【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,140 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

97 もうしんどい  成人

しおりを挟む
「無茶苦茶や! そんな無茶な話ありません、殿下!」

 正一郎が顔を上げて、緋色ひいろに向かって必死で言った。ん? なんで、緋色ひいろ? 九鬼に任せるって、さっき緋色ひいろ、言ったよね? なら緋色ひいろじゃなく、 壱鷹いちたか弐角にかくに話をしなきゃいけないんじゃない?

「この兵士らが、貴き御身に危害が及ばんようにとした配慮をそのように取られるやなんて、あまりの言い掛かりです。ちゃあんとお預かりしておりました。いつ何をするか分からん賊どもやで、牢に入れておくんは当たり前ですけど、死なんように配慮せえ、と指示は出しました。言いつけは守っとります。なあ?」

 正一郎は、自分の横に並んでいる人を振り返って話しかける。皆、必死で首を縦に振った。

「だいたい、申し開きの機会や何やと仰られますけど、そもそも申し開きも何もあらしません。私どもが西賀さいか国を侵略せんなん理由が無いんです。見ての通り、我が西中さいちゅう国は西賀さいか国なんぞより遥かに広く、栄えとります。今更、約束事を犯してまで彼国かのくにを攻めんなん理由が無い」
「そっちの事情など知らん。こちらはただ、うちの領地内の村が西中さいちゅう国の兵士に襲われたという事実を報告したまで」

 竹光たけみつの声が静かにゆっくりに聞こえるのは、正一郎しょういちろうが大きめの声で早口だからだ。

「言い掛かりも甚だしい!」
「お父上のことで恨みを買うたんやないかと警戒しとりました。ほれ、うちのせがれが、お父上への罰を告げるに当たって関わっておったでしょう? その件かと思たんやけど、そういう訳でも無さそうやな」
「ち、父の、ことは……」

 竹光は、最後の方は独り言みたいに言った。正一郎が、今気付いた、みたいな顔をしている。父のことは、もう忘れちゃった?
 正一郎の父って、あの、弐角にかくの結婚式の時にいっぱい喋ってた人だよね。髪の毛が少ないのを偽物の髪の毛で増やしてた人。俺はすごく覚えてる。そう簡単に忘れないような人だったよ?
 俺に、分かりやすく無礼なことをした人だった。俺が、初めての無礼討ちをするのを鶴丸が手伝ってくれたなあ。あの時の鶴丸、格好良かった。

「葡萄やと思うで」

 鶴丸が竹光にぼそって言った。

「ほな、ここの奴らはほんまに知らんのか」
「知らんように見えるな」
「そうやとしてもや。二日あったんやし、証拠の兵や、襲撃を命じた責任者っぽい者も置いていったんやろ? 話聞いて、何やする暇あったんちゃうか」
「下っ端の話なんぞ聞かんやろ。緋色ひいろ殿下のおもてなしの準備で大わらわやったんやと思うで、きっと」
「阿呆か」
「阿呆やろ」
「もうしんどい」
「はやっ」

 表情を変えずに、前を向いて二人で話してるのが面白い。

「とにかく! うちの兵やない!」
「我らは、西中さいちゅう国所属の兵士のつもりやった。今この時まで」

 真ん中に連れてこられた二人のうちの一人が口を開いた。掠れて小さな声だった。

「お水いる?」
「ぜひ」

 俺が聞いたら、大きく頷いた。
 お水もあんまりもらえてなかったのかな? 早く来て良かったよ。

しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...