【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

15 それで、それから  成人

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 分かった。俺は分かってしまった。
 おみって、壱臣いちおみじゃない?この人と壱臣いちおみは喋り方が似てる。

おみに会いたいから?」
「え、なんで……。」
「寝てるとき、言ってる。」
「寝てるとき……。そう、ですか……。」
「会いたい?」
「会えなくても、ええんです。無事かどうか分かれば、それで……。」
「なんで?」
「もう、役に立てへんから……。」
「会えたら?」
「遠くから、お姿を確認できて……ご無事なら…それで……。」
「それで?」
「ええんです……。」
「それから?」
「それから……?」
「うん。おみが無事なら、それからどうするの?」

 右腕無しの人は、困ったように笑った。

「それで、ええです。」
「?」

 分からない。それで、それから?それからがない?
 考えても分からなかったから、聞きたかったことを聞く。

「名前、教えて。」
「……半助はんすけ。」
「俺は成人なるひとです。」
成人なるひと…さま。その、ここは……。」
「ん?」
「この場所は……。」
「病院。」
「……そう、ですね。」

 半助はんすけは疲れてきたっぽい。ぐら、と体が傾きかけた時、扉が開いた。

「そろそろ食べられましたか?」

 生松いくまつ、ちょうど良かった。俺の手では半助はんすけを支えられない。
 生松いくまつは大急ぎで駆けつけて、半助はんすけをベッドに寝かせた。

「すみません。ご迷惑を……。」

 半助はんすけの言葉に少し目を見開いた生松いくまつは、いつも通りに優しく笑う。
 
「帰るぞ。」

 緋色ひいろが俺をひょいと抱き上げた。ぎゅっとしがみつきながら考える。
 会えなくてもいいってどういうこと?無事かどうか知りたい。知るまで死ねない。
 じゃあ、その後は?無事と知ったら。死ねない理由が無くなる?
 会えたら。会えたら嬉しくて、ぎゅっとしたくならないかな。ちゅーして、ずっと一緒に居たくなったりしないかな。
 役に立てない。腕がなくなったから?

「どうした?」

 考えてる間に、病院を出ていた。緋色ひいろが歩いて運んでくれている。

「役に立てないけど、一緒にいたい。」
「なんだ、急に。」
「うん。」
「役に立ってるぞ。」
「そう?」
「別に、役に立っても役に立たなくても何でもいいさ。」

 まあ、そうか。
 そりゃそうだ。

「一緒に居られたらそれでいい。」

 俺も。
 俺もそれでいい。
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