【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

96 そういうこと  成人

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「ご、ご、ご、ご冗談を! 我が国が皇国の貴きお方に、なにゆえそのような……」
「いいか、よく聞け。壱鷹いちたかに全てを任せる、と俺は言った。壱鷹いちたかの言を聞かぬ態度は、俺に、ひいては皇国に叛意ありと看做みなす」
「は、はは、叛意などございません。ありません」

 正一郎は、平伏して動かない。

「……壱鷹いちたかが、捕らえた兵を全員連れて来いと言った件はどうした。早くしろ」
「は、ははっ。連れて来い! 早うしろ!」
 
 やっと動いた。もー。

「あ、縛らなくていいよ」

 下手くそだから、痛いだけで意味ない。あんなにたくさんの人に今から縄をかけていたら、すごく時間かかるし。まさか、牢屋の中で縛ったままにしてる訳じゃないよね?

「その人たちのも解いて」

 痛そうだし。

「は?」

 正一郎は、反応が遅くて困る。

力丸りきまる
「はいはーい」

 振り返ってお願いしたら、力丸りきまるがすぐに移動して、縛られていた二人の兵の縄を切ってくれた。あっという間だったから、二人の兵を見張っていた兵士たちが気付いた時にはもう、縄は解けていた。
 ざわって西中さいちゅう国側の人が揺れる。大丈夫だよ。二人とも何もしないよ。見たら分かるでしょ。絶対、敵わないって分かる人が射程範囲にこんなにたくさんいたら、動くのも怖いんじゃないかな。分かんないけど。
 あ、動けたみたい。二人は、自由になった手で腕を摩っていた。痛かったよね。解いて良かった。
 
「う、動くんやない」

 二人の縄を引っ張って連れて来た兵士たちが、手にしていた棒で二人を叩こうとした。力丸りきまると、いつの間にか近付いていた才蔵さいぞうが、それぞれ腕を押さえて止める。

「痛む箇所を摩るくらいさせてやれ。そもそも縛り方が悪いから痛んでいるんだ」

 だよね。やっぱり力丸りきまるもそう思う? 一緒だ。

「ざ、罪人共をどう扱おうが、こちらの勝手です。他所よその方に口を挟まれるいわれはありません」
「どう扱おうが勝手、だって?」

 ゆら、と力丸りきまるから圧のようなものが漏れた。一応鍛えている人だったんだろう。棒を持った兵士が、ひっと喉から声を出して後ろに下がった。

緋色ひいろ殿下は、この者たちを預ける際に仰ったはずだ。引き渡す者たちが一人でも欠けていたり、身体、心身に不調をきたしていたら、その時点で西中さいちゅう国から西賀さいか国への侵略行為は確定とする、申し開きは聞かないってな。それを、その預かりものを、どう扱おうが勝手、と言うのか。どうやら、申し開きの時間はいらないみたいだな」

 その約束で預けてこの扱いなら、そういう事でいいんじゃない?
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