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第二章 人として生きる
81 緋椀 3
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部隊長専用のテントや部屋に匿って貰えたのは、とても助かった。新兵のくせに特別扱いだという陰口も、緋の名が役に立ち、尊き方だから仕方ないと誤魔化せたし、隊長の稚児だと言う陰口も都合よく利用させて貰った。実際には作治さんは、決して俺に手を出さなかったのだが。
もう一度、作治さんの方を見る。油断なく周囲を伺いながら、小さな二人を優しく守っていた。
俺のだから手を出すなよ。
唐突に思い出す、その言葉。時に冗談っぽく、時に威嚇を込めて。俺を守るための方便だと思っていた。
「成人ー!」
やかましく力丸が帰ってきた。興奮した様子で、けれど強者特有の鋭さを滲ませて成人の右手を両手で握る。
「俺は強くなった」
ぎらぎらと目を輝かせて告げる。
「分かるか?」
「うん」
「また、お前とやろう」
「うん」
力丸はそこまで言ってから、ふと眉をひそめた。
「お前、やっぱり今日調子悪いな」
「え?」
驚く成人を気にも止めずに軽々と抱き上げる。慌てて右手を力丸の首に回してしがみついた成人は、そのまま力丸に体を預けた。
立っているのも辛いほどだったのか? 気付かなかった。
悪かったな、と見ていると力丸の頭に銃が突き付けられた。と思ったら、成人を抱えたまま素早くしゃがみこんだ力丸の銃が緋色殿下の顎先に当たる。
速い。力丸はこんなに強かっただろうか。
「殿下、すみません」
謝りながらも、銃も成人も下ろさない。
ちっと舌打ちした緋色殿下が、返せと低い声で言った。
あー、はいはい、と力丸が銃を下ろして成人を手渡す。成人は自分から手を伸ばして緋色殿下の腕の中へ移った。
ほわり、と安心したような顔で成人は目を閉じる。
そこが、居場所。
緋色殿下が銃をしまって、優しい目でぽんぽんと成人の背中を叩いた。
「付き合わせて悪かったな、緋椀」
殿下に声を掛けられ、見すぎていただろうか、と心配になる。
「このまま解散だ。三雲、この恩は忘れない」
「いえ。たぶん、すべては良い方向に転がったようです」
いつの間にか隣にいた作治さんの優しい目が俺を見ている。成人を見る緋色殿下の目と似たそれを、気付かないほど、鈍くない。
この人は、こんなに本気で俺のことが好きだったのか……!
たまらずに顔を俯かせる。
「殿下。俺たちもちょっと出掛けて来る」
常陸丸が乙羽さまの手をぎゅうと繋いで言った。中でどれほど激しい戦闘が行われたのか、先程の力丸と同じように目がぎらぎらとしていた。
殿下は、行けと言うようにひらひらと手をふって応える。
「どうして」
思わず声が漏れた。
「どうして、そんなに好きなんです?」
常陸丸も殿下も乙羽さまも成人も、あの料理人とその彼女も。そして、作治さんも。どうしてたった一人に心の全てを預けられるのか。
「さあ?」
殿下の答えは、俺の悩みを深くしただけだった。
もう一度、作治さんの方を見る。油断なく周囲を伺いながら、小さな二人を優しく守っていた。
俺のだから手を出すなよ。
唐突に思い出す、その言葉。時に冗談っぽく、時に威嚇を込めて。俺を守るための方便だと思っていた。
「成人ー!」
やかましく力丸が帰ってきた。興奮した様子で、けれど強者特有の鋭さを滲ませて成人の右手を両手で握る。
「俺は強くなった」
ぎらぎらと目を輝かせて告げる。
「分かるか?」
「うん」
「また、お前とやろう」
「うん」
力丸はそこまで言ってから、ふと眉をひそめた。
「お前、やっぱり今日調子悪いな」
「え?」
驚く成人を気にも止めずに軽々と抱き上げる。慌てて右手を力丸の首に回してしがみついた成人は、そのまま力丸に体を預けた。
立っているのも辛いほどだったのか? 気付かなかった。
悪かったな、と見ていると力丸の頭に銃が突き付けられた。と思ったら、成人を抱えたまま素早くしゃがみこんだ力丸の銃が緋色殿下の顎先に当たる。
速い。力丸はこんなに強かっただろうか。
「殿下、すみません」
謝りながらも、銃も成人も下ろさない。
ちっと舌打ちした緋色殿下が、返せと低い声で言った。
あー、はいはい、と力丸が銃を下ろして成人を手渡す。成人は自分から手を伸ばして緋色殿下の腕の中へ移った。
ほわり、と安心したような顔で成人は目を閉じる。
そこが、居場所。
緋色殿下が銃をしまって、優しい目でぽんぽんと成人の背中を叩いた。
「付き合わせて悪かったな、緋椀」
殿下に声を掛けられ、見すぎていただろうか、と心配になる。
「このまま解散だ。三雲、この恩は忘れない」
「いえ。たぶん、すべては良い方向に転がったようです」
いつの間にか隣にいた作治さんの優しい目が俺を見ている。成人を見る緋色殿下の目と似たそれを、気付かないほど、鈍くない。
この人は、こんなに本気で俺のことが好きだったのか……!
たまらずに顔を俯かせる。
「殿下。俺たちもちょっと出掛けて来る」
常陸丸が乙羽さまの手をぎゅうと繋いで言った。中でどれほど激しい戦闘が行われたのか、先程の力丸と同じように目がぎらぎらとしていた。
殿下は、行けと言うようにひらひらと手をふって応える。
「どうして」
思わず声が漏れた。
「どうして、そんなに好きなんです?」
常陸丸も殿下も乙羽さまも成人も、あの料理人とその彼女も。そして、作治さんも。どうしてたった一人に心の全てを預けられるのか。
「さあ?」
殿下の答えは、俺の悩みを深くしただけだった。
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