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第七章 冠婚葬祭
72 満足 緋色
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「その場の思いつきで、まあ、勝手なこの皇子様は!あんなの、誰が面倒見るんだよ」
「乙羽だろ」
「はああ?うちのの負担増やすな。預かった人がご自分で、面倒見てくださーい」
「はーい。俺、お仕事教えてあげるー」
「いい、いい。成人は気にしなくていい。一ノ瀬もたくさんいるから」
「一ノ瀬で、あれを預かるのですか?」
「何だ?」
「……いえ、何も。給料は出すので?」
「働き次第だな。住み込みになるから、食事代と部屋代は引く」
「素直に働きますかな、あれは」
「知らん」
弐角たちを一旦城へと帰して、だらだらと壱臣の帰りを待っている。成人は、辞書を開いて何やら調べ物中だ。泊まり用の鞄から、重たい辞書が出てきて驚いた。もう少し、持ち歩けそうな大きさのものを探してやろうか。いや、小さいと載っていない言葉も多いから、結局役には立たないか。どんな言葉を調べているのかは知らんが。
ま、成人が楽しいなら、何でもいいか。
「ただいま!」
壱臣の声が響いて、成人が身軽に立ち上がった。
「おかえりー」
言いながら、玄関へと向かう背を視線で追う。ふ、と笑みが溢れた。
「なんです?」
「いや」
帰る家も持たなかった二人。ただいま、と壱臣が言い、おかえり、と成人が言う。こうして交わされる挨拶を聞いていると、自然なそれが何だかおかしかっただけだ。
「この屋敷は、いい買い物だった」
「べらぼうに、高かったですけどね」
「気にするな」
大したことじゃない。だいたい金は、使うために稼ぐんだ。成人が、おかえりと言える場所が増えるのは、いい事じゃないか。
「殿下、ただいま戻りました」
「おう」
壱臣がこの国で、笑顔で歩けるのもいい。
「縞さんが交渉してくれましたんや。蕎麦屋の奥の座敷を一つ、借りることができました」
「そうか。縞、ご苦労」
「縞、ありがとう」
「いえ、そんな。勿体ないお言葉でございます」
城の上級侍女の証である着物が効いたか。実に使える侍女だ。平伏した縞に声を掛けると、ますます縮こまって、額を畳に擦り付ける。
はて。そういえば、この侍女を借りたままだった。ま、共に食事をしてから帰してもよいか。
「頭を上げろ。まずはすまん、縞。お前の主を城へ帰してしまった。連絡しておくから、共に食事をしてから帰れ」
「へ?ひ、ひええ」
頭を上げて周りを見渡した縞は、か細い悲鳴を上げる。ん?どうした?
「あの。あの。ご案内までは致しますので、その先はご容赦を」
「そうか?」
「勘弁してやってください、殿下。こんなに有能なんだ。早く返してやらないと、弐角さまも難儀されるだろう。何か褒美を渡して、帰してやるのが最善ですよ」
「そうか」
仕方ない。何か俺の印が付いた品と、褒美の金を包ませよう。
「縞。また今度、ご飯一緒に食べようね」
「は、はは。勿体なきお言葉を賜り、恐悦至極に存じます」
また、畳に額を擦り付けた縞が言った。
成人の辞書に、今の言葉の解説は載っているか?
「乙羽だろ」
「はああ?うちのの負担増やすな。預かった人がご自分で、面倒見てくださーい」
「はーい。俺、お仕事教えてあげるー」
「いい、いい。成人は気にしなくていい。一ノ瀬もたくさんいるから」
「一ノ瀬で、あれを預かるのですか?」
「何だ?」
「……いえ、何も。給料は出すので?」
「働き次第だな。住み込みになるから、食事代と部屋代は引く」
「素直に働きますかな、あれは」
「知らん」
弐角たちを一旦城へと帰して、だらだらと壱臣の帰りを待っている。成人は、辞書を開いて何やら調べ物中だ。泊まり用の鞄から、重たい辞書が出てきて驚いた。もう少し、持ち歩けそうな大きさのものを探してやろうか。いや、小さいと載っていない言葉も多いから、結局役には立たないか。どんな言葉を調べているのかは知らんが。
ま、成人が楽しいなら、何でもいいか。
「ただいま!」
壱臣の声が響いて、成人が身軽に立ち上がった。
「おかえりー」
言いながら、玄関へと向かう背を視線で追う。ふ、と笑みが溢れた。
「なんです?」
「いや」
帰る家も持たなかった二人。ただいま、と壱臣が言い、おかえり、と成人が言う。こうして交わされる挨拶を聞いていると、自然なそれが何だかおかしかっただけだ。
「この屋敷は、いい買い物だった」
「べらぼうに、高かったですけどね」
「気にするな」
大したことじゃない。だいたい金は、使うために稼ぐんだ。成人が、おかえりと言える場所が増えるのは、いい事じゃないか。
「殿下、ただいま戻りました」
「おう」
壱臣がこの国で、笑顔で歩けるのもいい。
「縞さんが交渉してくれましたんや。蕎麦屋の奥の座敷を一つ、借りることができました」
「そうか。縞、ご苦労」
「縞、ありがとう」
「いえ、そんな。勿体ないお言葉でございます」
城の上級侍女の証である着物が効いたか。実に使える侍女だ。平伏した縞に声を掛けると、ますます縮こまって、額を畳に擦り付ける。
はて。そういえば、この侍女を借りたままだった。ま、共に食事をしてから帰してもよいか。
「頭を上げろ。まずはすまん、縞。お前の主を城へ帰してしまった。連絡しておくから、共に食事をしてから帰れ」
「へ?ひ、ひええ」
頭を上げて周りを見渡した縞は、か細い悲鳴を上げる。ん?どうした?
「あの。あの。ご案内までは致しますので、その先はご容赦を」
「そうか?」
「勘弁してやってください、殿下。こんなに有能なんだ。早く返してやらないと、弐角さまも難儀されるだろう。何か褒美を渡して、帰してやるのが最善ですよ」
「そうか」
仕方ない。何か俺の印が付いた品と、褒美の金を包ませよう。
「縞。また今度、ご飯一緒に食べようね」
「は、はは。勿体なきお言葉を賜り、恐悦至極に存じます」
また、畳に額を擦り付けた縞が言った。
成人の辞書に、今の言葉の解説は載っているか?
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