は下げるな、何を言われてもニコニコと笑っていろ、早く解放されたく無いなら別だ」
「・・・分かったわ」
重そうな扉はトラルの手で開けられる、徐々に中の風景が見えてくる、
まず見えたのは毛脚の長い青い絨毯、複雑な模様が施されていて、
次に見えたのは青髪の王が怠そうに座っている玉座、上を見れば豪華なシャンデリアがキラキラと輝き、周りを見れば豪華な服や煌びやかなドレスを着た貴族が大勢いた。『何よこれ!まるで私見世物みたいじゃない・・・』
閉まっていた扉が開いた事で、貴族達の視線は私に向けられた、
いつの間にか移動していたトラルは、扉の端で恭しく私に頭を下げている、
開いた扉の横にまた違う男の人がいた。青髪の王の兄弟だろうか?端正な顔つきが似ていて、髪色は黒では無いが青でも無い色、紺色だろうか?その人物が朗々と話し出した、その声は低音で遠くまで耳に届く声だ、
「紹介しよう先日空の人族が久しぶりにこの地に降り立った、アルゲティ様を王は是非にとこちらに連れて来られ、我が国の客人として迎え入れた。」
「えぇっ?」
「先程言った事覚えてるよな?」
客人と言われ私はびっくりして声が出た。私は青髪の王に装飾品だ!と言われた事を思い出す、
トラルは頭を下げながら鋭い視線を私に向ける、
その有無も言わせず視線に、私はコクコクと頷いた、
貴族達はグラスを持ち、部屋の両端で思い思いに話に花を咲かせている様だった。
私の姿を見た人々は、私の姿に驚愕としたり、頭を寄せてコソコソと何か言っている、
私の翼に触れようと私に近づく者も居たが、
それらはトラルと紺色髪の男が、近づか無い様にしていてくれた、
私は言われた通り頭を上げて前を見る、
両口端を釣り上げ妖艶に微笑み周りの貴族達をゆっくりと見る、『キー!私が逃げたら覚えとけよ!』仕上げに更にニッコリと笑う、
青い絨毯の上をゆっくりと歩き出す、
談笑していた貴族達は話を止め、見蕩れた様に私の姿をじっと見ている、
金色の豪華な模様が施された椅子に青髪の王は、横柄な態度で長い足を組み座っている、
微笑みながら歩く私の身体を、ゆっくり舐め回す様に見ては、ニヤニヤと笑いながら舌なめずりする、
『コイツやっぱり気持ち悪い!』眉が寄らない様に気を付けゆっくり歩く事だけに集中した。
「アルゲティこっちに来い」
「はい」『絶対に嫌ー!』
気持ちとは裏腹でなくちゃと、私は自分でも気持ち悪いと思う位にニッコリと笑った。そして青髪の王が言った通りにしなければ解放される日は遠くなる、そんな事を言われたら微笑みでよければあげるわ、
アルゲティの心の中は祈るような気持ちだ、
『早く解放されたい・・・
久しぶり(50年振り)にお家帰りたい、
母様の美味しいご飯食べたい、
父様にも会いたい、
ミューと笑いながら下らない話しをして、また飛び回りたい、
次は捕まらない様に気を付け旅をしたい、』
私が側に行くと腰を強く抱き寄せ、耳に息を吹きかけ背中をツーっとなぞる、『ギャー!気持ち悪いし酒臭い!』
青髪の王は視線を下へずらし舌なめずりして見る、翼がピクリと強ばる、
『やだ翼に感情が出るなんて久しぶりね、相当気持ち悪いわ・・・こいつ』
前に空の人は翼に感情を出さない様に訓練すると、夢の中で聞いたわ、貴族も空の人も大変だとトゥカーナはウンザリした。
青髪の王は懐から小さく豪華なナイフを取り出す、その刃が光に反射して鋭く光る、私は顔を強ばらせそれを見る、
素人目から見てもそのナイフはよく手入れされているのが分かる、
今そのナイフ出して何に使うの?私は青髪の王が持っているナイフをマジマジと見ていると、青髪の王はある一点を見て意地悪くニチャリと笑う、
「お前のドレスキツそうだな、俺がサイズを直してやろう!ありがたく思えよ!」
青髪の王は、私のドレスの肩布を掴むと、小さなナイフで肩に掛かっているドレスを切る、
パラリと肩と背中を繋げていた布が落ちていく、
「ひゃ!」
