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《13話》
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「神殿から神官様が来られたぞ!」
診療所に大きな声が響いてきた。
声は聞くものによっては高慢さを感じるだろう。
よく言えば威厳がある、だが。
「患者は何処です?」
青のローブに錫杖を持った20代半ばの神経質そうな神官が診療所に断りもなく入ってくる。
診療所に居る兵士たちはモーゼの十戒の如く道を空ける。
そして寝台に座っている兵士を見て、神官は訝し気な表情を浮かべた。
「右腕が切断された怪我人が居ると聞いたのですが?」
「あ~それなら今日からウチの従業員になった治癒師が治した」
医師がバカにしたようにニヤニヤ笑い神官に答える。
どうもこの医師、人をくってかかる事が好きなようだ。
「馬鹿にしているのですか?一介の治癒師に切断した腕を繋げれる訳が無いでしょうが」
「それが、ウチの従業員は優秀なんでね。一瞬でピタッとくっ付けた訳だ」
「一瞬?大法螺は人を選んで吹くことですね。切断面の癒着など我々神官でも30分はかかります」
「んじゃ、ウチの従業員がおたく等神官よりも優秀って訳だな。悪いね神官様、せっかく来て貰ったが用無しだ」
「冗談はほどほどにして頂きたいのですが、ならその治癒師は今何処に?」
「あ~今糞しに便所に籠っているところだ。他人の怪我は治せても自分の下痢が治せないとは治癒師も不便なこった。やっぱりこー言う時の為に医師も必要だな、うんうん」
医師の言葉に神官はギリィと奥歯を噛み締める。
医師の言う通り、法術は怪我は治せても病気は治せない。
だからこそ法術こそ神に与えられた恩恵と信じている聖職者は、医師と言う物が嫌いなのだ。
神の加護でも治せないモノを治して見せる。
聖職者と医師と言うのは互いに嫌悪しあう対象なのである。
「貴方が怪我人ですね?この医師の言っている事は本当ですか?」
兵士が自分に話が降ってきて慌てて答える。
「はい、灰色のローブを着た少女の治癒師が治してくれました」
「一瞬で?」
「はい、一瞬でした」
「嘘は…言っていないようですね……」
周囲を見渡して、診療所に詰め掛けている兵士たちが全員で神殿を謀ることはしないだろうと神官は認識した。
「それで、その治癒師は何と言う名ですか?」
「アラだ」
「……聞いたこと無い名ですね…アラ、覚えておきましょう」
「おう、とっとと帰れ帰れ。神官様はお呼びじゃないんだよ」
「本当に、品性の欠片も無い…では失礼いたします。此処に居る皆に加護があらんことを」
最後に祈りの言葉を紡ぐと神官は馬車に乗り神殿へ戻って行った。
「やっと帰ったか糞神官…で、お前は何をしているんだ?」
寝台の下で身を潜ませていたサラに冷たい声を医師は発した。
「うぅぅぅ又名前に蟻が混じってました…結果的には良かった、ですけど。でも下痢は酷い、ですぅぅ」
「何だお前神殿関係者か?」
「この間リストラされたところです…」
「訳アリか?」
「訳アリ、です」
ジッと視線が絡み合う。
高い位置と寝台の下からと。
端から見ると謎の光景だ。
「まぁ良い。採用は取り消さん。今からでもバリバリ働けアラ」
「蟻が混じってもう治らない、ですね…でも一応面接を……」
「面接はいらん。腕なら十分見せて貰った。あれだけの【治癒】の術が使えて医学知識もあるなら文句はない。蟻でも豚でも雇ってやる」
「蟻でも豚でもない、ですぅぅ…て、何で医学知識がある事分かったです、か?」
「腕を繋ぐ前に生理食塩水で切断面を洗っていただろう?普通の法術の知識しかない治癒師ではそこまで考えられない。
あくまで治すことに特化しているからな治癒師は。神経の回路に関しても小娘の治癒師がそこまで考えて法術をかけれるとは思えん」
「良く見ている、ですね」
「医師には広い視野が必要だ。治癒術だけでは診療所は開けん、小さい診療所でもな」
「先生、柄は悪いけど良い人、ですか?」
「疑問形やめろ。俺はこれ以上ないほど良い人だ」
「では、これからよろしくお願いします、です」
「あぁ後で従業員の自己紹介もしよう。ただ今は治癒に専念してもらう。怪我をしているのは団長さんだけじゃないからな」
確かに団長の腕の怪我で皆が興奮していたが、皆ぼろぼろである。
鎧は傷だらけだし、着ている人間の肌も傷だらけだ。
流石に鎧の傷は治せないが、人の怪我なら治せる。
「そこのエロナースの指示に従って怪我人の怪我を治していけ」
「了解、です」
「一段落したら休憩時間に紅茶とクッキーを出してやる」
「やりまふっ!!」
コレが終われば紅茶とクッキー!
