【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

73 本日の報告書  朱実

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緋色ひいろが女性を連れて帰った?」

 一ノ瀬の報告書を流し読みして、思わず声を上げてしまった。……馬鹿馬鹿しい。

「お側に召し上げる思惑ではいらっしゃいません」
「だろうね!」

 成人なるひととの楽しい旅行中に、そんなことが起こり得る訳が無い。二人でいる様子を見て、そういう思惑で声を掛けられる人間がいたら、是非会ってみたいものだ。余程の馬鹿か、命令を受けて仕事として近付いている馬鹿だ。
 またしても思いつきで出かけて行った緋色ひいろは、九鬼くきの領地に購入した別邸で一泊して、遊んできたようだ。元は、九鬼くきのお家騒動の際に没落した家臣の城下屋敷。城にほど近い、大きく豪華な屋敷を、結構な金を払って購入した上に、弐角にかくに毎月、金を払って手入れをさせ、いつでも泊まれるようにしているらしい。こちらから人をやって、管理人を常駐させておけば良いものを、と思ったが、城に近過ぎて九鬼くきの家臣らに警戒心を抱かせかねないと言われれば、その通りだ。
 帝国は、九鬼くきに見張りを置いている、と思われるのはよくない。逆に、緋色ひいろと次期当主の仲が良いことが知れ渡るのも、好ましいことではない。知る人は知っている。この程度がよいのだ。
 そう考えると、思い付きで旅行して、城に泊まらず、城下屋敷を利用するのはなかなかの好手。
 どうせそこまで深い考えなど無いのだろうが、いつも何となく上手くいく辺りが、緋色ひいろの腹の立つところだ。
 壱臣いちおみの屋敷なのだろう?実家である城に泊まれぬ自らの家臣のために、かの国で最も高額な屋敷を一つ、自分の懐からの金だけでお買い上げとは恐れ入る。管理維持費も出して、びくともしない。
 
「稼ぎ過ぎだろう」
「は?」
「いや、なんでも無い」

 しっかり税金も納めているし、文句の付けようはない。無いのだが、溜め息は出る。
 その上、思い付きの事業を全て抱え込んでいる訳でなく、人に任せて軌道に乗せ、軌道に乗ればあっさり全てを渡してしまう。その潔さにまた、人は惚れ込む。任された者は恩義を忘れず、せっせと上前を緋色ひいろに上納しにくる。
 やっぱり恐ろしくて、けれど頼りになる弟だ。
 結局、猿回しと動物園を見物して帰ったと、簡潔に纏められた報告書を机に放った。
 女性の素性や、屋敷を尋ねた際の振る舞いについての報告も、もちろん付いている。厄介そうな......。
 弐角にかくとの友情にあまり口を挟みたくはないが、少々甘すぎる。もう少し、それぞれが各国の上に立つ者なのだという自覚は欲しいものだな。
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