切られた瞬間は頭が真っ白になった、今はそんな場合ではないと必死に頭を働かせるが頭が余計にパニックになるだけだった。
元々背中は大きく開いているが、支えを無くしたドレスはスルリと下に落ちていく、私は胸が見えない様に赤いドレスで隠し、その場に座り込んだ、何とか間に合ったと思いっきり息を吐く、
私は流石にこの状況で笑っていられず、先程と変わらず笑っている青髪の王を睨み付けた、
私が反抗した態度だった為、青髪の王は苛立ち手に持っていたワイン瓶の中身を私にパシャパシャと掛けはじめた、「今日は良い日だ!飲め!ギャハハ」とまた笑いだす、
『このアホ!』怒りが込み上げる、
青髪の王は何とか私の手をどかそうと手を伸ばす、
私は何が可笑しいのか分からず困惑するが、必死にドレスを剥ぎとられないようにガードする、あっさりと手を引いた事にホッとした。
青髪の王は二チャリと笑うと私を見下げる、相変わらず視線は一点集中だ、『どこ見てるのよ!この変態!』私も負けじと青髪の王を睨む、
「手を退かせアルゲティ、お前の自慢の翼で身体を隠せば良いだろ?いい見世物になる!ヒャハー!」『どこかの雑魚キャラか!このアホ王!』
「私の翼はドレスではありません!お断りします!」
「じゃあその羽根を俺様に寄越せ!」
青髪の王が突然私の翼掴み羽根を毟りはじめる、
羽根はまた生えてくるが、癒しの魔法も効かないし、飛べるまでに時間掛かる、
「痛い!止めてお願い!」
毟られた羽根がヒラヒラと宙を舞う、この惨状がなければ、まるでそこに天使が舞い降りたと勘違いする程だ、談笑していた婦人達はあ然としながらこの状況を見ると、次々と悲鳴を上げ部屋の隅に逃げて行く、
紺色髪の男もこちらに急いで駆けつけ、青髪の王を羽交い締めにする、
「兄さん止めて!」
「偉そうに俺に指図するな!ハマル!青髪でも無いくせに!」
青髪の王は弟を思いっきり突き飛ばす、
ハマルは突き飛ばされ身体が壁にぶつかる、紺髪を前に垂らしグッタリして意識を失ったらしい、トラルが側にきて衛生兵を呼んでいた、
周りの貴族達は帝王が、客人の羽根を毟り王弟を突き飛ばした事で騒ぎ出した、
「おい!誰か王を止めろ!」
「王は止まらない!この国はまた罪を・・・」
「王は空の人は客人だと言っていた筈だ」
翼を毟る事に飽きたらしく、ニヤニヤしながら次のターゲットをドレスに変更する、青髪の王は私の手を払おうと手を伸ばした、
帝王が私の手を払おうと手を出す、
私が帝王の手を払う『本当に鬱陶しい!』
手を出す、手を払うの攻防の末に、青髪の王に一瞬の隙を見せてしまい私の手を払われそうになった時に私は目をギュと瞑ってしまう、
私の肩に大きな布がフワリと掛けられ、同時に青髪の王の手が上に上げられた。
青髪の王は「ウギャ!痛い・・・これからが楽しいのに、何をする!」と声を荒らげる、
私は助かったと思うのと同時に助けてくれた人は誰?と思い見上げる、
体格はしっかりとしていて、気品ある上質な服を着こなし、少し暗い茶色の髪は私を助けた事で少し乱れたらしい、前髪が紫色の瞳に掛かりそうだった、その紫の瞳は鋭い視線は青髪の王を睨み付けていた。
「アウスト!あれは俺の装飾品であって、俺の所有物だ!俺の自由にして何が悪い!」
アウストと呼ばれた人物は、青髪の王の手を後ろに回すとギュと上に持ち上げる、
青髪の王は声にならない悲鳴をあげる、
周りの貴族がアウストを取り抑えようとするが、アウストの両隣りには先程迄居なかった赤髪の厳つい顔した男と、緑髪の優顔の男が貴族を倒していく、
私はバッタバッタと倒され押さえられる貴族を見て、掛けて貰った布を押さえながら、おー凄い!と拍手していた。
「ペシャル王!女の子は翼がある空の人族だろ?!この国はまた捕まえたのか!」
「煩い!俺に指図するな!酔っ払っているから手を取られたが、俺は強いんだぞ!」
「じゃあ今から戦うか?」
「い・・・今はダメだ!」
ペシャル王は悔しそうに顔を歪ませるが、口だけは笑っている、自身の足を伸ばしアウストに蹴りを入れようとするが、逆にアウストに足を蹴られ顔から倒れた、
