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その後

青天の霹靂が身に降った思いだと後に彼女は答えた6

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 子供たちが来てからの月日が経つのは早かった。
 ただでさえミヤハルは数億年生きているのだ。
 数年の月日など瞬きする間と変わらない。
 だがこの数年。
 ミヤハルは生まれてきてから1番密度の濃い時間に感じた。

 恋とはここまで世界観を変える者なのか。

 モノトーンだった世界に色彩が付いたような世界。
 それが今のミヤハルの世界。

 決して今までの人生に不満があったわけでは無い。

 それでも。
 恋1つすることで、これ程に世界は眩いものとなる。

 エントビースドの灰銀の髪が好きだ。
 光に照らされた海の水面のような青銀の瞳が好きだ。
 抱きしめると心地よい子供特有の柔らかい体と、子供らしくない冷たい肌が好きだ。

 だが時がたつのは早く、エントビースドは日に日にその身体から子供特有の幼さを削り取っていく。

 もっと甘えて欲しい。
 もっと我儘だって言って欲しい。
 この子供の願いをかなえる事はミヤハルにとって嬉しい事でしかない。

 エントビースドだけではなくシックスリーとオウマだって可愛い子供たちだ。

 だがミヤハルにとってエントビースドは特別なのだ。
 あのオークション会場で全てを否定するような冷たすぎる瞳に心奪われた。
 この美しい青銀の瞳が喜色に染まったらさぞや美しいだろうと思った。
 気づいたら自分が子供の瞳を喜びに染めたいと思った。

 ミヤハルと暮らしだしてから子供たちは健やかに育っていった。
 でもミヤハルはまだ子供のまま居て欲しかった。

 エントビースドの成長が早すぎるのだ。
 いや、肉体の成長速度は普通の魔族と変わらない。
 成人するまでは魔族も人間も成長速度は変わらない。
 だが、心の成長が、異様に速い。

 早く大人になりたいのだと、エントビースドは日々学を学ぶ。
 その頭脳の回転が半端なく早い。
 その頭脳で魔術を学び、法学を学び、帝王学を学ぶ。
 未来の魔王候補として買い取ったが、エントビースドはまさしくその器に相応しかった。

 望んでいた子供の成長。
 魔国が優れた王に統率されるように、優れる王を育てようと思った。

 なら何故ミヤハルはそこに喜びを見いだせないのか?

 成長してきた子供たちはミヤハルの肉体年齢を追い付き追い越す。
 オウマはもう17歳だ。
 既に魔国の騎士団に所属している。
 オウマの実力ならトップの座に上り詰めるのもそう遅くはないだろう。
 ちなみに宿舎ではなく実家からの通勤である。
 この育った家を捨てるにはオウマはミヤハルの家に愛着がありすぎる。
 年下の弟のような存在達もまだまだ目が離せない。
 何よりオウマはミヤハルとエントビースドの中に気をもんでいた。

 そしてエントビースド。
 肉体年齢はミヤハルと同じ12歳になった。

 しなやかな若木の様に背や腕や足がすらりと伸びて、頬の丸みも緩やかになってきた。
 こうなるとご近所でも有名な美少年だ。
 変な輩に狙われること何回になるのやら…。
 そして背はミヤハルより10センチ以上も高い。

 いつの間にか見下ろしていた子供は首を上げなければ目線が合わなくなっていた。

 こうしてエントビースドはミヤハルが望まぬ速さで大人になってしまうだろう。
 そうすれば、誰もがエントビードを王にへと望むだろう。
 ミヤハルの手元を離れてしまうだろう。

 まだ子供でいて欲しい。
 自分のそばに居て欲しい。
 親子のような、姉弟のような距離を壊したくない。
 まだ…この初恋にミヤハルは溺れていたかった。
 一方通行の恋でも、ミヤハルは満たされていたから。

「ミヤハル様、貴方が好きです」

 だからエントビースドが瞳に恋情を滲ませて、そう己に言ったときミヤハルの思考は停止したのだった。
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