【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,086 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

43 十月は  源之進

しおりを挟む
「源さん。うちが作ったたこ焼きやで。どうぞ」
「ん?ああ……」

 おみから渡された食べ物は、ほかほかと湯気を上げている。広い食堂には、ずっと良い匂いが漂っていた。皆が、たこ焼きの乗った皿を手に楽しそうに笑っている。
 たこ焼き。たこ焼きか。祭りの屋台で昔、見たことがあるものだ。西中さいちゅう国の方の庶民の間で、よう食べられとる食べ物やなかったやろか。屋台なんぞで物を買って食べるなどはしたない、と言われて育ったから、下賎な食べ物なんやと思っとった。屋台以外で見かけることもないし、料理人になってからも、わざわざ作ってみようと思ったこともない。こうして目の前に出されるまで、その食べ物のことを考えたこともなかった。
 ただ、おみはたこ焼きを作って食べるんか、と思った。
 祭りに連れて行ってやったこともないおみが、これを作ったんか、と。誕生日をろくに祝ってもろた事もないおみが、こうして他の者の誕生日会に参加するんか、と。
 今日は誕生日会やから一時退院やとかなんとか言われて、こちらへ来てから二日ほどだけ滞在した離宮へと運ばれた。食堂の隅に置かれた低めの椅子に腰を掛けているだけで、誰や彼やと挨拶をしに来てくれる。一度に覚えられるものではないが、位の高いお人ばかりなことは理解した。
 まあ、皇子様夫夫の家や。察してはおった。周りにおるのは皆、それなりの身分なのやろうと。おみだって、育ちはあれやが西宗さいそう国の若君である。たまに、料理長や医師たちのように、元は名字無しなんやという気安い人間が混じっとるから、つい気を抜いとったんかもしれん。
 それにしても、や。改めて、自分のおる場所に恐れおののく。九条様御一家が同居しとる上に、今は一条様や七条様やと主要九家が随分と集まっていて、その上皇太子御一家と西賀さいか国の次期様御一家がご来場されとると聞いて卒倒しそうやった。近衛を勤めとる者、御用聞きの一族と国の重要な仕事を勤める者たちの片隅で、一体自分は何をしとるんやろと首を傾げる。
 プレゼントを渡してくる、と側から離れたおみを目で追うと、前に立った主役のうちの一人に何か特別大きな包みを渡して、笑いかけていた。

「あれは、ええんか?」

 振り返って半助はんすけに声を掛ける。俺の視界に入らないように、けれど俺が何か困った時にはすぐ手助けできるような場所にずっとおることには気付いとった。

「ええも何も。おみがしたいことを俺は止めません」
「ふーん」

 半助はんすけは、言葉とはうらはらに、随分と冷たい表情かおでプレゼントを渡すおみを見ていた。嫉妬、とはまた違うような……。
 十月。十月か。
 ふと思う。
 九鬼の跡継ぎやと持ち上げられていた一二三ひふみさまの誕生日を祝う宴が連日開かれ、様々な贈り物が城に溢れ返っていた月やな、と。
 俺の、大嫌いな月やった。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...