アウストはペシャル王を睨みつけると、ペシャル王はそのまま絨毯に倒れ込み、手が痛いと騒ぎ出す、
貴族が次々と医師を呼べと言う声にペシャル王は、「医師は呼ぶな!俺は平気だ!」と騒ぎ出した、手を差し出す周りの貴族の手を跳ね除けて、ペシャル王は肩を押さえながら玉座の方へと歩くと、どかりと息を切らして玉座に座った。
アウストは、医師は嫌だと騒いでいるペシャル王を睨み付けると、蹲っている私の方に来て私の前に座り込むとスっと手を差し出す、
「大丈夫じゃなさそうだな・・・立てるか?」
ドレスの肩紐を切られ蹲っていた私は、アウストを見上げると、首をフルフルと横に振る、このまま立ち上がるのはちょっと嫌だ、
「・・・助けてくれてありがとう、でも今立ち上がると・・・その・・・ドレスが・・・」
「あー悪い・・・ちょっと失礼するよ」
「えっ?!ひゃ!」
アウストは布を巻き付けた私を軽々抱き上げると、抱っこする形になった、私の顔とアウストの顔の距離が凄く近くて、それによく見るとカッコイイ、
アウストの紫の瞳がとても綺麗で、何だろ?この気持ち・・・恥ずかしくて視線を思わず逸らす、何だか顔が熱く・・・頭もフラフラする、
私は巻き付けた布が落ちない様に布をしっかりと持ち、毟られた背中はまだ痛いけど、翼に着いた水分を払う為に翼を無理に広げた、
白ワインがキラキラ辺りに落ちて、羽も数枚青い絨毯に落ちる、
いきなり翼を広げた私にアウストは驚いた顔をしていたが、私を抱きかかえたまま部屋を出る為歩き出した。
歩き出したアウストを見たペシャル王は、ワナワナと怒りに震えると、痛めた肩を手で押さえながら、荒々しく玉座から立ち上がった、アウストを激しく睨みつけ王らしからぬ荒々しい声で問う、
「どこに行くつもりだ!それは俺の物だ置いていけ!」
アウストは後ろを振り返るとペシャル王を睨みつける、周りの貴族達は私達を囲むが、紺色髪の人が貴族達を退かせる、
「どこって?決まっているだろ!この子を帰すんだよ!この女の子は物じゃない!人だ!」
そのまま扉から出ていき、アルゲティは酔っ払って寝てしまった。私の意識も暗転していく、
そこで今日の私の夢は終わった。
眠りながら泣いてる人物はアルゲティで、私はまた夢の中にいるらしい、
瞼が重く目が少し腫れぼったく感じて、私は涙を流していないのに、頬に流れるリアルな感覚に不安を感じていた、
私は頭を抱えた、アウラに連れて来られた部屋は魔法の類いは掛からないと言われ、寝る前いつも掛ける安眠魔法を今回は掛けていない、
それに本日2回目のアルゲティの夢だ、
私の気分はどん底まで下がってしまった。
私はアルゲティが何故泣いていたのか分からないが、泣き疲れ寝てしまったのだろう、今のアルゲティはスヤスヤと寝息を立て眠ていて、余程疲れたのか深い眠り迄落ちている、滅多な事では起きなさそうだ、
『今迄無かったタイプの夢?それにしてもアルゲティの涙が流れ落ちる感覚まで分かるなんて・・・』
私が見てきた夢は、まるで映画館に行きアルゲティの夢を鑑賞していた。
今回は体感型らしいアトラクションか!と突っ込みたくなる気持ちを押さえる、
いつも見るアルゲティの夢は翼が生えている事さえ分からない程なのに、今日は酷く重く感じる、背中はミシミシと地味に痛く首にも違和感がある、
今回の夢は体感型で私は頭を抱え考えようとしたが、考えた所で夢が覚める訳では無い、それでもモヤモヤと考え込んでしまう、
私があーでも無いこーでも無いと考えてる間に、アルゲティが目を覚ました。
まだ頭が起きていないらしく目が半開きでぼっーとしていてる、
暫くぼっーとすると、頭が起きてきたのか上掛けを足元に退け、手を上にあげ大きく伸びする、
私の意識とは関係なく、アルゲティの手が伸びたので私は体感出来るだけらしい、
『よく寝た・・・』と伸びをしながらアルゲティは思ったらしい思っている事まで凄く分かる、
