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《3話》

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 お腹がいっぱいになったサラは余韻に浸りながら王都を歩く。
 サラが住むのに選んだのは平民街の外れだ。
 流石に貧民街ではないが、外れの方なので賑わっているとは言い難い。
 だがサラはこののんびりした空気が嫌いでは無かった。
 ガヤガヤしている所は苦手なのだ。

 平民街の外れにだってちゃんと文化は根付いているし、お店だってそれなりにある。
 何よりあの美味しい定食屋がある。
 サラは住む場所に間違いはなかったと自信をもって言える。

 さて、買い物だ。
 ベッドとテーブルに椅子は最初からついていた。
 必要なのは食器にガスコンロに調理器具類ぐらいだろうか。

 市井で小物の家具屋を探す。

「あ、あのお店可愛い、です!」

 白い皿に色とりどりの絵が描かれている。
 正直安っぽさは否めないが、十分に可愛さで補える。
 誰かを客に呼ぶ予定も無いのだし、自分が使う分には十分だ。
 店の奥には調理器も揃っている。
 フライパンと鍋くらいは揃えておきたい。
 あとはお玉にフライ返しなど。

「お金、足りますよね?お店入ってみましょう」

 棚に並べられた皿は全部値札が置かれている。
 これならぼったくられる事も無いだろう。
 数字であるし、あまり大きな金額で無いのでサラでも分かる範囲の金額だ。
 食器、フライパン、鍋、お玉、フライ返し、ナイフにフォークをカウンターに持っていく。
 祈ってばかりで体力に自信がないことには自信があるサラには苦行であった。

 ふらふらするサラが余りにも危なっかしいので店員が飛んできた。
 どうやら良い店らしい。

「お嬢ちゃん、1人で持って帰れるのかい?」

 金額を払い、自分用の家具が増えた事に喜ぶサラに店員が心配そうに聞いた。
 やはり良い店員らしい。

「これくらいなら大丈夫、です」

 ショルダーバッグからエコバックを取り出す。
 それなりの大きさはあるので買ったものは全部入るだろう。

「ここに居れて、と」

 ひょい、とサラはそのバッグを持ち上げた。

「お、お嬢ちゃん!それまさか魔道具か?ま、まさか収納の魔道具!?」

「そんな国宝級のアイテムでは無いん、ですが…私のお慕いする方に頂いた物なんです。入れた物の重さを限りなく軽く、します」

「良ければ1回持たせてくれても構わないかい?」

「良いですよ、どうぞ」

 サラの了承を得、店員はバッグを持ち上げる。

「軽っ!!」

「でしょう!私のお慕いする方が魔術を付与してくれた、です!」

「ほ~お嬢ちゃんの彼氏は付与術師か」

「彼氏だなんてそんな、私が一方的にお慕いしているだけ、です。それにサイヒ様は女性ですし、付与術師でもありません。付与は嗜みの領域だと言っておりました」

「ツッコミどころが多くて何処から突っ込んで良いか分からんが…嗜みの領域を超えているぞこれは。価値にすれば金貨100枚は下らないレベルの付与だが…エコバックだから価値が下がるな……売るのを目的としてない事が良く分かる魔道具だ………」

 店員が遠い眼をする。
 これがそれなりの質のいいバッグに付与された魔道具なら貴族の婦人たちがこぞって欲しがる品だろう。
 それをたかがエコバックに…。
 まぁコレなら盗まれる心配も少ないだろう。
 そこまで考えて作られているのなら、当事者は相当頭が切れると思って間違いない。
 平民(しかも碌にお金も持ってなさそうな)の少女がこんな大層な付与がされたバッグを持っているとは誰も思うまい。

「嬢ちゃん、食器の買い出しってことは最近引っ越してきたばっかりだろう?生活必需品揃えるなら”銅貨1枚均一”に行ってみると良いぞ。バッグにまだ入りそうだし生活用品は大抵手に入る。この通りをまっすぐ行って3つ目の十字路の右手にあるから覗いてみな」

「まぁ、何から何まで有難うございます。お礼と言っては何ですが、少し祈らせて頂いてもよい、ですか?」

「あ~ローブを着ているからそうかとは思ったんだが、嬢ちゃん聖職者か。んじゃ教会に滅多にいかない信仰心の薄いおっさんだが祈って貰えるかい?」

「信仰は教会に行った回数でもお布施の金額でも、ありません。自分の心の良心に従って生きているか、です。それでは不肖ながら、祈らせて頂きます。心優しい素敵なおじさまに、ご加護を」

 サラが手を胸の位置で組み、祈りをささげる。

「んおっ!ここ数年凝り固まっていた肩がほぐれたぞ!!」

「私の祈りはこの程度ですが、祈りがかなったと言う事はおじさまは信仰心が薄い訳ではありません。教会に行かなくても寄付も無くて結構、です。今まで通り優しいおじさまで居て下されば神様はおじさまを、見限りません」

 ニッコリとサラが微笑む。
 特別美人だとか愛嬌があると言う訳ではない。
 だがサラの笑顔は思わず見惚れる程に無垢な笑顔であった。
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