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第四章 西からの迷い人
103 うたかたの夢 1 綾女
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最初から、私は特別やった。領主の子どもと同級で、違う性別で八朔家に生まれたことを褒められて育った。
「お前たちは、次の領主のお嫁さんになるんや。」
同級の姉妹は他にも三人いたけれど、成長するにつれて一番可愛がられていることに気付く。鏡を見たら分かる。私が一番、綺麗やからや。お嫁さんになれるのが一人やとしたら、それは私。皆もそう思ってるから、私をぴかぴかに綺麗にしてくれる。そして私は、ますます特別になっていく。
小学校へ入学した頃には、綺麗やね、と言われることは当たり前になっていて、自分の家が偉いんやということにも気付いていた。子どもも大人も、私に見惚れるのは当たり前。お父さまも、
「お前が、次の領主の子を生んで、ゆくゆくは領主の母になるんや。お前がこの国の母になるんやで。」
と言うようになっていた。同級の姉妹にかけるお金は少なくなって、私が欲しいと言うものは何だって買ってくれる。綺麗でいさえすれば、私は好きなように生きられる。
「なんて綺麗な子やろ。」
「ほんまやなあ。」
「八朔さまのお嬢様らしいで。」
入学式での大人のそんな声も、当たり前のことと聞き流し教室へ入った。国の偉い人たちの子弟が通う小学校は、躾の行き届いた子ばかりで、私が教室へ入っても静かに席についていた。
注目が薄いことに首を傾げつつ指定の席に着こうとしていると、二人の男の子が入室してくるのが見えた。
それまで静かに座っていた子ども達が立ち上がり、二人の元へ向かう。
「壱鷹さま、弐藤さま、おはようございます。」
口々に挨拶をしている。
ああ、あれが領主の子ども。一歳違いで学年が同じ兄弟やけど、間違えたらあかんって言われた。領主になるのは壱鷹さま。二人ともに気に入られるのは構わんが、お前は壱鷹さまを選ぶんや。
二人はとても似通っていて、すっと涼しい切れ長の目元としゅっとした頬、細い顎、薄めの唇は、整っているけど何とのう冷たく見えて、好みでは無かった。
でも、仕方無い。あれが私の相手なんは生まれた時から決まっとるんやから。
自分から挨拶に行くなど、生まれてこのかたしたことはなかったけど、取り囲まれた二人が私の方へ来るのは難しそうだったので、足を向けてみた。同級の姉妹たちもその輪の中にいるので、同じようにするのは業腹だったけど、あちらとしても私と挨拶をできないのは困るだろう。
人だかりへ向かうのも初めてでどうすれば良いか分からなかったが、私が近寄ると姉妹以外は皆、何となく避けてくれたので直ぐに二人の前に出られた。
背の高さもあまり変わらない二人はよく似ていて、どちらが壱鷹さまかよく分からない。とりあえず、挨拶をした。
「はじめまして。八朔綾女です。」
「ああ、よろしく。」
「はじめまして。よろしく。」
二人から、淡々とした返事が返ってきて戸惑った。
え?なんで?
私が挨拶して微笑んだのに、何の動揺も感じられない。皆へ対するのと同じ返事。二人の顔を見ても、見惚れていたり、赤くなっていたりということはなく、他の者への態度と何も変わらなかった。
「挨拶がすんだなら、避けてくれるか?席に着きたいんや。」
立ち竦んでいると言われた言葉に、私はどうしたらいいのか分からんくらい混乱していた。
「お前たちは、次の領主のお嫁さんになるんや。」
同級の姉妹は他にも三人いたけれど、成長するにつれて一番可愛がられていることに気付く。鏡を見たら分かる。私が一番、綺麗やからや。お嫁さんになれるのが一人やとしたら、それは私。皆もそう思ってるから、私をぴかぴかに綺麗にしてくれる。そして私は、ますます特別になっていく。
小学校へ入学した頃には、綺麗やね、と言われることは当たり前になっていて、自分の家が偉いんやということにも気付いていた。子どもも大人も、私に見惚れるのは当たり前。お父さまも、
「お前が、次の領主の子を生んで、ゆくゆくは領主の母になるんや。お前がこの国の母になるんやで。」
と言うようになっていた。同級の姉妹にかけるお金は少なくなって、私が欲しいと言うものは何だって買ってくれる。綺麗でいさえすれば、私は好きなように生きられる。
「なんて綺麗な子やろ。」
「ほんまやなあ。」
「八朔さまのお嬢様らしいで。」
入学式での大人のそんな声も、当たり前のことと聞き流し教室へ入った。国の偉い人たちの子弟が通う小学校は、躾の行き届いた子ばかりで、私が教室へ入っても静かに席についていた。
注目が薄いことに首を傾げつつ指定の席に着こうとしていると、二人の男の子が入室してくるのが見えた。
それまで静かに座っていた子ども達が立ち上がり、二人の元へ向かう。
「壱鷹さま、弐藤さま、おはようございます。」
口々に挨拶をしている。
ああ、あれが領主の子ども。一歳違いで学年が同じ兄弟やけど、間違えたらあかんって言われた。領主になるのは壱鷹さま。二人ともに気に入られるのは構わんが、お前は壱鷹さまを選ぶんや。
二人はとても似通っていて、すっと涼しい切れ長の目元としゅっとした頬、細い顎、薄めの唇は、整っているけど何とのう冷たく見えて、好みでは無かった。
でも、仕方無い。あれが私の相手なんは生まれた時から決まっとるんやから。
自分から挨拶に行くなど、生まれてこのかたしたことはなかったけど、取り囲まれた二人が私の方へ来るのは難しそうだったので、足を向けてみた。同級の姉妹たちもその輪の中にいるので、同じようにするのは業腹だったけど、あちらとしても私と挨拶をできないのは困るだろう。
人だかりへ向かうのも初めてでどうすれば良いか分からなかったが、私が近寄ると姉妹以外は皆、何となく避けてくれたので直ぐに二人の前に出られた。
背の高さもあまり変わらない二人はよく似ていて、どちらが壱鷹さまかよく分からない。とりあえず、挨拶をした。
「はじめまして。八朔綾女です。」
「ああ、よろしく。」
「はじめまして。よろしく。」
二人から、淡々とした返事が返ってきて戸惑った。
え?なんで?
私が挨拶して微笑んだのに、何の動揺も感じられない。皆へ対するのと同じ返事。二人の顔を見ても、見惚れていたり、赤くなっていたりということはなく、他の者への態度と何も変わらなかった。
「挨拶がすんだなら、避けてくれるか?席に着きたいんや。」
立ち竦んでいると言われた言葉に、私はどうしたらいいのか分からんくらい混乱していた。
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