アルゲティは豪華なベッドで上半身を起し、キョロキョロと辺りを見る、ベッド脇には水差しが木のコップと一緒に置いてあり、窓には上質とひと目で分かる薄手のカーテンが引かれ、太陽の光が無い事から今は夜だが、この部屋からは月は見えないが、その代わりに夜に鳴く鳥がホーホー鳴いていた。
アルゲティは夜だと分かるとぎょとして口を尖らせた、『ちぇー朝の内にミューを呼び出して、ここから逃げ出そうと思ったのに・・・仕方がない夜中逃げ出すか』と内心で呟いている、先程迄泣いていたのに切り替えが早い!と私は思い苦笑いしてしまう、まぁ・・・今の私は意識だけだけど・・・
私は夢で見た青髪の王に捕まった後だと直ぐに分かる。
青髪の王のニヤケ顔と笑い声が脳裏に蘇るがそれを頭の隅に追いやる、
その間もアルゲティはキョロキョロしていて、喉が乾いたらしい、先程見つけた水差しの側迄行き水差しの中を覗きこむ、水の中にはスライスした果物が入っていて、アルゲティは水をコップに入れて飲んだ、水は少し酸味があり口の中がさっぱりする、涙を流し出た水分が身体の隅まで潤う感じがする、鼻から柑橘系の爽やかな香りが抜け出る、
「美味しい・・・」『レモンみたい・・・』
私はレモン水みたいだと思ったが、口に出た言葉は違う、声はトゥカーナの声では無い。口は勝手に動きアルゲティが見た事や感じた事等も分かる、
私はこのままアルゲティを体験してみる事にした。何かが分かると信じて・・・
それにトゥカーナはトゥカーナであり、
アルゲティはアルゲティなのだろう、
私は過去に何があったのか知りたくなった。
前々から感じていた1番の謎、それは何故アウストラリス王国は守り神でもあるアルゲティの話しを知るのは、王家のみとして隠しているのか・・・これは私の怖いものみたさである、
今回も記憶を見るだけにしよう、そして余り干渉しないようにしたい、
誰かに呼ばれれば感情を感じる事もなく見るだけになるだろう、過去に何度も経験した事であり、今回は勝手が違うだけと自分に言い聞かせる、
◆
※お知らせです。ここから先『』はアルゲティの心の声になります。分かりずらくてすいません・・・
◆
私は逃げ出す為の情報が欲しくて、キョロキョロと周りを見た、視線の隅に黒髪の人物が居る事に気が付き、視線をそちらに向けた、
黒髪の人物は黒色の従者服を着ていて、背は高く身体は細身だが肩幅は広い、特徴的なのはその赤目で私が視線を向けても、じっと私の事を見ている、『なんなのこの子』私も負けじと見る、
黒髪の男は見た目は14~15歳程の容姿に見えた、黒髪はカツカツと靴を鳴らしながらこちらへ来る、
「アルゲティ目が覚めたか?王がお呼びだ」
「何よ!私に何させるつもりなの?」
「ミルア、アルゲティの着替えを手早く頼む、着替えが終わったら扉を叩け」
ミルアと呼ばれた少女は、背丈は私より頭1つ高く、膝丈程の長さの黒いドレスを着て、腰には可愛らしいフリルが着いた白いエプロンを着けている、少女は錆色の髪を揺らし頭を下げていた。
私の質問には答えず、黒髪は私に背を向け足早に扉から出て行った、
『人の話を聞きなさいよー!』
イライラして、ヒィヒィフゥー・・・と息を吐き気持ちを落ち着かせる、
ミルアは表情を変える事も無く、扉に頭を深々と下げ黒髪の従者を見送り、頭を上げ私の側まで来ると、慣れた様子で服に着いたボタンを外し始めた。
「私1人で出来るわ、自分で服も着られるから!」
「アルゲティ様申しわけございません、それは聞けません私が帝王様に怒られます。」
「分かったわ・・・でも着替えを手伝って貰うなんて子供みたいで恥ずかしいわ・・・」
ミルアは私の服を丁寧に脱がせると、その服を籠の中に入れた、私は肌着だけになると初夏なのに少し肌寒いと感じるが、一緒に居るのは女の子とはいえ急に恥ずかしくなってきた、恥ずかしくて胸を片手で隠し、おへその下をもう片方の手で隠し身体を少しねじる、羞恥からか顔は熱く感じる、
