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《135話》

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「アラ、ダンジョンに潜るぞ」

 唐突にセブンが言った。
 現在お茶の時間である。
 サラは美味しいシフォンケーキをモグモグしていたので、ゴクンしたから口を開いた。
 偉いね。

「ダンジョン、何故、潜るです?」

「お前の実力が見たい」

「実、力………?」

 サラがキョトンとしている。
 意味が分からない。
 セブンは何故に急に己の実力が見たいと思ったのだろう?
 それが顔に出ていた。

「サラちゃん、アホロ王子投げたでしょ?それでサラちゃんの戦闘能力に興味をもったみたいよ?」

 ポン、とサラが手を叩く。
 リアクションが古い。

「アレ、ですか…別に隠していた、訳じゃ無い、ですよ………?」

「で、お前どれくらい強い?体術だけでどれくらいだ?」

「まぁ最高、で、トロール1対、です。流石に群れは、潰せ、ません」

「「いやいやいやいや」」

 素手でトロールを倒すなど上級の武道家並みの能力である。
 と言うか、トロールより弱ければ群れを潰す能力があるのか。
 恐ろしい事を聞いたとセブンとナナは視線で会話した。
 付き合いが長いだけある。
 突き愛はした事ないが。
 それはもっぱらエロンハルトの役目である。

「戦うの、見せる、は良いです。でも、ダンジョンには、入らない、です」

「何でだ?」

「話せば、長くなる、の、ですが………」

 その後のサラの話は確かに長かった。
 主にサイヒの素晴らしさを語るのが内容の9割だったからだ。
 要約すると、

 ・ダンジョンは魔物の住処である
 ・そこ勝手に入って暴力を奮う、又は命を狙うなどは押しかけ強盗と同じである
 ・人に危害を加える魔物以外はむやみに暴力を振らない

 と言うのがサイヒの教えらしい。
 教えと言うか、サイヒのモットウをサラが自分のモットウにしていると言った方が正しい。
 なので会話の内容がサイヒの話題で独占された訳である。
 主にサイヒの魅力的なところについて。
 話を聞いてセブンとナナは相変わらず規格外の化け物だと身を震わせた。
 神になる前からドラゴンの群れで殺気を放つだけで、ドラゴンが腹を向けて服従のポーズをとり失禁しているなんて何の冗談かと思う。
 本物を見たことが無ければ。
 だが1度サイヒに会うと納得もする。
 アレは化け物である。
 神になる前から化け物であったとは………。
 
 そんなサイヒに可愛がられているサラに変な事をしたら、確実に神罰が下ろう。
 その内アコロ王子にも神罰があるだろう。
 サラが暴力を使ってまで拒否した人物。
 何も無い訳がない。

 セブンとナナはこっそり胸の中でアコロ王子に「ま、頑張れや」と手を合わせた。
 今から神罰が楽しみでたまらないのは胸の内に隠す予定である。

「じゃぁレオンだな」

「え、レオ!?彼宰相でしょ!!」

「あいつ騎士団長と宰相の両方オファーが来て、男ばかりはむさ苦しくて嫌だから、と言う理由で宰相になった男だぞ?戦闘能力はそこいらの冒険者より遥かに強い」

「だからあんなに体力があるのね……」

「いや、ソレはただの女好きだ」

 ムカッ。
 ナナの胸が何かムカついた。
 女好き、そうレオンハルトは女好きである。
 今更分かっていた事なのに、いざ口に出されるとムカつくのは何故だろう?
 本当に無自覚の集まる診療所である。

「手合わせ、なら、良いです」

「そうか、じゃぁ次の日曜に俺の邸の庭で組手でもしろ。ちゃんとご褒美に好きな物作ってやる」

「好きな物!?」

「どの料理でも良いし、デザートでも良いぞ?好きなだけ作ってやる」

「す、好きな、だけ……」

「サラちゃん涎、涎」

 ナナが置いてあった紙でサラの口元を拭いてやる。
 案外良いお姉さんをしている。
 もしかしたら良妻の素質があるかもしれない。
 レオンハルトがその1面を見たら喜ぶことであろう。

「何食べたいか前日までに決めておけよ」

「はい、で、す!」

 もうサラの頭の中は好物で埋め尽くされている。
 その好物はセブンの手作りのモノばかりである。
 すっかり餌付けが完了していて見事なものだ。
 もうサラはセブンの傍を離れて生きていけないだろう。
 セブンの無意識の包囲網が功を成し遂げたのである。

 後はお互い自覚を持つだけなのだが…。

 それはまだまだ先の話になりそうなのであった。
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