【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

2 宛名からも為人がみえた  鶴丸

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「お待たせしてすんません」

 奥さんと二人、慌てて帰った先では、見覚えのあるじい様と若い平凡な見た目の男が、父と穏やかに談笑していた。

「あ、じい様、あ、いや、ええっと、緋色ひいろ殿下と成人なるひと殿下のとこの」
「あ、怖いお人や」

 うちが取り繕う間もなく、奥さんもぽろりと声を落としてしまっていた。はは、とじい様は少し笑った。少し後ろに控えたもう一人の男の口角も、ほんの少し上がるのが見えた。

「一ノ瀬荘重むらしげと申します。じじいで間違ってはおりませんよ、鶴丸つるまるさま。松吉まつきちさま、怖いとは少々心外でございますが」
「あ、はい」
「あ、すんません、つい」
「一ノ瀬相間そうまと申します。よろしくお願い致します」
「あ、はい、よろしく」

 父の座る上座から一段下がった所に奥さんと二人、腰を落ち着ける。それを見た二人は、揃って一度平伏した。その後、うちの返事ですぐに頭を上げてくれた。皇国からの使者であるが、礼を取ってくれたことでどう扱えば良いかを示してくれたんやろう。これは、父上も助かったことやろな。
 若い方は、会うたことがあるんかどうかもよう分からん。この、一ノ瀬言うのが緋色ひいろ殿下の手持ちの兵なんやな。村次むらつぐも一ノ瀬やったし。
 なんであれ、料理人なんかなー。絶対、じい様の直系やろ。

「こちら、成人なるひと殿下からのふみです」

 一ノ瀬相間そうまが、懐から袱紗ふくさを取り出した。手に持ってこちらににじり寄る。目の前で開かれた袱紗の中には封筒が一つ。生成きなりの地に泳ぐ金魚が描かれた封筒やった。金魚は鮮やかな赤で彩色されとるから、市販品では無さそうや。成人なるひと殿下専用の封筒かな。表には、つる丸と松吉とかめ吉へ、と書かれている。成人なるひと殿下、息子の亀吉のことも覚えててくれたんか、と書かれた宛名を見ただけでものすごく嬉しくなってしまった。
 だから、離れられないんだよなあ、と成人なるひと殿下の肩を抱いた力丸りきまるを、ふと思い出す。すごい分かるわ、力丸りきまる。うち、成人なるひと殿下のこと、すごい好きやわ。
 封筒を持ち上げて奥さんに宛名を見せると、奥さんもめっちゃええ顔で笑った。
 きっと招待状やな、と思いつつ中を確かめようとしとると、父の声がした。

「こら。二人でごちゃごちゃすんな。はよ、わしにも分かるように説明せえ。何で皇国の皇子妃殿下からお前らにふみが届くんや?」
「へ?さっき荘重むらしげとその話しとったんちゃうの?」

 なんや談笑しとったやん。

「あれは、あれや。ほら、うちは平城なんやなって話から、ちと城談議になってな。九鬼の城はやはり見事や、って荘重むらしげが言うからやな、西中国さいちゅうこくの城もおんなじくらいの規模やからいっぺん見に行ってきたらどやって言うとったら、お前が帰ってきたんや」

 ……父上。今、このじい様を西中国さいちゅうこくには行かさん方がええと思うわ。その城、もう二度と見れんくなるかもしれんで。

 
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