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2章

【227話】

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「さて、病院に着いたが、工場よりもこちらの方が守りが堅そうだな。頑丈な建物だし水も食料もある。それに薬があるのは助かるな。ベッドも疲れをいやすのに最適だろう。こちらに皆で移動する方が良さそうだ」

「え、では此処まで『神狩り』全員で引っ越しですか?」

「そう言う事だ」

「でも、非戦闘員を連れて…ここまで来れるでしょうか…………?」

 気弱そうな青年がそう言う。
 魔術で土属性を得意とする青年である。
 己の身は護れても、他者を護れる余裕があるほどの実力はまだ無い。
 不安になるのも当然だろう。

「私が『神狩り』の皆を護ろう。その言葉だけでは不安か?」

「いえ、大丈夫、です………」

 鈴蘭に瞳を覗き込まれた青年は真っ赤になった。
 美しい鈴蘭の顔は性別を超えて他者を魅了する。
 青年もその美貌に耐えれなかったのだろう。
 顔や耳だけでなく、体全身が真っ赤な茹蛸状態だ。
 誑しここに極まりだ。

(鈴蘭さん、ほんま人誑すの上手いなぁ)

 ミヤハルは心の中で思った。
 幸いミヤハルは鈴蘭の魅力に陥落させられていない。
 綺麗だとは思うが、何故か身内に感じる安心感の方が強く出てるので、そう言う眼では見れないのだ。
 鈴蘭の正体は謎だ。
 ミヤハルから見て鈴蘭は明らかにこの世界に最初から居た存在ではない。
 こんな規格外の存在がその辺にポンと居た訳ないのだ。
 居たら誰もが放っては置かないだろう。
 何らかの形で世界的に有名になっただろう。

 そんな不審者の鈴蘭に、ミヤハルは安心感を覚える。
 ユラといる時と似た安心感だ。
 強くて護って貰えるからではない。
 多分、鈴蘭が無力でもミヤハルは鈴蘭に好意を抱いただろう。

(鈴蘭さん、何者なんやろうなぁ…?)

 ガタンッ

 病院内を探索していたら、バックヤードから何かが倒れる音がした。
 魔物では無い。
 鈴蘭が警戒していないからだ。

「ミヤハル、見て来てくれるか?」

「おん、ええで」

 自分が指名されたことに疑問は無い。
 子供なら相手も恐れないからだろう。
 無力な子供なら一般人でも安心感を得るだろう。
 ミヤハルはそこいらの子供とは違い化け物じみた戦闘能力を誇るのだが。
 それは見た目からは分からない。

「誰かおりますか~?」

「その声、遥ちゃん?」

 カートの影から誰かが出てくる。
 それはミヤハルの知った顔だった。

「え、大海おばちゃん!?」

 出てきたのミヤハルの親戚である漣大海であった。
 まだ誰も知らない事だが、鈴蘭の時代に『大聖女』と呼ばれた伝説の聖女、漣深海の母親に当たる人物であったのだった。
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