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第五章 それは日々の話
125 千客万来の予感 緋色
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「こちらの部屋は、もう少し音が漏れないように、壁を厚くするなどの作業をした方がええかもしれません」
もう、いつでも店を開ける状態になって、チラシを貼って軽く宣伝もし始めているのだが、店主は真剣な顔で訴えてきた。
母上と成人が二人で髪の美容液の店を訪ねた翌日の午後。昼食後に、上手く腕の中で成人を寝かしつけ、名残惜しいがベッドへ置いてきた。
この店舗での初めての客を迎えた感想と、開店へ向けての話をしようと訪れた所へこれである。
「ここまで品物も全て並べてから工事か。手間だな」
「昨日のお話は、お聞きになられましたか?」
「詳細な報告書は読んできた」
成人の話ではもちろん要領を得ないから、荘重と、母上に付いている二ノ瀬の女に報告書を提出させている。わざわざどちらにも書かせるのは、どの立場で見るかで内容が違うことがよくあるからだ。
特に違いが無ければそれでよし。もし書かれている内容に違いがあれば、それこそが重要な箇所だ。
今回は、特に注意すべき違いは見当たらなかった。母上付きの侍女兼護衛の、並々ならぬ美容液への興味が読み取れたくらいだ。土産として渡した時から、ものすごく興味を持っていたことは聞いていたが、報告書にも漏れ出すほどだとは。自分が使いたいのか、母上のくせ毛にかなり悩んでいたのか。
両方かな。
母上の話した内容が俺に関する事だったので、少し言葉を濁してあるのではないかと思われる箇所があった。どちらの報告書にも……。
どいつもこいつも、すっかり人間らしくなったことだ。感情を押し殺して、裏で淡々と仕事をこなす隠たちが、成人と共に楽しく過ごし始めるのは、まあ悪いことではないのかもしれない。
朱実に気付かれないようにだけ注意しよう。すっかり便利に使っているので、今更取り上げられると困る。一ノ瀬は成人と相性がいい。俺にとっての重要事項は、成人が快適に過ごせることだ。
「体験室の声が、思うたより売り場の方に漏れて聞こえておりまして、昨日のようなお話ですと聞こえては不味いんやないかと思たんです」
「こんな店構えだ。場所も場所だし、それほど高位の貴族たちが、すぐに訪れることは無いと思うんだが」
体験室での気持ちよさに、何か重要な話をうっかり口にする者が出てきてもおかしくない、要注意、とはどちらの報告書にも記載されていた。
ある意味、俺の店なのだから、皇族直属の隠を使ってもいいだろう。一ノ瀬かその配下の家門の者に、この店の護衛と監視を兼ねた者を交代で置くよう指示は出した。
「いえ、殿下。昨日、皇妃殿下に付いて来られた侍女殿が言うておられたんですけど、殿下のお土産を頂いた方々の侍女たちが、開店したらすぐに店に行きたいと意気込んでおられるそうです。ご自分でも、使用してみたいのだとか。もちろん、お仕えするご主人様方も、もう無くなったから早く同じものを欲しい、と要望なされておるそうで。正確な開店日はいつなのですか?と帰り際に確かめていかれた程です」
「…………」
あれを渡したのは、誰だったか。成人が持って行ったんだが、確か、母上と赤璃、緋見呼叔母上、青葉、凉乃絵……。青葉以外は、侍女がいる。その上、その人々が何か新しいことをすれば、すぐにそれが国の流行になるような憧れの女性ばかり。
青葉は、何て言ってた?
「家の女たち皆で使ってみたんだけど、良かったよー。大好評。知り合いの、髪が広がって困ってるって人にも貸してあげてさ、どこで売ってるんだって聞かれて、困っちゃったよ」
「もうすぐ、お店ができるよ。商店街だよ」
「あら、なるちゃん。それは嬉しいね!皆に教えてあげなきゃ!」
客は、来そうだな……。
もう、いつでも店を開ける状態になって、チラシを貼って軽く宣伝もし始めているのだが、店主は真剣な顔で訴えてきた。
母上と成人が二人で髪の美容液の店を訪ねた翌日の午後。昼食後に、上手く腕の中で成人を寝かしつけ、名残惜しいがベッドへ置いてきた。
この店舗での初めての客を迎えた感想と、開店へ向けての話をしようと訪れた所へこれである。
「ここまで品物も全て並べてから工事か。手間だな」
「昨日のお話は、お聞きになられましたか?」
「詳細な報告書は読んできた」
成人の話ではもちろん要領を得ないから、荘重と、母上に付いている二ノ瀬の女に報告書を提出させている。わざわざどちらにも書かせるのは、どの立場で見るかで内容が違うことがよくあるからだ。
特に違いが無ければそれでよし。もし書かれている内容に違いがあれば、それこそが重要な箇所だ。
今回は、特に注意すべき違いは見当たらなかった。母上付きの侍女兼護衛の、並々ならぬ美容液への興味が読み取れたくらいだ。土産として渡した時から、ものすごく興味を持っていたことは聞いていたが、報告書にも漏れ出すほどだとは。自分が使いたいのか、母上のくせ毛にかなり悩んでいたのか。
両方かな。
母上の話した内容が俺に関する事だったので、少し言葉を濁してあるのではないかと思われる箇所があった。どちらの報告書にも……。
どいつもこいつも、すっかり人間らしくなったことだ。感情を押し殺して、裏で淡々と仕事をこなす隠たちが、成人と共に楽しく過ごし始めるのは、まあ悪いことではないのかもしれない。
朱実に気付かれないようにだけ注意しよう。すっかり便利に使っているので、今更取り上げられると困る。一ノ瀬は成人と相性がいい。俺にとっての重要事項は、成人が快適に過ごせることだ。
「体験室の声が、思うたより売り場の方に漏れて聞こえておりまして、昨日のようなお話ですと聞こえては不味いんやないかと思たんです」
「こんな店構えだ。場所も場所だし、それほど高位の貴族たちが、すぐに訪れることは無いと思うんだが」
体験室での気持ちよさに、何か重要な話をうっかり口にする者が出てきてもおかしくない、要注意、とはどちらの報告書にも記載されていた。
ある意味、俺の店なのだから、皇族直属の隠を使ってもいいだろう。一ノ瀬かその配下の家門の者に、この店の護衛と監視を兼ねた者を交代で置くよう指示は出した。
「いえ、殿下。昨日、皇妃殿下に付いて来られた侍女殿が言うておられたんですけど、殿下のお土産を頂いた方々の侍女たちが、開店したらすぐに店に行きたいと意気込んでおられるそうです。ご自分でも、使用してみたいのだとか。もちろん、お仕えするご主人様方も、もう無くなったから早く同じものを欲しい、と要望なされておるそうで。正確な開店日はいつなのですか?と帰り際に確かめていかれた程です」
「…………」
あれを渡したのは、誰だったか。成人が持って行ったんだが、確か、母上と赤璃、緋見呼叔母上、青葉、凉乃絵……。青葉以外は、侍女がいる。その上、その人々が何か新しいことをすれば、すぐにそれが国の流行になるような憧れの女性ばかり。
青葉は、何て言ってた?
「家の女たち皆で使ってみたんだけど、良かったよー。大好評。知り合いの、髪が広がって困ってるって人にも貸してあげてさ、どこで売ってるんだって聞かれて、困っちゃったよ」
「もうすぐ、お店ができるよ。商店街だよ」
「あら、なるちゃん。それは嬉しいね!皆に教えてあげなきゃ!」
客は、来そうだな……。
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