【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,045 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

2 宛名からも為人がみえた  鶴丸

しおりを挟む
「お待たせしてすんません」

 奥さんと二人、慌てて帰った先では、見覚えのあるじい様と若い平凡な見た目の男が、父と穏やかに談笑していた。

「あ、じい様、あ、いや、ええっと、緋色ひいろ殿下と成人なるひと殿下のとこの」
「あ、怖いお人や」

 うちが取り繕う間もなく、奥さんもぽろりと声を落としてしまっていた。はは、とじい様は少し笑った。少し後ろに控えたもう一人の男の口角も、ほんの少し上がるのが見えた。

「一ノ瀬荘重むらしげと申します。じじいで間違ってはおりませんよ、鶴丸つるまるさま。松吉まつきちさま、怖いとは少々心外でございますが」
「あ、はい」
「あ、すんません、つい」
「一ノ瀬相間そうまと申します。よろしくお願い致します」
「あ、はい、よろしく」

 父の座る上座から一段下がった所に奥さんと二人、腰を落ち着ける。それを見た二人は、揃って一度平伏した。その後、うちの返事ですぐに頭を上げてくれた。皇国からの使者であるが、礼を取ってくれたことでどう扱えば良いかを示してくれたんやろう。これは、父上も助かったことやろな。
 若い方は、会うたことがあるんかどうかもよう分からん。この、一ノ瀬言うのが緋色ひいろ殿下の手持ちの兵なんやな。村次むらつぐも一ノ瀬やったし。
 なんであれ、料理人なんかなー。絶対、じい様の直系やろ。

「こちら、成人なるひと殿下からのふみです」

 一ノ瀬相間そうまが、懐から袱紗ふくさを取り出した。手に持ってこちらににじり寄る。目の前で開かれた袱紗の中には封筒が一つ。生成きなりの地に泳ぐ金魚が描かれた封筒やった。金魚は鮮やかな赤で彩色されとるから、市販品では無さそうや。成人なるひと殿下専用の封筒かな。表には、つる丸と松吉とかめ吉へ、と書かれている。成人なるひと殿下、息子の亀吉のことも覚えててくれたんか、と書かれた宛名を見ただけでものすごく嬉しくなってしまった。
 だから、離れられないんだよなあ、と成人なるひと殿下の肩を抱いた力丸りきまるを、ふと思い出す。すごい分かるわ、力丸りきまる。うち、成人なるひと殿下のこと、すごい好きやわ。
 封筒を持ち上げて奥さんに宛名を見せると、奥さんもめっちゃええ顔で笑った。
 きっと招待状やな、と思いつつ中を確かめようとしとると、父の声がした。

「こら。二人でごちゃごちゃすんな。はよ、わしにも分かるように説明せえ。何で皇国の皇子妃殿下からお前らにふみが届くんや?」
「へ?さっき荘重むらしげとその話しとったんちゃうの?」

 なんや談笑しとったやん。

「あれは、あれや。ほら、うちは平城なんやなって話から、ちと城談議になってな。九鬼の城はやはり見事や、って荘重むらしげが言うからやな、西中国さいちゅうこくの城もおんなじくらいの規模やからいっぺん見に行ってきたらどやって言うとったら、お前が帰ってきたんや」

 ……父上。今、このじい様を西中国さいちゅうこくには行かさん方がええと思うわ。その城、もう二度と見れんくなるかもしれんで。

 
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...