ミルアは私に構わずドレスを準備していて、
私はミルアが持つドレスをガン見する、
上質な生地を使った真っ赤なドレスで、胸を美しく見せる事が出来る様Vラインであり、袖は無くノースリーブタイプで、翼が入る様に背中は大きく開いている、
スカート部分は細くスリットは太腿迄大きく入り、その胸元には青糸で花の模様が施されてかなり露出度が高い、
ミルアは下着を準備していて、ドレスに合う下着を着けると言う、流石に下着は自分でするとミルアに言うと、「ではお願いします」とすんなり意見が通りホッとして、サッと下着を着ける、
ミルアはドレスを慣れた手つきでテキパキと着せていく、ドレスは私の翼も無理なく通ったのでホッとした。最後に魔法封じの首輪を隠す為に、首に薄手の赤い布を巻き付け完成したらしい、背中に布がヒラヒラと当る、
ドレスを着て分かった事は、最近大きく成長した所が少しキツイ、私は上からチラリと胸元を見て少し胸元の布を上にあげる、Vラインの胸元は柔らかな白い肌が谷間を作り、ドレスから溢れ出そうになっていた。
「このドレス脚が出過ぎじゃない?それに胸が苦しいわ、このドレス変えられない?」
「確かに胸の部分がキツそうですね、アルゲティ様申しわけありません、帝王様がアルゲティ様には是非このドレスをと仰いました。アルゲティ様・・・とても美しいプロポーションですね、さぞかし帝王様もお喜びになるでしょう。」
『もしかしてこのドレス・・・帝王の趣味とか?』
モヤモヤと考えた結果最悪な結論にたどり着いた。
「ミルア・・・私は今から何処へ行くの?まさか一緒に寝ろとか言わないわよね?!」『絶対に嫌!』
ミルアは無表情で淡々と答えるが、アルゲティの心の声は絶対に嫌の一択でだった。私も嫌だ一択だわ・・・
「アルゲティ様ごめんなさい・・・私はどこに行くのかは存じません、髪を整えますので翼を少し横に広げて下さい、」
ミルアは泣きそうな顔をして頭を下げた、
私は慌てて手を前に出し手を横に振る、ミルアは悪くないよ、それだけ言うとミルアの要望に答える為に手を動かす感じで、今は少ししか動かない翼を横に広げる、
『私が悪者みたいじゃない・・・』
ミルアは私にまた深く頭を下げるのと同時に涙も拭き取る、私は見ない振りをした。
ミルアは顔をあげ、私の周りをクルクルと回る、その回る仕草が可愛らしく見えつい笑ってしまう、
ミルアは笑っている私を見て可愛らしく口端をキュと上げると、
その後私の髪を持ち上げてみたり、そのままにしたりとしている、
ミルアはその後無言になると、クシを使い私の髪を手早く整えていく、
「アルゲティ様の髪は長くて綺麗で艶かですね、髪は編み込んで上にあげましょう、帝王様はうなじがお好きなので喜びます。」
「お願いするわ、髪の手入れは怠らなかったの、後・・・最後の情報は要らないかな・・・。」
私はされるまま髪をセットされ、最後に豪華な金細工の髪飾りを着ける、
最後にもう一度ミルアがクルクルと私の周りを見て完成したらしい、ミルアは満足そうに頷く、私も見たかったがこの部屋に姿見が見当たらず断念した。
そのままミルアと一緒に扉の前に立つと、ミルアは内側から扉をノックした。
すると扉が開き黒髪の男の人は、私を見る様に上から下へ目線を動かし、納得した様に頷く、
「アルゲティこれを飲んでおけ、」
小さなコップに入った色が緑の謎液体を渡される、私は眉を寄せるとこれは何?と黒髪に聞く、
「変な薬では無い痛み止めだ、昨日変な体勢で寝ていただろう、痛むならと思っただけだ、」
「黒髪さんありがとう・・・飲むわ」
黒髪と呼ばれ眉を寄せ思いっきり怪訝そうな顔をして、私の顔を顰め面で見る、
私はそれをスルーして、女は度胸だとそれを飲み干す、緑の液体はそれ程酷い味ではなく、私は好きな味で何だか数種類のハーブぽい味、例えるならハーブティーより少し味が濃い感じかな?父様が良く入れてくれた味にも似ている、
父様がお茶を入れると茶葉の加減が分からず濃い味になるのを思い出した。『ふふっ』
