人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

64 緋色 33

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蒼宗そうそうという名に心当たりはないか……?」 

 翌日にはすっきりと起きたらしいさいと執務室のソファで向き合う。
 蒼宗と書いた紙を見ながらさいが首を傾げた。

「……帝国の王家の方、ですかね?」

 帝国の貴色は青。蒼は長男に付く名前だ。国民なら当然知っている情報である。横に顔写真を置いた。十年前のもの。廃嫡される直前の第一王子。
 
「…………。」

 さいが絶句した。俺と常陸丸ひたちまるも昨日、同じように絶句したから、これは知らない者の反応だ。
 そうか……。
 知らない、か。

さいの顔。」

 成人なるひとが写真を見て言った。
 我儘こぞうは今日は、俺と離れるのが嫌だと駄々をこねて、ずっと後ろを付いて歩いている。ま、支障もないので好きにさせておいた。
 ご機嫌だ。

「……これは、一体どういうこと……?」
「ちょっと違う。」

 成人なるひとが写真をさいの横に掲げている。
 十年前だから若い。手入れの行き届いた髪の毛と肌。
 だが、特別太ったり痩せたりした訳でもなく、面立ちに変わりはない。青年期の十年はそれほど大きく変化しない。

さい文明ぶんめいとしての記憶は何歳からだ?」

 俺の言葉にさいは、深く考えに沈む。

「仕事を始めてから、かもしれません。子どもの頃のことが、ひどく曖昧です。このようなことを考えることも無かった。」
「そうか。」
「年齢も、そういえば、私は幾つなのか……?知らないですね。」
「一緒ね。」

 嬉しそうに成人なるひとが言った。

蒼宗そうそう殿下は、計算したら分かるぞ。二十八くらいか。」
「俺も計算して。」

 そんなわくわくした目で見られても。

「えーと。」
「俺、いくつ?」

 何をどうやって計算するんだよ。

成人なるひとは十五くらいかな。」

 さいが優しく言った。今、自分のことで大変なのに申し訳ない。

「十五?いくつ?って聞かれたら十五って言うの?」
「そうです。」

 うふふ、と嬉しそうに成人なるひとが笑った。こんなに表情を崩したところは初めて見たかもな。まあ、ぺらぺらとよく喋ること。

戦闘人形ドールは十一、二歳で完成して戦場に出すと聞いたことがある気がするので、そこから三年戦場にいて、こちらで半年近く暮らしていたら、十五くらいでいいのでは?」

 計算できたな。

「良かったな、成人なるひと。すまんな、さい。」
「聞いて。」
「は?」
「いくつ?って聞いて。」

 いや、何で?

成人なるひと、幾つですか?」
「十五!」

 ああ、それがしたかったのか。

緋色ひいろ殿下。さいと呼んでくださり、ありがとうございます。私はどのような処遇になりますか?」

 さいは、第一王子としては優しすぎたのだろう。いや、王族に向いていなかった。
 妙な親近感を感じてため息をついた。

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