【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

196 疲れる遊び  成人

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 チョキ、と見えたからグーを出そうとしたら、緋椀ひまりの手がパーに変わるように動いた。駄目、間に合わない。とりあえず、パー。

「あいこだ!」

 灯可とうかの大きな声。

「やった!緋椀ひまり兄さま。あいこだ」
「くそっ」
「むー」

 緋椀ひまりと俺が唸ると、ははっと三雲みくもの笑い声がした。

「いやあ、凄い」

 あいこの時は、もう一回。

「あーいこでしょ」
「あーいこでしょ」
「あーいこでしょ」

 うー。
 相手に勝つ手が何か、分からなくなってきた。見えたものと同じ手を出すので精一杯。
 なんか、きーんって耳鳴りがする。

「そこまで」
「引き分け」

 緋色ひいろ三雲みくもの声がして、右目が大きな手でふさがれる。出していた右手をぎゅっと握られて、背中から抱き込まれた。

「はっ……は……」

 あいこでしょって言ってたつもりだったのに、いつの間にか息を止めていたみたいだ。緋色ひいろの体温を感じた途端に、空気を求めて喘いだ。
 お向かいでも、緋椀ひまりのはあっという大きな呼吸が響く。

「こ、こ、怖えー。え?何?何してたの、今。じゃんけん?じゃんけんだよね?」
「まあ、じゃんけんですね」

 たからに、三雲みくもが答えている声がした。

「いや、あの、じゃんけんってもっとこう、楽しいものだったよな……。いや、何?なんで?なんで、こんなんなるの?」
たから兄さま、私とじゃんけんする?」
「…………なんか、したくないんだけど」

 灯可とうかが、たからをじゃんけんに誘っている声がする。少しだけしん、としていた室内が、またざわざわとした話し声に満ちた。
 呼吸が落ち着いてやっと、緋色ひいろが目元の手を離してくれた。緋椀ひまりのうっすら赤くなった顔が見える。三雲みくもにもたれ掛かって、くたっとしてたけど、俺と目が合うと、すうっと目を細めて笑った。俺も、自然と頬が緩む。楽しかったね。
 三雲みくもが溜め息を吐いて、緋椀ひまりを抱えて立ち上がった。

「すみません。伴侶が飲み過ぎたようです。デザートも頂いたし、お先に失礼します」
「うちも帰るか」

 緋色ひいろも、俺を抱っこして立ち上がった。

「えええー。成人なるひとさまともっと遊ぶ」

 福笑いを持った見可みかが、いつの間にか近くにいて言ったけれど、ごめん。俺、頭痛い。

「冷たい水飲む」

 声が掠れていて、上手く話せない。緋色ひいろに水をもらって、目を閉じた。
 じゃんけんってさ、楽しいけど、疲れるなあ。
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