【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

31 幸せな昼に  壱臣

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 宿の方から、お昼にと持たせてもらったお弁当を広げて食べている途中で、成人なるひとくんがぼんやりと止まっている。

成人なるひと

 殿下の声にはっとして、うむうむと口に入れたおにぎりを噛む動作を見せるけど、またすぐに止まって、右目がぱち、ぱちと瞬いた。
 溜め息を吐いた殿下が膝の上に乗せると、また慌てたように少しだけ口が動く。

「もう少し早く昼にしたら良かったな」

 珍しく後悔を滲ませた声を上げた緋色ひいろ殿下が、水筒から冷えたお茶を注いだコップにストローを差して、成人なるひとくんの口にあてがった。
 ん、ん、ん、と三口ほど飲んだ頃にはもう右目は開いていなかった。殿下が口からストローを外すと、かくん、と首が落ちる。
 コップを置いた殿下が腹の上にうつ伏せに抱え直すと、ふ、と成人なるひとくんの表情が緩むのが見えた。

「失敗した……」

 眉をしかめる殿下には申し訳ないけれど、あまりに可愛い姿に思わずうちの頬が緩む。目一杯遊んで、ご飯のために座った途端に電池切れなんて、なんて可愛いんやろ。確かに、おにぎり半分と甘い卵焼き一切れでは少なかったけど、一応腹に食事は入ったし、起きたらまた食べるやろ。きっと、お腹空いた、なんて言うはずや。
 殿下は、成人なるひとくんをお腹の上に置いたまま、自分の食事を開始した。ついでに、荘重むらしげさまから何か書類も預かっている。

「何かありましたか?」

 半助はんすけの言葉に、いや、と軽い返事が返ってきた。

「いつもの仕事。朱実あけみが俺に付けてる一ノ瀬いちのせが行き来してるようだから、さい三郎さぶろうが最終処理できないものを運ばせた。だいたいは任せておけばやってくれるから、大したことじゃない」
「ぶ、……っふふ。げほっ」

 ん?
 うちが首を傾げている横で、半助はんすけが吹き出してむせている。

「ん?何?」

 半助はんすけの背中を擦ってやりながら聞くと、おにぎりを置いてお茶を飲み、深呼吸してからやっと教えてくれた。

「監視を、ぶっ、ふふふ」
「うん?」

 まだ笑いは収まらないらしい。

「監視を郵便配達扱い……。くくく」
「監視?監視されとるんですか?」
「んー、まあ、そうなんだろ?」

 お弁当を並べて昼食の準備を終え、殿下に書類を手渡してから共に食事の席に着いた荘重むらしげさまに、殿下の目線が向けられる。

「陰ながらの護衛です、と申し上げておきます。殿下は、常陸丸ひたちまるしかお側に連れて頂けないので」
「だそうだ」
「その、陰ながらの護衛さんが、お仕事を配達してくれるんですか?」
「ああ。毎日朱実あけみに報告書を上げているようだからな。行き来してるやつがいるなら使わない手はないだろ?」
「ほんまや。ええですね」

 確かに。行き来してるんやったら、ついでにちょっと書類を運んでもらえると助かるな。ついでやもんな。
 うちが、ほんまやほんまや、と真面目な顔で頷いたら、半助はんすけがまた、ひーひーと笑いだした。
 なんや?どうした?

「いや。何でもない。おみはやっぱり最強や」
「???」

 荘重むらしげさまも、甘い卵焼きを口に運びながらにこにこと笑っている。

壱臣いちおみは何も気にせず、楽しんだらよろしい」
「そ、そうですか」

 荘重むらしげさまの言葉に、とりあえず頷いた。

「食べ終えたら二人で好きに回ってこい。きりんの餌やりは午後にやっていたはずだ」
「ありがとうございます」

 殿下の言葉に、半助はんすけが素直に答える。今日は、今まで見たことない色んな笑いかたをする半助はんすけを惚れ惚れと見て、楽しんでるんやな、とふと思った。
 うちも楽しい。頬が緩む。緩みっぱなしや。
 なんて幸せなんやろ。
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