私は空のコップを渡す為に黒髪を見ると、俯き手を組んで、何かボソボソと言っていた、私はよく聞こえず耳を澄ませるが、次に聞こえた声は先程よりは大きく聞こえた、
「・・・トラルだ速く行くぞ、あの部屋は魔法は一切使えない、昔空の人に頼んで魔法を掛けて貰ったらしいからな、使える者が少ないが精霊魔法も使えない、」
「・・・魔法なんて使わないわよ、」
ちぇー精霊魔法も使えないのかと唇を尖らせる、空気中の魔力で飛ぶミューも呼べないじゃないか・・・、
私はトラルの後を歩き、キョロキョロと辺りを見る、窓の外は緑が豊かで花々が綺麗に咲き木々は整えられている、私がキョロキョロしていて、目的地に着き立ち止まったトラルの背中に顔をぶつけ鼻を押さえ擦る、地味に痛いが鼻から何か出てないか鼻を触った手を咄嗟に見た。大丈夫何も出てない・・・
トラルはそんな私の事を呆れ顔で見ているが、私は気にしない、一々気にしたら負けだと母様が言っていた。
「着いたぞ」
その扉は上質で細やかな細工が施され、見ただけでも、城の中で1番の豪華な扉の向こうに誰が居るかなんて子供でも分かる、謁見の間だ、
大きな扉の前にゴツイ鎧を着た兵士がいて、その兵士は私の姿を見て目を見開き驚き、それと同時に
私はジロジロと見られている事に不快感を覚え、眉を寄せ顔を下にさげようと床を見る、
トラルはすかさず私の顎を掴み上げる、
私はビックリして変な声が出そうになったが、なんとか耐えた、
トラルは私の顎を掴んだまま私の目を見る、
その赤い目は何かを訴える様にも見えた、
「いいか絶対に顔は下げるな、何を言われてもニコニコと笑っていろ、早く解放されたく無いなら別だ」
「・・・分かったわ」
重そうな扉はトラルの手で開けられる、徐々に中の風景が見えてくる、
まず見えたのは毛脚の長い青い絨毯、複雑な模様が施されていて、
次に見えたのは青髪の王が怠そうに座っている玉座、上を見れば豪華なシャンデリアがキラキラと輝き、周りを見れば豪華な服や煌びやかなドレスを着た貴族が大勢いた。『何よこれ!まるで私見世物みたいじゃない・・・』
閉まっていた扉が開いた事で、貴族達の視線は私に向けられた、
いつの間にか移動していたトラルは、扉の端で恭しく私に頭を下げている、
開いた扉の横にまた違う男の人がいた。青髪の王の兄弟だろうか?端正な顔つきが似ていて、髪色は黒では無いが青でも無い色、紺色だろうか?その人物が朗々と話し出した、その声は低音で遠くまで耳に届く声だ、
「紹介しよう先日空の人族が久しぶりにこの地に降り立った、アルゲティ様を王は是非にとこちらに連れて来られ、我が国の客人として迎え入れた。」
「えぇっ?」
「先程言った事覚えてるよな?」
客人と言われ私はびっくりして声が出た。私は青髪の王に装飾品だ!と言われた事を思い出す、
トラルは頭を下げながら鋭い視線を私に向ける、
その有無も言わせず視線に、私はコクコクと頷いた、
貴族達はグラスを持ち、部屋の両端で思い思いに話に花を咲かせている様だった。
私の姿を見た人々は、私の姿に驚愕としたり、頭を寄せてコソコソと何か言っている、
私の翼に触れようと私に近づく者も居たが、
それらはトラルと紺色髪の男が、近づか無い様にしていてくれた、
私は言われた通り頭を上げて前を見る、
両口端を釣り上げ妖艶に微笑み周りの貴族達をゆっくりと見る、『キー!私が逃げたら覚えとけよ!』仕上げに更にニッコリと笑う、
青い絨毯の上をゆっくりと歩き出す、
談笑していた貴族達は話を止め、見蕩れた様に私の姿をじっと見ている、
金色の豪華な模様が施された椅子に青髪の王は、横柄な態度で長い足を組み座っている、
微笑みながら歩く私の身体を、ゆっくり舐め回す様に見ては、ニヤニヤと笑いながら舌なめずりする、
『コイツやっぱり気持ち悪い!』眉が寄らない様に気を付けゆっくり歩く事だけに集中した。
「アルゲティこっちに来い」
「はい」『絶対に嫌ー!』
