【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

26 楽しみがまた一つ  成人

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「待て、なる。見可みか灯可とうかには、まだ言うてはならんぞ」

 座ったままの緋見呼ひみこさまに優しく右腕を引かれて、柔らかい腕に囲われる。
 良い匂い。
 大人の女の人はだいたい皆、柔らかくて良い匂いがして、くっつくと気持ちいい。もうちょっとこうしててもいいかな、と体を預けた。

「良いか、なる。まだ確定で無いことは、子どもには言うてはいかん。きちんと確かめてから伝えねばな」
「?」

 間違えてたら、正しい情報を伝え直せばいいんじゃない?違ったよ、と言えばいい。

「ふむ。お前は妙に大人っぽい所もあるな。こうしてすり寄ってくる姿は可愛いのじゃが。良いか。特に見可みかは、妹が来るはずだ、ととても楽しみにしておったろう?やはり違ったと伝えたら、がっかりするだろう。がっかりでは済まず、悲しむかもしれない」

 情報が、時に正確でないことなど当たり前のことだ。修正されるだけ、ましじゃないか。
 ふふ、と緋見呼ひみこさまは笑った。

「分からぬか?」
「戦場では、正確な情報の方が少ないからな」

 隣に腰を下ろした緋色ひいろが、俺に向かって手を広げている。
 うーん。
 やっぱり緋色ひいろがいい。

「おや、残念。取られてしもうた。なるの常識は、未だ戦場のものか?」
「常識か。まあ多分、間違った情報も、修正されるならそれでいい、とは思っているだろうな」

 そうそう。間に合うように修正されるなら問題ない。

「感情に流されておっては生き残れぬ、か。ふむ。よいか、なる」

 俺は、いつものように緋色ひいろの胡座の上に収まって、緋見呼ひみこさまを真っ直ぐに見た。

「子どもというのはな、感情を抑える練習をしておる生き物じゃ。様々な経験をして、少しずつ負の感情を飲み込めるようになる。どうしようもなく、そういった経験にさらされることもあろう。悲しかったり寂しかったり、ものすごく嫌な思いをしたり、な。どうしようもない時は仕方ない。少しでもその感情に打ち勝てるよう、近くで見守り、抱いて頭を撫でてやろう。だがな、回避できるものなら、大人が手を加えても良いのだ。確かでない情報を与えてぬか喜びさせるくらいなら、しっかり精査して確実じゃと分かってから与えればよい。違うか?」

 そうか。
 一回喜んでから、違ったとがっかりするより、きちんと調べて分かってから伝えたら、嬉しいだけで済む。違ったら伝えなければいいだけ。そうしたら、がっかりしなくて済む。
 うん。
 その方がいい。

「違わない」

 よく考えて答えたら、よし、と頭を撫でられた。嬉しい。

「大人はな、確定していない状況で動かなくてはならない時がある故、早くに情報があってもよい。例えば今回は、帰ったらすぐに医師を呼ぶために、この不確定な情報は役に立ったな?」
「うん!」
「よし。よく分かっておる。流石じゃ。では此度のこれは、私との内緒事であるぞ」
「うん」
「結果が分かれば、すぐになるに知らせる故、二人にも伝えてやっておくれ」

 ん?俺が伝えるの?

「なるが気付いたのじゃから、その重大任務はお主の役目じゃ」
「はい」

 その日が、楽しみ。

 
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