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第六章 家族と暮らす
65 目が覚める 朱実
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「生松、どう?」
赤璃?
「大丈夫ですよ。頬はどうしても腫れてしまいますけど、他は何ともありません」
「そう……」
「何ともなくない。黒い」
成人……?声が近い……。
「ああ、そうですね。隈が酷い。少し休みを取ることをお勧めします」
頭を撫でる手。なんともふわふわと気持ちの良い……。
は?
不意に覚醒して、ぐい、と瞼を上げた。
目の前には、心配そうな顔の成人。右手は私の頭に伸びている。
「あ」
「おや」
成人とその後ろの生松が上げた声に、赤璃が近付いてきた。
「朱実?目が覚めた?大丈夫?」
何てことだ。
こんな所で、意識を失くしていたなんて。
気持ち良いと感じていた手が、成人のものだったなんて。
慌てて起き上がろうとすると、生松の手にやんわりと抑えられた。
「殿下。急に動かれますと危ないです」
柔らかい雰囲気でありながら、かなり本気で抑えてくる。成る程、こういう男か、と生松を睨んだが、にこりと笑まれただけだった。もとより、寝起きの体と頭で抵抗できるものでは無い。
あきらめて力を抜くと、生松の手が離れていった。
慌てることはない。大切なのは、状況の確認だ。
場所はソファではない。簡易ベッドか。襟元とベルトは緩められ、靴と靴下は脱がされているが、他はそのままだ。私を起こさない程度に衣服を寛げたのだろう。
ベッドなど、この小部屋によく持ち込んだものだ、と感心した。二つあったソファの一つと机が運び出されて、そうして空けた場所にベッドを置いたらしい。物音に気付かず、ソファから体を移されても覚醒しなかった自身に呆れる。
一つ残されたソファに緋色が座り、書類に目を通している。今は私のベッド脇に立ち上がっている赤璃も、そのソファに座っていたのだろうことは察せられた。そして成人と生松。部屋の隅には、私の侍従の十時が控えている。
私の醜態を、なるべく人へ見せぬ配慮はしてくれたのか。
「朱実?」
「ああ、大丈夫……」
もう一度赤璃に呼び掛けられて口を開くと、頬がひどく痛んだ。
顔が痛みに歪んだのだろう。
間近にいた成人の顔も、痛そうに歪む。ふむ、と生松が思案する様子を見せた。
「皇太子殿下。今日は、このまま休まれませ」
頬の痛みで、寝られそうにないが?
「いっぱい寝てね。黒いのは、ちゃんと休まないと治らないよ」
本気で心配している様子の成人の声。
「殿下の目の下の隈が酷いので、心配しているのですよ」
成人の言葉の補足などいらぬ、と頭には浮かんだが口には乗せなかった。
「私もいつも、監視されています」
生松は苦笑混じりに続けた。
「成人に養生してもらいたくて教えたのですがね。私や睦峯の目の下に隈を見つけると、義父上に言いつける徹底ぶりで。隈が消えるまで、ろくろく仕事もさせてもらえません」
「目の下が黒い人は疲れてるから、たくさん寝て、お休みしないと駄目なんだよ」
「ええ。私がそう言ったんですよね……」
それはまた、言葉が盛大に自分に返ってきたな。
生松は溜め息を吐きつつも笑っている。
「お陰で、うちの者は皆、すこぶる健康だ」
緋色が楽しそうな合いの手を入れた。
「確かに」
生松は、目を細めて成人を見た。まるで、可愛くて堪らないというように。
そうだ。この男は、成人の命を繋いだ男。
交わされるのは仲の良い家族の会話。
ああ。
殴られた頬が痛い。
赤璃?
「大丈夫ですよ。頬はどうしても腫れてしまいますけど、他は何ともありません」
「そう……」
「何ともなくない。黒い」
成人……?声が近い……。
「ああ、そうですね。隈が酷い。少し休みを取ることをお勧めします」
頭を撫でる手。なんともふわふわと気持ちの良い……。
は?
不意に覚醒して、ぐい、と瞼を上げた。
目の前には、心配そうな顔の成人。右手は私の頭に伸びている。
「あ」
「おや」
成人とその後ろの生松が上げた声に、赤璃が近付いてきた。
「朱実?目が覚めた?大丈夫?」
何てことだ。
こんな所で、意識を失くしていたなんて。
気持ち良いと感じていた手が、成人のものだったなんて。
慌てて起き上がろうとすると、生松の手にやんわりと抑えられた。
「殿下。急に動かれますと危ないです」
柔らかい雰囲気でありながら、かなり本気で抑えてくる。成る程、こういう男か、と生松を睨んだが、にこりと笑まれただけだった。もとより、寝起きの体と頭で抵抗できるものでは無い。
あきらめて力を抜くと、生松の手が離れていった。
慌てることはない。大切なのは、状況の確認だ。
場所はソファではない。簡易ベッドか。襟元とベルトは緩められ、靴と靴下は脱がされているが、他はそのままだ。私を起こさない程度に衣服を寛げたのだろう。
ベッドなど、この小部屋によく持ち込んだものだ、と感心した。二つあったソファの一つと机が運び出されて、そうして空けた場所にベッドを置いたらしい。物音に気付かず、ソファから体を移されても覚醒しなかった自身に呆れる。
一つ残されたソファに緋色が座り、書類に目を通している。今は私のベッド脇に立ち上がっている赤璃も、そのソファに座っていたのだろうことは察せられた。そして成人と生松。部屋の隅には、私の侍従の十時が控えている。
私の醜態を、なるべく人へ見せぬ配慮はしてくれたのか。
「朱実?」
「ああ、大丈夫……」
もう一度赤璃に呼び掛けられて口を開くと、頬がひどく痛んだ。
顔が痛みに歪んだのだろう。
間近にいた成人の顔も、痛そうに歪む。ふむ、と生松が思案する様子を見せた。
「皇太子殿下。今日は、このまま休まれませ」
頬の痛みで、寝られそうにないが?
「いっぱい寝てね。黒いのは、ちゃんと休まないと治らないよ」
本気で心配している様子の成人の声。
「殿下の目の下の隈が酷いので、心配しているのですよ」
成人の言葉の補足などいらぬ、と頭には浮かんだが口には乗せなかった。
「私もいつも、監視されています」
生松は苦笑混じりに続けた。
「成人に養生してもらいたくて教えたのですがね。私や睦峯の目の下に隈を見つけると、義父上に言いつける徹底ぶりで。隈が消えるまで、ろくろく仕事もさせてもらえません」
「目の下が黒い人は疲れてるから、たくさん寝て、お休みしないと駄目なんだよ」
「ええ。私がそう言ったんですよね……」
それはまた、言葉が盛大に自分に返ってきたな。
生松は溜め息を吐きつつも笑っている。
「お陰で、うちの者は皆、すこぶる健康だ」
緋色が楽しそうな合いの手を入れた。
「確かに」
生松は、目を細めて成人を見た。まるで、可愛くて堪らないというように。
そうだ。この男は、成人の命を繋いだ男。
交わされるのは仲の良い家族の会話。
ああ。
殴られた頬が痛い。
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