【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

170 ヨイヨイ帝の話  緋色

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「殿下、お願いしたいことがあるのですが」
「ああ。よいぞ」
「……は?」
「よいよい」

 話し掛けてきた生松いくまつが、俺の返事に、はあ、と溜め息を吐く。
 成人なるひとが楽しそうに洗濯していたと思ったら、あっという間に昼食だ。食って、ごろごろしてるだけで休みが終わるってのは本当だな。そういう休みも、成人なるひとと過ごすなら大歓迎だが。

「ヨイヨイ帝は、希代の名君か、はたまた暗君かと歴史家たちは未だ、結論を出せていないようですよ」
「暗君に決まってんだろ」
「ヨイヨイていって何?」

 成人なるひとの問いかけが降ってきた。最近は、自分で調べるからと安易に聞かなくなってきたが、流石に、全く聞き覚えの無い響きの言葉だったのだろう。
 この国で、義務教育を受けた者なら皆、知っている。

「昔、この国にいた皇帝のあだ名ですよ」
「皇帝……。父さま?」
「ええ。今上帝の何代も前のみかどで、家臣の進言に何でも、よいぞ、良いようにせい、と仰られた方です」
「よいよい……」

 くすっと成人なるひとが笑った。

「はい。だからヨイヨイ帝。今、私が殿下にお話をしようとしたら、話も聞かずによいぞ、と仰ったので、ヨイヨイ帝は必ずしも名君というわけではありませんよ、とご注意申し上げたのです」

 うーん、と少し考えた成人なるひとが、

「名君って?」

 と、聞いた。

「名君というのは、そうですね……。その帝が治めている時期に、戦争が起きたり暴動が起きたりすることなく平和であったことから、治めていた帝が上手に国を運営したのだ、と褒める言葉です。素晴らしい君主、という意味ですね。暗君は逆で、民が平和に暮らせない、苦しい暮らしを強いられていた時代を治めていた君主に使われます。民の苦しみを救えなかったら、暗君と言われてしまいますね。一概にそうとは言えないと私は思いますが……。ヨイヨイ帝の御代は、穏やかな良い御代でしたので、ヨイヨイと言っていても、きちんと政策を考えていた名君だと言う人と、運が良かった、仕える人間に恵まれていただけの暗君だと言う人がいて、意見が分かれる帝なんですよ」

 小学校でやる説明から、高校でやる討論のような説明まで、ひと息にいったな……。
 うーん、うーん、と唸っている成人なるひとは、真剣な顔で、

「良くないときも、よいって言ったの?」

 と、言った。

「昔のことですからね。話をしっかり聞いてみて、たまたま全てが良い政策だったのか、本当はたまには良くないって言っていたのに物語として面白いようにそう書かれているのかは分かりません」
「ふーん……」

 生松いくまつは、くるりと俺を見る。

「とりあえず、話も聞かずにヨイヨイと仰った殿下は今、暗君でございます」

 うちに仕える奴らは皆優秀だから、きっと俺は後の世で名君だと言われると思うぞ?
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