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第五章 それは日々の話
137 休みは合わせなくてはならない 半助
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今日は、臣が一日休みやのに、俺は昼の勤務が入ってしまった。なるべく休みを合わせたいと調整するも、どうしてもこういった日ができてしまう。
一人で出掛ける用事なんてないよ?寒いし、と言っていたから、部屋に籠って料理本を読んどるか、厨房の空き時間に新しい料理の試作をしているんか。それとも、成人さまにつられて始めた勉強の本を開いているやろうか。
数時間おきの休憩時間には、臣の様子を見に帰りたい気持ちを抑えるのが大変やった。いっそ臣も仕事をしていてくれるなら、こんなに気にはならへんのに。
臣は、学校へ通ったことがない、という成人さまが、読み書きや計算を勉強しているのをみて、自分も、学校へ通えていない期間があったことを思い出したらしい。調理師免許が取得できているんやから最低限の勉強は終わっとるよ、大丈夫やで、と言っても、関わり合う人間が増えたことで、皆が当たり前のように知っている話を知らんことがある、と気にしていた。車の免許も取りたい、なんて言い出している。
何でも自由に楽しんでくれたらいい。何があっても、きっと守ろう、と思っている。楽しそうな臣に水を差したくない。けど本当は、車の免許を取得することに関してだけは、反対や……。自由に遠くへ行ける手段を持って欲しくない、という俺の我が儘を口にすることもできず、曖昧に頷いているんやけど。
つらつらと臣のことばっかり考えながら、急いで離宮へ帰る。この住みかも、二人で暮らしてみたい、という欲求より、臣が今日みたいに一人で休みの時に、絶対に安全で安心な家の方がいい、と選んだ。洗濯や掃除も、頼めばやってくれるのは、助かる。片手でも大抵のことは出来るようになったとはいえ、二人で暮らすとなると臣の負担が重たくなるのは間違いないんやから。
殿下への感謝を改めて胸に抱きながら帰宅した。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
挨拶をして入ると、通りがかった者が口々に返事をしてくれる。が、俺の帰宅時間を知っている筈の臣がいない?
不安になりながら階段を上がっていると、荘重さまに抱かれた成人さまが階段を下りていくところだった。
珍しくこんな時間まで昼寝をしていたのか。気だるげに、おかえり、と言ってくださる。成人さまからは、香油の仄かな匂いがした。
「ただいま帰りました」
「おかえり。壱臣は食堂だ。着替えてから来なさい」
荘重さまの言葉は逆らえない響きを持っていたので、慌てて階段を上がる。急いで軍服を脱ぎ、隠し武器を全部外して楽な服装に着替え、食堂へ着いてみれば。
「おーう。お仕事ごくろー」
「緋色、くさいい。いやーん」
顔を背ける成人さまを気にせず腕の中に囲い込み、首筋の匂いを嗅いでいる満面笑顔の緋色殿下。
「半助、おかえり!お前も一緒に飲もう!」
いつも通りご機嫌な利胤さまの大きな声。
「おかえりい。半助、壱臣な、割りと酒、いけるぞ」
「もー。常陸丸、飲み過ぎよ。くさいよお」
顔色は変わらないのに話し方がのんびりになっている常陸丸さまの腕の中には乙羽さまが抱え込まれている。
そして。
「あー。半助だあ。おかえりい」
全身をほんのり朱に染めて、とろんとこちらを見る臣。
ただいま、と返すこともできずに凝視してしまう。
「臣……?お酒、飲めたん?」
飲んでいる所は見たことがないけど、もうとっくに成人してるんやから、飲めてもおかしない。実は好きやったんやろか?
「んー?初めて飲んだけど、美味しいねえ」
初めて……。
この家を絶対に安全で安心や言うたんは、間違いやったかもしれん……。
一人で出掛ける用事なんてないよ?寒いし、と言っていたから、部屋に籠って料理本を読んどるか、厨房の空き時間に新しい料理の試作をしているんか。それとも、成人さまにつられて始めた勉強の本を開いているやろうか。
数時間おきの休憩時間には、臣の様子を見に帰りたい気持ちを抑えるのが大変やった。いっそ臣も仕事をしていてくれるなら、こんなに気にはならへんのに。
臣は、学校へ通ったことがない、という成人さまが、読み書きや計算を勉強しているのをみて、自分も、学校へ通えていない期間があったことを思い出したらしい。調理師免許が取得できているんやから最低限の勉強は終わっとるよ、大丈夫やで、と言っても、関わり合う人間が増えたことで、皆が当たり前のように知っている話を知らんことがある、と気にしていた。車の免許も取りたい、なんて言い出している。
何でも自由に楽しんでくれたらいい。何があっても、きっと守ろう、と思っている。楽しそうな臣に水を差したくない。けど本当は、車の免許を取得することに関してだけは、反対や……。自由に遠くへ行ける手段を持って欲しくない、という俺の我が儘を口にすることもできず、曖昧に頷いているんやけど。
つらつらと臣のことばっかり考えながら、急いで離宮へ帰る。この住みかも、二人で暮らしてみたい、という欲求より、臣が今日みたいに一人で休みの時に、絶対に安全で安心な家の方がいい、と選んだ。洗濯や掃除も、頼めばやってくれるのは、助かる。片手でも大抵のことは出来るようになったとはいえ、二人で暮らすとなると臣の負担が重たくなるのは間違いないんやから。
殿下への感謝を改めて胸に抱きながら帰宅した。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
挨拶をして入ると、通りがかった者が口々に返事をしてくれる。が、俺の帰宅時間を知っている筈の臣がいない?
不安になりながら階段を上がっていると、荘重さまに抱かれた成人さまが階段を下りていくところだった。
珍しくこんな時間まで昼寝をしていたのか。気だるげに、おかえり、と言ってくださる。成人さまからは、香油の仄かな匂いがした。
「ただいま帰りました」
「おかえり。壱臣は食堂だ。着替えてから来なさい」
荘重さまの言葉は逆らえない響きを持っていたので、慌てて階段を上がる。急いで軍服を脱ぎ、隠し武器を全部外して楽な服装に着替え、食堂へ着いてみれば。
「おーう。お仕事ごくろー」
「緋色、くさいい。いやーん」
顔を背ける成人さまを気にせず腕の中に囲い込み、首筋の匂いを嗅いでいる満面笑顔の緋色殿下。
「半助、おかえり!お前も一緒に飲もう!」
いつも通りご機嫌な利胤さまの大きな声。
「おかえりい。半助、壱臣な、割りと酒、いけるぞ」
「もー。常陸丸、飲み過ぎよ。くさいよお」
顔色は変わらないのに話し方がのんびりになっている常陸丸さまの腕の中には乙羽さまが抱え込まれている。
そして。
「あー。半助だあ。おかえりい」
全身をほんのり朱に染めて、とろんとこちらを見る臣。
ただいま、と返すこともできずに凝視してしまう。
「臣……?お酒、飲めたん?」
飲んでいる所は見たことがないけど、もうとっくに成人してるんやから、飲めてもおかしない。実は好きやったんやろか?
「んー?初めて飲んだけど、美味しいねえ」
初めて……。
この家を絶対に安全で安心や言うたんは、間違いやったかもしれん……。
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