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第五章 それは日々の話
36 知りたくないこと 力丸
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ぼろぼろ、ぼろぼろと壱臣さんが泣く。こんなときにも、声を殺して。それでも、周りを威嚇するように自分を抱きしめている半助にしがみついた。安心できる腕の中で、少しでも泣けたなら。泣く度に、一番悲しかった日を流していけるなら。
うう、ひくっ、と静かな泣き声を聞きながら、貰い泣きしそうになっていると、廊下から小さな人影が歩いてくるのが見えた。ふわふわと乱れた柔らかい髪。意外と寝相は悪いのか?触り心地の良さそうな寝間着を着て、むっと口を引き結んで、部屋に入ってきた。
「何で」
寝起きの声が掠れている。怒りの含まれた口調は珍しい。あいつがそんなのを表すのは、ほとんど俺の前くらいのもんなのに。
成人のふわふわの髪や寝間着に引き寄せられて近くに立とうとしたら、不機嫌な殿下に遮られる。相変わらず寝起きが悪い。昔、泉門院で寝泊まりしてる頃から、本当になかなか起きないし、起きてしばらくは、のそのそとしか動かない。俺ばっかり被害を受けまくってるって、先日、朱実殿下に話したら、緋色殿下の寝起きが悪いことを知らなかった。
驚く俺に、心を許せる場所でだけ、人は本性を見せるんだね……と寂しそうに、朱実殿下は言っていた。
不機嫌な魔王さまは、生松先生に真剣な顔を向ける成人の髪を手で撫で付けながら、水、と言った。成人の寝起きの喉が気になったんだろう。すぐに、気配が一つ動く。
「何で壱臣と半助が別々に寝るの?」
「半助さんの体調不良の原因は、壱臣さんの夢見が悪くて、その声で半助さんが起きてしまうことでしたから、一人で朝まで眠って頂きたかったのです」
「生松、間違い」
感情が乗った声を出しきれず、成人が咳き込んだ。落ち着くのを待って、殿下が水の入ったコップを成人に渡す。こくこくと飲んで、間違いだ、ともう一度言った。
「他の人なんて嫌でしょ」
「他の人……?」
「壱臣は、半助じゃなきゃ、嫌でしょ」
「…………」
「半助も間違い」
そうして、コップを殿下に渡して、ベッドの上で抱き合う二人に近寄った。
「抱っこして、一緒に寝なきゃ駄目でしょ」
「は、は……?」
また熱が上がったんだろう。赤い顔で目を潤ませながら半助が首を傾げる。
「怖い夢の時は起こして。そしたら、怖くない」
触れられるなら、抱きしめられるのなら、起こすことができるかもしれない。
「あ……」
半助は、ぽかん、とした後にがっくりと項垂れる。
「そう、か……。起こしてやれば良かったのか……」
夢の中で襲われている。現実には、この世で一番安心できる腕の中にいる。なら、することはたった一つ。
「う、うぅ。ううぅ……」
壱臣さんの堪えかねた泣き声が聞こえた。ちゃんと半助にしがみついて、声を上げて泣いている。
ああ。良かった……。
「成人。次は起こしてやるから」
「それは緋色がするからいい」
俺の言葉に、成人は普通に答えた。
そっか。
不意に気付いてしまった。
俺の一番はあいつなのに、あいつの一番は俺じゃない。
うう、ひくっ、と静かな泣き声を聞きながら、貰い泣きしそうになっていると、廊下から小さな人影が歩いてくるのが見えた。ふわふわと乱れた柔らかい髪。意外と寝相は悪いのか?触り心地の良さそうな寝間着を着て、むっと口を引き結んで、部屋に入ってきた。
「何で」
寝起きの声が掠れている。怒りの含まれた口調は珍しい。あいつがそんなのを表すのは、ほとんど俺の前くらいのもんなのに。
成人のふわふわの髪や寝間着に引き寄せられて近くに立とうとしたら、不機嫌な殿下に遮られる。相変わらず寝起きが悪い。昔、泉門院で寝泊まりしてる頃から、本当になかなか起きないし、起きてしばらくは、のそのそとしか動かない。俺ばっかり被害を受けまくってるって、先日、朱実殿下に話したら、緋色殿下の寝起きが悪いことを知らなかった。
驚く俺に、心を許せる場所でだけ、人は本性を見せるんだね……と寂しそうに、朱実殿下は言っていた。
不機嫌な魔王さまは、生松先生に真剣な顔を向ける成人の髪を手で撫で付けながら、水、と言った。成人の寝起きの喉が気になったんだろう。すぐに、気配が一つ動く。
「何で壱臣と半助が別々に寝るの?」
「半助さんの体調不良の原因は、壱臣さんの夢見が悪くて、その声で半助さんが起きてしまうことでしたから、一人で朝まで眠って頂きたかったのです」
「生松、間違い」
感情が乗った声を出しきれず、成人が咳き込んだ。落ち着くのを待って、殿下が水の入ったコップを成人に渡す。こくこくと飲んで、間違いだ、ともう一度言った。
「他の人なんて嫌でしょ」
「他の人……?」
「壱臣は、半助じゃなきゃ、嫌でしょ」
「…………」
「半助も間違い」
そうして、コップを殿下に渡して、ベッドの上で抱き合う二人に近寄った。
「抱っこして、一緒に寝なきゃ駄目でしょ」
「は、は……?」
また熱が上がったんだろう。赤い顔で目を潤ませながら半助が首を傾げる。
「怖い夢の時は起こして。そしたら、怖くない」
触れられるなら、抱きしめられるのなら、起こすことができるかもしれない。
「あ……」
半助は、ぽかん、とした後にがっくりと項垂れる。
「そう、か……。起こしてやれば良かったのか……」
夢の中で襲われている。現実には、この世で一番安心できる腕の中にいる。なら、することはたった一つ。
「う、うぅ。ううぅ……」
壱臣さんの堪えかねた泣き声が聞こえた。ちゃんと半助にしがみついて、声を上げて泣いている。
ああ。良かった……。
「成人。次は起こしてやるから」
「それは緋色がするからいい」
俺の言葉に、成人は普通に答えた。
そっか。
不意に気付いてしまった。
俺の一番はあいつなのに、あいつの一番は俺じゃない。
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