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鬼の指導かと思ったらご褒美だった1

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 そうと決めたら行動が早いジーナによるノーチェ王妃化計画はその日のうちからスタートを切った。

 ジーナがまず一番に目をつけたのは、ノーチェの体型だった。

「まずはその貧相な体をどうにかするよ」
「ひ、貧相って! いくらなんでもひどいです!」

 ノーチェは貴族と言っても極貧貴族であったがために、十分な食事にありつけずに、ガリガリに痩せていた。

「今日から食事は私と一緒に取りなさい」
「……わかりました。昼食は一緒に取りますね……」

(私みたいなちんちくりんが、ジーナ様と一緒に昼食を共にしたら、全生徒から視線を浴びるんだろうな……)

 ノーチェはこれからのことを想像し、身震いを起こしてしまった。

 そんなノーチェを尻目に、ジーナはもっととんでもないことを口にした。

「え? 何を言っているの? 昼食だけではないよ? 朝食も、夕食も一緒に取るんだよ?」
「えええ⁉︎」
「そうでもしないと君は食事を抜きそうだからね。監視が必要だろう」

 どうして食事を抜いていることが見抜かれたのかバレてしまったのか、とノーチェは瞠目する。

「ひ、一人でもちゃんと食事は取りますよ! 大丈夫です!」
「ちゃんと食事を取った人の腕はこんなに細くはならないでしょう?」

 そう言って、ジーナはノーチェの腕をとって様子をその様子を様々な角度から確認していた。ノーチェの腕は栄養不足により病人のように青白い。

 ジーナはその様子を見て、眉間にシワを寄せていたが、当のノーチェはそれどころではなかった。

 婚約者のゼダウスと学園生活の中で、さして触れ合う機会もなかったノーチェにとって、異性に腕をとられ、その様子を確認されるなんて、医師や家族以外にされたことがない経験だったのだ。



 しかも、ジーナはなんと言っても顔がいい。



 女であるノーチェが目を奪われるほど美しいジーナが、実は男。その事実を知ったから、ノーチェはこの美しい人は男性なんだ……。と言うことに秒単位で驚き、何度もよろめきそうになった。

 ジーナは女装生活が長いせいか、女性との距離感が近い気がする。これから、ジーナから指導をうけるに当たって、彼はきっとノーチェを近い距離で確認するだろう。

 それに耐えられるか、思考をするだけでノーチェの心臓は壊れそうだった。そのくらいノーチェは初心な少女だ。
 
「さ、そうと決まったら、さっさと移動するよ。私はこんなところに長くはいたくないんだ」

 ジーナは女子更衣室にいるのが相当気まずいらしい。それもそうだろう。ジーナは男性なのだから。
 そのままノーチェはジーナに腕を引かれ、更衣室を後にした。


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