気持ちとは裏腹でなくちゃと、私は自分でも気持ち悪いと思う位にニッコリと笑った。そして青髪の王が言った通りにしなければ解放される日は遠くなる、そんな事を言われたら微笑みでよければあげるわ、
アルゲティの心の中は祈るような気持ちだ、
『早く解放されたい・・・
久しぶり(50年振り)にお家帰りたい、
母様の美味しいご飯食べたい、
父様にも会いたい、
ミューと笑いながら下らない話しをして、また飛び回りたい、
次は捕まらない様に気を付け旅をしたい、』
私が側に行くと腰を強く抱き寄せ、耳に息を吹きかけ背中をツーっとなぞる、『ギャー!気持ち悪いし酒臭い!』
青髪の王は視線を下へずらし舌なめずりして見る、翼がピクリと強ばる、
『やだ翼に感情が出るなんて久しぶりね、相当気持ち悪いわ・・・こいつ』
前に空の人は翼に感情を出さない様に訓練すると、夢の中で聞いたわ、貴族も空の人も大変だとトゥカーナはウンザリした。
青髪の王は懐から小さく豪華なナイフを取り出す、その刃が光に反射して鋭く光る、私は顔を強ばらせそれを見る、
素人目から見てもそのナイフはよく手入れされているのが分かる、
今そのナイフ出して何に使うの?私は青髪の王が持っているナイフをマジマジと見ていると、青髪の王はある一点を見て意地悪くニチャリと笑う、
「お前のドレスキツそうだな、俺がサイズを直してやろう!ありがたく思えよ!」
青髪の王は、私のドレスの肩布を掴むと、小さなナイフで肩に掛かっているドレスを切る、
パラリと肩と背中を繋げていた布が落ちていく、
「ひゃ!」
切られた瞬間は頭が真っ白になった、今はそんな場合ではないと必死に頭を働かせるが頭が余計にパニックになるだけだった。
元々背中は大きく開いているが、支えを無くしたドレスはスルリと下に落ちていく、私は胸が見えない様に赤いドレスで隠し、その場に座り込んだ、何とか間に合ったと思いっきり息を吐く、
私は流石にこの状況で笑っていられず、先程と変わらず笑っている青髪の王を睨み付けた、
私が反抗した態度だった為、青髪の王は苛立ち手に持っていたワイン瓶の中身を私にパシャパシャと掛けはじめた、「今日は良い日だ!飲め!ギャハハ」とまた笑いだす、
『このアホ!』怒りが込み上げる、
青髪の王は何とか私の手をどかそうと手を伸ばす、
私は何が可笑しいのか分からず困惑するが、必死にドレスを剥ぎとられないようにガードする、あっさりと手を引いた事にホッとした。
青髪の王は二チャリと笑うと私を見下げる、相変わらず視線は一点集中だ、『どこ見てるのよ!この変態!』私も負けじと青髪の王を睨む、
「手を退かせアルゲティ、お前の自慢の翼で身体を隠せば良いだろ?いい見世物になる!ヒャハー!」『どこかの雑魚キャラか!このアホ王!』
「私の翼はドレスではありません!お断りします!」
「じゃあその羽根を俺様に寄越せ!」
青髪の王が突然私の翼掴み羽根を毟りはじめる、
羽根はまた生えてくるが、癒しの魔法も効かないし、飛べるまでに時間掛かる、
「痛い!止めてお願い!」
毟られた羽根がヒラヒラと宙を舞う、この惨状がなければ、まるでそこに天使が舞い降りたと勘違いする程だ、談笑していた婦人達はあ然としながらこの状況を見ると、次々と悲鳴を上げ部屋の隅に逃げて行く、
紺色髪の男もこちらに急いで駆けつけ、青髪の王を羽交い締めにする、
「兄さん止めて!」
「偉そうに俺に指図するな!ハマル!青髪でも無いくせに!」
青髪の王は弟を思いっきり突き飛ばす、
ハマルは突き飛ばされ身体が壁にぶつかる、紺髪を前に垂らしグッタリして意識を失ったらしい、トラルが側にきて衛生兵を呼んでいた、
周りの貴族達は帝王が、客人の羽根を毟り王弟を突き飛ばした事で騒ぎ出した、
「おい!誰か王を止めろ!」
「王は止まらない!この国はまた罪を・・・」
「王は空の人は客人だと言っていた筈だ」
翼を毟る事に飽きたらしく、ニヤニヤしながら次のターゲットをドレスに変更する、青髪の王は私の手を払おうと手を伸ばした、
