上 下
2 / 161

【聖女とオマケの部屋事情】

しおりを挟む
 クロナや巫女を筆頭に深海と鳴海の関係などを事深く聞き出されて、2人が双子の兄妹であることを説明してようやく騒ぎが縮小した。

 それでも訝しげな視線を深海に送る者はあるが。
 聖女の身内と言うことでどうやら深海はそれなりの扱いはして貰えそうだった。

 そして聖女召喚の儀の目的を巫女から説明される。

 曰く聖女は国が傾いたときに召喚される。
 聖女には国を繁栄させる能力が備わっている。
 世界平和のため闘う勇者召喚とは違い聖女はあくまで国のために能力を駆使する。
 歴代聖女たちは亡くなった後も崇められ王家の次に尊い宮殿にその骨が祀られる。

 その説明を聞いて深海は胸糞が悪くなった。
 自分の国の財政ぐらい自分で立て直せ、それが深海の本音だ。国が傾いたぐらいで異世界の人間に頼るな、と。
 しかも異世界から呼び出した聖女を祀る、これは聖女たちが自分の世界へ帰れなかったことを意味する。

 鳴海が気付いていない以上、深海はそれを鳴海に告げる気はないが。
 一通りの話を聞いて、夕食まで部屋で過ごして下さいとクロナに案内されることになった。
 こうして聖女鳴海様とおまけ深海の2人はしばらくこの王宮へと滞在することとなった。

「ナルミ様はこちらのお部屋に」

 先を歩くクロナが大きな扉の部屋に鳴海を案内した。
 扉を開けると5つ星ホテルのスイートルームのような豪華な家具や大きなベッド、それを置いてもまだ有り余るスペースの綺麗に掃除された大きな部屋だ。

「凄い、私こんな部屋泊まるの初めてだよ」

 少し鳴海が嬉し気な声色を出す。

「それではフカミさんはメイドにお部屋の方を案内させますので」

「え?ふーちゃんと私一緒の部屋じゃないの?」

 鳴海の目がウルウルと涙を溜める。
 それはそうだろう。
 見知らぬ世界で1人で過ごせなどと気の弱い鳴海にとっては拷問にも等しいことだ。

「しかし、幾ら御兄妹とは言え異性と同じ部屋と言うのは…」

「私ふーちゃんと一緒の部屋じゃなきゃやだよぅ」

 はらはらと大きな目から涙の雫が落ちる。
 それをクロナもメイドも声も出せずに見入っていた。
 無垢な少女の涙のなんと美しいことか。
 その事に深海がちょっと優越感を抱く。
 自分の片割れはクロナにも負けない美少女だろうと鼻が高い。

「しかしこの部屋は王族や高位の貴族、または召喚による世界に加護の受けた勇者様や聖女様しかお泊りになれないこととなっています。フカミさんにもちゃんと別にお部屋をご用意するのでナルミ様はこのお部屋でお疲れをお癒し下さい」

 クロナがニコリと微笑む。
 なんとしても深海をこのVIPルームには入れたくないらしい。

「このお部屋がふーちゃんと泊まるのがダメなんでしたら私がふーちゃんのお部屋に泊まります」

「そ、それは」

「メイドさん、ふーちゃんが泊まる予定の部屋に案内して下さい」

「え、あの、でも、クロナ様、どうしたら…」

「分かりました。聖女様のご血縁と言うことで特例としてフカミさんにもこの部屋に泊まる許可を下します。
それで宜しいですかナルミ様?」

「はい!良かったねふーちゃん。離れ離れにならずにすんだよ」

「そだねー」

 鳴海には悪いが適当な返事になってしまう。
 深海が泊まる部屋に鳴海を案内できなかったと言うことは恐らくこの部屋とは天地の差のお粗末な部屋に案内させる気だったのだろう。

 それが分かっているから深海はこのクロナと言う少女が好きになれなかった。
 どうやらクロナにとって深海はかなりの嫌悪対象のようだ。
 顔にこそ出さないが行動の端々でそれが分かる。
 おそらく深海が召喚に巻き込まれたことで召喚は失敗とみなし大層高いプライドが傷ついたようである。
 いわゆる王家の威厳が、と言ったところか。

 はっきり言って深海にとって面倒くさいことこの上ない。
 勝手に召喚して失敗だからと疎まれて、この自分を嫌悪しているお姫様に一杯食らわせたい気持ちでいっぱいだ。

 だが今はまだ動く時ではない。
 召喚が失敗だった以上、聖女の能力が備わっていない可能性もある。
 聖女であるべき人材ではなく深海も鳴海も望んでいた人材で無かったパターンだ。
 その可能性がある以上今は権力者の庇護下に入るしかなかった。

 少なくとも帰れないことも見こうしてこの世界で生きていけるだけの能力が備わるまでは鳴海に聖女様でいて貰わないと深海も困るのだ。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜

にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。 そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!? 滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。 しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。 2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...