コレが終われば紅茶とクッキー!!
コレが終われば紅茶とクッキー!!!
サラに紅茶を飲んだ経験もクッキーを食べた経験も無い。
紅茶とクッキー…なんて甘い誘惑なのか。
「神よご加護を【治癒】」
白い光が診療所を包み込んだ。
「なっ!?」
「傷が塞がった!?」
「体も軽くないか!?」
「腰痛迄治ってるぞ!!」
兵士たちが驚きの表情を浮かべながら騒めく。
「初級の【治癒】の術式で広範囲回復だと…何処迄出鱈目なんだあの娘……」
美味しいお茶と甘いクッキーに想いを馳せて、サラは一気にその場に居たものを治療した。
初級の【治癒】で広範囲回復など出来る者が居ないなど、サラは知らなかったのだ。
何せ常識を教えてくれる者が存在しなかったから…。
サラが全員を治したので、すぐに休憩のお茶の時間となった。
(紅茶にクッキー紅茶にクッキー!!)
垂れそうになる涎を堪えて、サラは初めてのお茶の時間を体験する事となった。
診療所に大きな声が響いてきた。
声は聞くものによっては高慢さを感じるだろう。
よく言えば威厳がある、だが。
「患者は何処です?」
青のローブに錫杖を持った20代半ばの神経質そうな神官が診療所に断りもなく入ってくる。
診療所に居る兵士たちはモーゼの十戒の如く道を空ける。
そして寝台に座っている兵士を見て、神官は訝し気な表情を浮かべた。
「右腕が切断された怪我人が居ると聞いたのですが?」
「あ~それなら今日からウチの従業員になった治癒師が治した」
医師がバカにしたようにニヤニヤ笑い神官に答える。
どうもこの医師、人をくってかかる事が好きなようだ。
「馬鹿にしているのですか?一介の治癒師に切断した腕を繋げれる訳が無いでしょうが」
「それが、ウチの従業員は優秀なんでね。一瞬でピタッとくっ付けた訳だ」
「一瞬?大法螺は人を選んで吹くことですね。切断面の癒着など我々神官でも30分はかかります」
「んじゃ、ウチの従業員がおたく等神官よりも優秀って訳だな。悪いね神官様、せっかく来て貰ったが用無しだ」
「冗談はほどほどにして頂きたいのですが、ならその治癒師は今何処に?」
「あ~今糞しに便所に籠っているところだ。他人の怪我は治せても自分の下痢が治せないとは治癒師も不便なこった。やっぱりこー言う時の為に医師も必要だな、うんうん」
医師の言葉に神官はギリィと奥歯を噛み締める。
医師の言う通り、法術は怪我は治せても病気は治せない。
だからこそ法術こそ神に与えられた恩恵と信じている聖職者は、医師と言う物が嫌いなのだ。
神の加護でも治せないモノを治して見せる。
聖職者と医師と言うのは互いに嫌悪しあう対象なのである。
「貴方が怪我人ですね?この医師の言っている事は本当ですか?」
兵士が自分に話が降ってきて慌てて答える。
「はい、灰色のローブを着た少女の治癒師が治してくれました」
「一瞬で?」
「はい、一瞬でした」
「嘘は…言っていないようですね……」
周囲を見渡して、診療所に詰め掛けている兵士たちが全員で神殿を謀ることはしないだろうと神官は認識した。
「それで、その治癒師は何と言う名ですか?」
「アラだ」
「……聞いたこと無い名ですね…アラ、覚えておきましょう」
「おう、とっとと帰れ帰れ。神官様はお呼びじゃないんだよ」