帝王が私の手を払おうと手を出す、
私が帝王の手を払う『本当に鬱陶しい!』
手を出す、手を払うの攻防の末に、青髪の王に一瞬の隙を見せてしまい私の手を払われそうになった時に私は目をギュと瞑ってしまう、
私の肩に大きな布がフワリと掛けられ、同時に青髪の王の手が上に上げられた。
青髪の王は「ウギャ!痛い・・・これからが楽しいのに、何をする!」と声を荒らげる、
私は助かったと思うのと同時に助けてくれた人は誰?と思い見上げる、
体格はしっかりとしていて、気品ある上質な服を着こなし、少し暗い茶色の髪は私を助けた事で少し乱れたらしい、前髪が紫色の瞳に掛かりそうだった、その紫の瞳は鋭い視線は青髪の王を睨み付けていた。
「アウスト!あれは俺の装飾品であって、俺の所有物だ!俺の自由にして何が悪い!」
アウストと呼ばれた人物は、青髪の王の手を後ろに回すとギュと上に持ち上げる、
青髪の王は声にならない悲鳴をあげる、
周りの貴族がアウストを取り抑えようとするが、アウストの両隣りには先程迄居なかった赤髪の厳つい顔した男と、緑髪の優顔の男が貴族を倒していく、
私はバッタバッタと倒され押さえられる貴族を見て、掛けて貰った布を押さえながら、おー凄い!と拍手していた。
「ペシャル王!女の子は翼がある空の人族だろ?!この国はまた捕まえたのか!」
「煩い!俺に指図するな!酔っ払っているから手を取られたが、俺は強いんだぞ!」
「じゃあ今から戦うか?」
「い・・・今はダメだ!」
ペシャル王は悔しそうに顔を歪ませるが、口だけは笑っている、自身の足を伸ばしアウストに蹴りを入れようとするが、逆にアウストに足を蹴られ顔から倒れた、
アウストはペシャル王を睨みつけると、ペシャル王はそのまま絨毯に倒れ込み、手が痛いと騒ぎ出す、
貴族が次々と医師を呼べと言う声にペシャル王は、「医師は呼ぶな!俺は平気だ!」と騒ぎ出した、手を差し出す周りの貴族の手を跳ね除けて、ペシャル王は肩を押さえながら玉座の方へと歩くと、どかりと息を切らして玉座に座った。
アウストは、医師は嫌だと騒いでいるペシャル王を睨み付けると、蹲っている私の方に来て私の前に座り込むとスっと手を差し出す、
「大丈夫じゃなさそうだな・・・立てるか?」
ドレスの肩紐を切られ蹲っていた私は、アウストを見上げると、首をフルフルと横に振る、このまま立ち上がるのはちょっと嫌だ、
「・・・助けてくれてありがとう、でも今立ち上がると・・・その・・・ドレスが・・・」
「あー悪い・・・ちょっと失礼するよ」
「えっ?!ひゃ!」
アウストは布を巻き付けた私を軽々抱き上げると、抱っこする形になった、私の顔とアウストの顔の距離が凄く近くて、それによく見るとカッコイイ、
アウストの紫の瞳がとても綺麗で、何だろ?この気持ち・・・恥ずかしくて視線を思わず逸らす、何だか顔が熱く・・・頭もフラフラする、
私は巻き付けた布が落ちない様に布をしっかりと持ち、毟られた背中はまだ痛いけど、翼に着いた水分を払う為に翼を無理に広げた、
白ワインがキラキラ辺りに落ちて、羽も数枚青い絨毯に落ちる、
いきなり翼を広げた私にアウストは驚いた顔をしていたが、私を抱きかかえたまま部屋を出る為歩き出した。
歩き出したアウストを見たペシャル王は、ワナワナと怒りに震えると、痛めた肩を手で押さえながら、荒々しく玉座から立ち上がった、アウストを激しく睨みつけ王らしからぬ荒々しい声で問う、
「どこに行くつもりだ!それは俺の物だ置いていけ!」
アウストは後ろを振り返るとペシャル王を睨みつける、周りの貴族達は私達を囲むが、紺色髪の人が貴族達を退かせる、
「どこって?決まっているだろ!この子を帰すんだよ!この女の子は物じゃない!人だ!」
そのまま扉から出ていき、アルゲティは酔っ払って寝てしまった。私の意識も暗転していく、
そこで今日の私の夢は終わった。
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