【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

124 家族のような人  緋色

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 わはははは、と廊下から野太い声が聞こえて、成人なるひとの体が、びくんと揺れる。

広末ひろすえ、俺も食べていいのか?」
「大丈夫です、不動ふどうさま。作り始める前に、来られたことを聞いておりましたから」
「いやあ、嬉しいなあ!お前の飯は久しぶりだ」

 泉門院せんもんいん不動ふどうの声は、相変わらずでかい。

「もうっ、あの人は!」

 抑えた声を漏らして青葉あおばが立ち上がり、廊下へと早足で歩いていった。

「うるさいよ、不動ふどうさん。なるちゃんが寝てるんだから、声を抑えて」
「え、そうか。すまんすまん」

 やがて、抑えても普通よりよく響く二人の声が聞こえてきて、足音を忍ばせた不動ふどうが近付いてきた。

緋色ひいろ殿下、お久しぶりです」
「ああ。久しぶりだな」 

 膝を付いて包拳礼を取る不動ふどうとは、戦地から帰ってから顔を合わせていなかったかもしれない。もう二年?戦地にいた頃を合わせたらそれ以上か?
 学生の頃は、城には帰らずに泉門院せんもんいんの屋敷に泊まることが多かったから、しょっちゅう顔を合わせていた。
 泉門院せんもんいん家は、家格は低いが、身体能力の高さから警備や軍部の重要な職に付いている者も多く、自家に道場を持っていて慕う門下生も多い。今では直系が三人も皇族の護衛に抜擢されているのだから、下級の兵士の一族と馬鹿にできない勢いをつけてきている。道場の門を叩く者が引きも切らず、忙しくしているようだ。
 
成人なるひとさまが寝てしまったとは残念です。挨拶をしたかったのに」

 そう言って上げた顔は、二年ほど前に会った時と何も変わらない。きっと成人なるひとが起きていたらこう言っただろう。
 また、おんなじ顔だあ、と。
 泉門院せんもんいん家の血がよほど濃いのか、男は皆似たような顔付きなのだ。不動ふどうの兄の子である朱実あけみの護衛の一人、弥壌みづちも、常陸丸ひたちまるの兄だ、と言われたら、そうか、と頷くくらい同じような顔をしている。
 常陸丸ひたちまる力丸りきまるが歳を重ねたらこうなるのだろうな、という顔立ちの不動ふどうが目尻を下げて、そっと成人なるひとを覗き込んだ。

「よう寝とる。うーん、残念」

 子ども好きの夫婦の目は、いつも優しくて好きだった。俺に敬意は払うが、俺は常陸丸ひたちまるの友人だと伝えた後は、家を訪ねてきた友人として扱ってくれた。特別扱いをせず接してくれるのが心地好かった。今も、側にいて安心している自分に驚く。成人なるひとはきっと、すぐに懐くだろう。

「またいつでも来い」
「そうします」

 本人なりに抑えた声で不動ふどうは答えた。

「ただ」

 そう言って、更に声を潜める。もちろん、本人なりに、の潜めた声だ。

「妻の運転で来るのはもう、こりごりです」

 もちろん、近くに居た青葉あおばの耳には届いていて、ぱん、と頭を叩かれていた。
 
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