婚約者の王子に聖女など国に必要ないと言われました~では私を信じてくれる方だけ加護を与えますね~

高井繭来

文字の大きさ
4 / 264

《2話》

しおりを挟む
 不動産屋のオバちゃんは良い人だった。
 世間を知らないサラに庇護欲を掻き立てられたのか、親身になって部屋を探してくれた。
 
 借りたアパートは家具付き。
 ベッドと小さな机と椅子があり、それでけでいっぱいになる小さな部屋。
 でも収納と小さな流し。
 水道が直接部屋にあるのは有難いことだ。
 そしてアパート専用の共同トイレ。
 正直これも有難い。
 建物によっては外の公衆トイレを使わなければならない所だってまだまだある。
 古いが設備はそこそこ整っているらしい。

 これで月の家賃は金貨1枚銀貨5枚。
 今のサラの所持金なら、贅沢しなければそれなりに長い年月を過ごせるだろう。

 ディノートは”文明国家クロイツ”の隣国なのでそこそこ科学技術が繁栄している。
 流しに小さなガスコンロをおけばミニキッチンの完成だ。
 これで自炊が出来る。
 外食と自炊ではかかる食費が桁違いだ。
 いくらダイヤを売ってそこそこ纏まったお金があるからとは言って、先はどうなるか分からない。
 少しでも節約、これ大事。

「お風呂は流石に公衆浴場、ですね」

 スラムに居た頃はお風呂にも入れず濁った川で水浴びだった。
 聖女になってからは清拭中心。
 1週間に1度はお風呂に入らせて貰えたが、時間は10分ほど。
 湯を堪能する時間すらない。

「もしかして神殿より良い暮らし、なんじゃ…」

 間違いなく神殿より良い暮らしである。

 くぅ~

 サラのお腹から小動物が鳴いたような、可愛い音が鳴った。

「そう言えば昼食食べてないんでした…流石に1回くらい外食しても良い、ですよね!初外食、楽しみ、です!!」

 バッグを収納に入れて、小さなショルダーバッグに財布とハンカチと部屋の鍵などを入れてサラは家を出る…。

「の、前に収納に【結界】と…」

 結構の大金を入れているので、警備は厳重に。

「何て言うのでしたっけ? セ〇ム? アル〇ック?
 前にサイヒ様が言ってましたね。サイヒ様が仰る言葉なら素晴らしいシステム、なのでしょう」

 そして扉の鍵を閉めて、更に結界を重ねがけ。

「さて、ドキドキの初外食、ですね」

 はやる胸を抑えながらサラは階段を下りて行った。

 :::

 穏やかな街並み。
 店がいくつも並ぶ。
 その中にフォークとナイフの描かれた看板を掲げている建物。

「こ、ここが食堂…」

 サラはゴクリと唾をのむ。
 何と言う香しい匂い。
 手持ちのお金は金貨1枚と銀貨5枚。

「多分足ります、よね?」

 いざ行かん。
 サラは食堂の扉をくぐった。
 その瞬間、空間の熱量がサラを包んだ。

 ガヤガヤと喋る人の声。
 昼間からエールを飲み赤ら顔の大柄な男。
 料理を運ぶ元気な女の子。
 美味しそうに食べる若い男たち。

「いらっしゃいませ~」

 女の子に声をかけられた。

「お1人ですか?」

「は、はい!」

「ではこちらにどうぞ~」

 トレイを抱えた少女に席を案内される。
 外が見える窓際の席。
 2人用の席だ。
 その一脚の椅子にショルダーバッグを置き、もう一脚に腰を下ろす。
 メニュー表を手に取る。

「ど、どうしましょう…私、読み書き苦手なんですよね……」

 スラム育ちなので学校に行ったことも無い。
 神殿では最低限の読み書きしか習わなかった。
 聖女は祈りだけしていれば良いと。

「あ、あの…お肉の料理で1番安いものをお願い、します……」

「じゃぁBランチのハンバーグがお勧めです!」

「ではソレを」

「はい、お待ち下さい~」

 そわそわと待つサラの前に10分もしない内にランチが運ばれてくる。
 ハンバーグに白いパンにサラダにスープ。
 見た事も無いご馳走だ。

「こ、これがお肉……」

 スラムでも神殿でも殆ど口にしたことのない肉だ。
 しかもこんなに大きな塊。

 ナイフを使うのが苦手で心配だったのだが、ハンバーグはフォークで簡単に切れた。
 1欠片フォークに刺した肉を、口に運ぶ。

 ジュワ

 口の中で肉汁が溢れる。

「あ、あふあふ、う~~~~~っ!!」

 噛めば噛むほど味が口の中に広がる。

「おいひい!!」

 ハンバーグ美味しい!
 白いパン、柔らい!
 サラダ、瑞々しい!
 スープ、お腹ポッカポカ!

「ぷはぁ!美味しかった、ですぅ」

 恍惚の表情を浮かべるサラ。
 ハンバーグランチでこれ程幸せになれるのだから安い女である。
 と云うより今まで無給で馬車馬の如く働かされていたのだ。
 安いどころの話ではない。

「あの、お幾らですか?」

「銅貨5枚です~」

「へ?」

「銅貨5枚ですが、どうかしましたか?」

「そんなに安いんですか!?」

「安い美味しい早いが当店の自慢ですので~」

「はい、美味しかった、です。ご馳走様、でした」

 あんなに美味しくて量もあって銅貨5枚。
 サラの祈りで得れる収入…無し……。
 
 自分がどれだけ体よく使われていたか、思い知らされてしまった。
 聖女としての祈祷は1回金貨10枚はする。
 そしてサラの食事は1日2回。
 蒸かしたイモと塩スープ。
 どれだけ自分は都合のいい存在だったのかと少し落ち込む。

 だがそれも昨日まで。
 今日からのサラは銅貨5枚でたっぷりのお肉が食べれるのだ。
 気を落とす必要はない。

 この美味しいご飯を食べるためなら、神を崇めている人に加護を与える祈りをするのも嫌ではない。
 出来ればこのお店が”聖女反対派”でないことを望みたい。

 お腹いっぱいになったサラは、これから日常で必要となる物を買い出すため機嫌よく足を踏み出すのだった。
しおりを挟む
感想 951

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

処理中です...