『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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第40話 『ハニートラップ』

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 2024年11月17日(9:00)

 修一はもちろんだが、ヒコナたち大学生6人もクレジットカードを持っていた。もちろん限度額は低めのものだし、修一にしても収入に応じたものだ。

 しかしSPROに来てからは10人全員に、それぞれブラックカードが渡された。使途不明でもなんでも、使って良いとのことだ。国の組織だから税金が使われていると思っていたが、民間企業も出資しているらしい。

 SPROが開発した技術を応用して新製品を作る企業が多いようで、実際に使われている。

 今日は最初に言っていた約束の最終日。

 すでにSPROに来てから1週間がたっていた。責任者の藤堂さんは、さらに研究を続けるために全員に研究期間の延長を求めていたが、修一をはじめ全員が悩んでいたのだ。

 何もせずこのままいれば、今までと同じように過ごしていけるかもしれない。

 しかし壱与はどうする? オレの体は? イサクやイツヒメはどうなるんだ?

 ここは彼女たちの世界ではない。いくら居心地がいいとはいっても、故郷ではないのだ。残してきた家族や友人、弥馬壱国の人たちが心配にならないわけがない。

 帰りたい気持ちはいっぱいのはずだ。

 特に壱与は、オレと一緒にいてくれると言ってくれた。でもそれは本心なのか? 女王としての責任と行動に矛盾しているんじゃないのか? 壱与は苦しんでいるんじゃないのか?

 修一は自問自答していたのだ。




「さーって、今日はどこへ行こうかな」

 比古那が声を上げた。

 特殊な閉鎖環境にいるとストレスを生じるとのことで、基本的に警護のための監視はつくが、自由に外出できるようになっていたのだ。

「ねー? 男子はどうするの? 私たちは壱与ちゃんやイッチャン(イツヒメ)と一緒に買い物に行くけど」

 咲耶が言った。

 修一は壱与と、比古那は咲耶と、尊は美保と、槍太は千尋と一緒にいたかったが、女子でそう決まったんなら仕方がない。そう思った。

 それぞれの外出は自由であり、どうしなければならないとも言われていなかったのだ。

「オレはザ! ノープラン! ふらふら行くぜ!」

 と槍太。

「うーん、まあオレはネットカフェかな。ネット三昧と漫画を読みたい。それから図書館にも」

 尊が言うと、女子はあきれた声をあげる。

「えー? ネットも漫画も本も、ここにあるじゃん? なんでわざわざネカフェに?」

 そーだそーだ! という女子たち。壱与とイツヒメはピンときていない。

「ふふふ、何を言うのかね? 都会の雑踏の中にあるオアシス空間。それがネカフェなのだよ……」

 よくわからないがそれが尊の主張であり、それ以上は女子からはため息しかでなかった。

「まあ、いいじゃないか。自由なんだし。帰ってきてから、みんなで今後のことを考えよう」

 修一はそう言ってまとめた。

 そう、今後どうするか? だ。

 女子メンバー+イサクは買い物。修一は国会図書館。槍太はノープラン。尊はネットカフェ。比古那は行き先を言わなかったが、決まっているようだった。




 ■12:00

「よし、誰もいないな?」

 槍太は周囲を警戒する。SPROの警護スタッフがいるはずだが、見当たらない。比古那も尊も黒髪で、比古那はスポーツが得意なリーダー系、尊は知的な参謀タイプだが、槍太は茶髪のやんちゃ系だった。

 意外にビビりなところもあるが、やる時はやる。弥生時代に飛ばされた時も兵士を殴り殺した。

 その槍太がいるのは東池袋のそういうお店。そういうお店とはいわゆる大人のお店だ。そのお店の女の子は、全員が金髪の外国人女性である。

「いらっしゃいませ、お客様。ご指名はございますか?」

 スタッフに説明されて、写真を見ながら選ぶ。どうせならスペシャルコースだ。金はSPRO持ちだし、上限も支払い義務もない。店のスタッフに確認したところ、まったくそれとはわからない業種の会社名で請求が来るらしい。

 槍太は写真の中から、控えめなほほ笑みを浮かべる金髪の女性を選んだ。どこか千尋をほうふつとさせる雰囲気に惹かれたのだ。

 スペシャルコースを堪能し、すっかりメロメロになった槍太は、マリアという名の金髪の女性に心をすっかり奪われ、電話番号を交換し、その日の午後6時に夕食の約束を取り付けた。

 スペシャルコースで高揚した気分は、約束の時間を待つ間も冷めることはなかった。

 カジュアルな白いワンピース姿のマリアを見て、昼間とはまた違った魅力にドキドキした。昼間の妖艶な雰囲気とは違い、清楚せいそ可憐かれんな印象だった。

「待った?」

 マリアが明るい笑顔で声をかけてきた。

「いや、今来たところだよ」

 少し緊張しながらも、槍太は笑顔で答えた。昼間のマリアも今のマリアも、写真で見た千尋と似た雰囲気はない。

 夕食の間、二人はたわいない会話を楽しむ。故郷の話、趣味の話、好きな映画の話。マリアは聞き上手で、槍太の話にいつも楽しそうに笑ってくれた。

 彼女の明るい笑顔と気さくな話しぶりに、槍太はすっかりリラックスしていた。まるで付き合い始めて数か月後の彼女と話しているような、自然で居心地の良い時間だった。

「もっと話したいから、2軒目に行かない?」

 マリアの提案に、槍太は二つ返事でOKした。

 二人は近くのバーへと移動し、落ち着いた雰囲気の中でカクテルを傾ける。マリアは槍太の話に熱心に耳を傾け、時折見せる笑顔は槍太の心をさらに掴んで離さなかった。

「マリア……君といると、すごく楽しい」

 少し酔いが回ってきた槍太は、素直な気持ちを口にした。下半身のうずきは言うまでもない。マリアはほほ笑んで、槍太の手を握り返しながら言う。

「私もよ、ソウタ」

 二人の距離は急速に縮まり、甘い空気が流れた。槍太は期待に胸を膨らませ、次の瞬間、マリアの唇に触れようとした。

「もう……気が早い♡ ちょっと待ってて。すぐ戻るから」

 マリアはそう言って席を立った。

 


 槍太は戻ってくるのを待っていたが、10分たってもトイレから戻らない。

 心配からからか槍太は自分も尿意を催してきたことに気づき、男子トイレに入った。女性のトイレは長いというが、実際にはそうじゃなく、化粧直しの場合もある。
  
 いずれにしてもこの程度は許容範囲か?

 用を足し、考え事をしながら槍太が手を洗っている時である。

 横に並んで手を洗う黒ずくめの男に声をかけられた。

「ソウタ・アマヒですね?」

「え? そうだけど、なんでオレのことを……」

 低い声でそう言った男たちは、サングラスに黒いスーツ姿。明らかに普通の客ではない。槍太はとっさに危険を察知し、逃げようとしたが、注射器のようなものを首に刺され、次第に意識が遠のいていく。

 槍太は中身が見えない大きめの業務用カートに乗せられ、裏口から搬出されたのだ。

 薄れゆく意識の中で、槍太はマリアの冷たい視線を感じた。あの笑顔は、全て演技だったのだろうか……。




 全ては仕組まれた罠だったのだ。




 次回予告 第41話 『消えた微笑み』
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