【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

16 壱臣の涙  成人

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「雑炊作って。」

 離宮うちに帰って厨房へ行った。今からお昼ご飯だから、ばたばたしてる。でも、壱臣いちおみが来てやっと、交代で休んだりできるようになったんだって。

「調子悪いのか?今日の昼はうどんといなり寿司だから、食べやすいと思うけど。」

 広末ひろすえが手を拭きながら俺の方へ来て、俺の額に手を当てた。

「俺の違う。」

 広末ひろすえは、ん?と少し屈んで目を合わせてくる。

「えーと、病院の人の。」

 半助はんすけって言っても分からないかな、と考える。

「お粥は食べるけど、雑炊残してて、広末ひろすえの方が美味しいから。」

 広末ひろすえが首を傾げた。

「病院?」
「怪我人拾ったって言ってた人か?」

 大きな鍋を洗いながら村次むらつぐが言う。
 それそれ。

「なる坊が怪我人拾って世話をしてるのか?で、その人が病院の雑炊を残した?」

 そうそう。

広末ひろすえさんの雑炊の方が美味しいから、持って行ってあげたいんだな。」

 そうそう。

「よう分かりますなあ。」

 甘く煮たお揚げに野菜入りのすし飯を詰めながら壱臣いちおみが言う。じー、とその顔を見つめた。

「何や付いとりますか?」
「うー。」

 何て聞けばいいんだろう。でも半助はんすけは会えなくていいって言ってたし。無事なことが分かったらもうええって言うし。

「これは何を言いたいんやろ?」

 壱臣いちおみ広末ひろすえ村次むらつぐの方をきょろきょろと見る。

「流石に分からん。なる坊、雑炊は今いるのか?」
「んー。さっき残して、寝そうだった。」
「病院だから、早目の昼食だったんだな。よし、なる坊はとりあえず自分の昼飯を食べろ。」
「うん。」
「それで、早目の夜ご飯くらいの時間に雑炊を持って行ったらどうだ?」
「うん。」

 広末ひろすえのご飯は一番美味しいから、きっと半助はんすけも食べられるよ。

「どんな怪我をしてる人なんだ?酷いのか?」
「腕が無くなった。」
「え?」

 ぼとっ、と壱臣いちおみの手から作りかけのいなり寿司が落ちた。
 俺を呆然と見ている。
 
壱臣いちおみさん、どうした?」
「その、そのお人の腕は、もともと無かったんですか?」
「あんまり無かった。腐ってて切って、何にも無くなった。」
「それは、右の腕やろか?」
「うん。俺と逆の方。」

 くしゃり、と壱臣いちおみの顔が歪む。

「名前、は?」
半助はんすけ。」

 壱臣いちおみの目から一筋涙がこぼれて落ちた。
 
「良かっ……。はん、す、け……生きとった……。」

 
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