「本当に、品性の欠片も無い…では失礼いたします。此処に居る皆に加護があらんことを」
最後に祈りの言葉を紡ぐと神官は馬車に乗り神殿へ戻って行った。
「やっと帰ったか糞神官…で、お前は何をしているんだ?」
寝台の下で身を潜ませていたサラに冷たい声を医師は発した。
「うぅぅぅ又名前に蟻が混じってました…結果的には良かった、ですけど。でも下痢は酷い、ですぅぅ」
「何だお前神殿関係者か?」
「この間リストラされたところです…」
「訳アリか?」
「訳アリ、です」
ジッと視線が絡み合う。
高い位置と寝台の下からと。
端から見ると謎の光景だ。
「まぁ良い。採用は取り消さん。今からでもバリバリ働けアラ」
「蟻が混じってもう治らない、ですね…でも一応面接を……」
「面接はいらん。腕なら十分見せて貰った。あれだけの【治癒】の術が使えて医学知識もあるなら文句はない。蟻でも豚でも雇ってやる」
「蟻でも豚でもない、ですぅぅ…て、何で医学知識がある事分かったです、か?」
「腕を繋ぐ前に生理食塩水で切断面を洗っていただろう?普通の法術の知識しかない治癒師ではそこまで考えられない。
あくまで治すことに特化しているからな治癒師は。神経の回路に関しても小娘の治癒師がそこまで考えて法術をかけれるとは思えん」
「良く見ている、ですね」
「医師には広い視野が必要だ。治癒術だけでは診療所は開けん、小さい診療所でもな」
「先生、柄は悪いけど良い人、ですか?」
「疑問形やめろ。俺はこれ以上ないほど良い人だ」
「では、これからよろしくお願いします、です」
「あぁ後で従業員の自己紹介もしよう。ただ今は治癒に専念してもらう。怪我をしているのは団長さんだけじゃないからな」
確かに団長の腕の怪我で皆が興奮していたが、皆ぼろぼろである。
鎧は傷だらけだし、着ている人間の肌も傷だらけだ。
流石に鎧の傷は治せないが、人の怪我なら治せる。
「そこのエロナースの指示に従って怪我人の怪我を治していけ」
「了解、です」
「一段落したら休憩時間に紅茶とクッキーを出してやる」
「やりまふっ!!」
コレが終われば紅茶とクッキー!
コレが終われば紅茶とクッキー!!
コレが終われば紅茶とクッキー!!!
サラに紅茶を飲んだ経験もクッキーを食べた経験も無い。
紅茶とクッキー…なんて甘い誘惑なのか。
「神よご加護を【治癒】」
白い光が診療所を包み込んだ。
「なっ!?」
「傷が塞がった!?」
「体も軽くないか!?」
「腰痛迄治ってるぞ!!」
兵士たちが驚きの表情を浮かべながら騒めく。
「初級の【治癒】の術式で広範囲回復だと…何処迄出鱈目なんだあの娘……」
美味しいお茶と甘いクッキーに想いを馳せて、サラは一気にその場に居たものを治療した。
初級の【治癒】で広範囲回復など出来る者が居ないなど、サラは知らなかったのだ。
何せ常識を教えてくれる者が存在しなかったから…。
サラが全員を治したので、すぐに休憩のお茶の時間となった。
(紅茶にクッキー紅茶にクッキー!!)
垂れそうになる涎を堪えて、サラは初めてのお茶の時間を体験する事となった。
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