【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

138 誰にも止められない  半助

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「あ、あの、これは、どういう……」

 とりあえずおみの後ろに座って左手で抱き寄せると、くたりと嬉しそうにもたれ掛かってくる。ああ、もう。そんな色っぽい顔をして!手に持っているお猪口は空のようやから、手を開かせて取り上げ、机に置く。
 仕事終わりに始まったにしては、できあがりすぎている四人。話が通じそうなのは、すぐ隣に座っている常陸丸ひたちまるさまの腕の中の乙羽おとわさまくらいか。
 顔を向けると、へにょ、と形の良い眉が下がった。

「ごめんなさい、半助はんすけ。私もついさっき、気付いたの」

 こっそり始まってたんやね……。

「もう。緋色ひいろはお酒くさいから、いい匂い付ける。髪の美容液持ってくるから離してえ」
「ははは、いい匂いか。いいな、付けてくれ」

 緋色ひいろ殿下の腕が緩んだ隙に立ち上がった成人なるひとさまは、そのままかくんと膝が崩れてまた同じ場所に戻った。

「あれ?」
「はははは。おかえり」

 すぐに成人なるひとさまの頬に殿下の口付けが落ちる。成人なるひとさまは、くさいーと鼻の頭に皺を寄せながら、口付けには嬉しそうにすり寄っている。
 
「ほら、お前も飲め飲め」

 成人なるひとさまにミックスジュースを渡して、乾杯と猪口を合わせ、殿下が笑った。

「乾杯?」
「そ。めでたい時や嬉しい時に乾杯するだろ?」
「じいじは、いっつも乾杯してる」
「いっつも嬉しいんだろ」
「その通り!ほれ、成人なるひと。わしとも乾杯しよう!」

 ご機嫌な緋色ひいろ殿下を眺めていると、音もなく人が横に立つ。思わずおみから手を離して、体から全て外した武器を探してしまう。

半助はんすけ、ほれ」

 お猪口を二つ持った荘重むらしげさまが横に座って、けろりと言った。この人は本当に意地が悪い。わざわざ気配を消して近寄らんでもええやんか。お猪口を一つ、当たり前のように差し出してくる。もう一つの手に持っていたオレンジジュースは、乙羽おとわさまの手に渡っている。

「ええと?」
「飲むだろう?」

 いや、俺はもう、この腕の中の可愛い生き物を連れて部屋に帰りたいんやけど。毒と同じように、酒に乱れないよう慣らしてきた体には、大して酔いも回らないし。
 という心中を荘重むらしげさまに言える訳もなく、渡されたお猪口には酒が注がれる。

「い、いただきます……」

 くい、と口に含むと、喉がかっと熱くなった。酷く懐かしい感覚……。おみと国を出てから、酒なんて飲んでいなかったな……。

「それはちょっと辛かった。うちは、あっちの甘いのが好きー」

 すっかり体を預けて大人しいから、もう寝そうなのかと思たら、俺に注がれた酒を見て、おみが話しかけてくる。

「へええ。甘いお酒もあるの?私も飲んでみようかな」

 乙羽おとわさまがオレンジジュースを机に置いて、常陸丸ひたちまるさまの猪口を取り上げた。

乙羽おとわは飲まなくていいの」
「え?自分はたくさん飲んだんでしょ?美味しいって言ってたじゃない。私も一口くらい飲んでみたいわ」
「だーめ。子どもは駄目なんだ」
「私たち、同級生よ?」
乙羽おとわは小さいから駄目だ」
「絶対に飲んでやるわ!」

 何だかもうあちこち収拾がつかんけど、俺にはどうしようもない。飲み干した猪口を置いて、荘重むらしげさまの猪口にも同じ酒を注ぐ。猪口を持ってはるし、飲むんやんな。

「旨い」

 ひと息に飲み干した荘重むらしげさまが、満足げに笑う。こんな表情、初めて見た。
 二杯目は、おみのお勧めの甘い酒を注がれて、流されるままに口にする。口当たりはまろやかやけど、弱い酒では無さそう。
 ああ、すきっ腹にくる。酔ってしまう。
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