【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

63 緋色 32

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さい文明ぶんめい。帝国の人間」

 さいは、あまり滑らかとは言えない口調で答えた。成人なるひとの先程の様子を見るに、言葉が上手く出てきにくい状態なのかもしれない。

緋色ひいろ殿下と、常陸丸ひたちまるさま、生松いくまつさま。分かります。成人なるひとが、指令違反。ピアス外した。その、辺り」

 さいはぽつぽつと話す。

「その辺り、から曖昧。幸せな生活、している。分かる。私は、戦争に反対、していた」
「ピアスを外したことで、何か変わったとも思えなかったが……」
「そうですね、俺も気付きませんでした」

 俺の言葉に常陸丸ひたちまるが答え、生松いくまつも頷いている。

「私は、戦争に反対。ピアスが、ある時は、苦しかった。外して、楽になった、ことは分かる」 
ちゃい、ちあう」

 腕の中の成人なるひとが声を上げた。

「どうした?」
ちゃいおえってう。わたちちあう」
「……。」

 確かに、最近の一人称は「俺」だったような。交渉人として出会った頃は? 国の代表として話をするときは俺でも「私」を使うことがある。そういうことではないのか?

「自分で、俺、と言った覚えは、ありま、せん」
「いや、この屋敷に来て以降は、俺と言っていたと思う」
「……それが、さい文明ぶんめいなら、私は……」

 さいは何事か考え込んだ。しん、と部屋が静まりかえる。

「戦争に、反対する私、を廃嫡し、操りの、実験台として、生かし……? いや……」
「……廃嫡? 実験台?」
さい文明ぶんめいは、身分の低い、文官。交渉人を、任される、ほどの何を、持っている?」

 ぶつぶつと呟いたさいは眉根を寄せて、目をつぶってしまった。

緋色ひいろ殿下。さい殿をベッドに寝かせてやってもよろしいか。できれば脳波を測りたい。かなり負担が掛かっています」

 忍部しのぶべ博士の言葉に頷く。

「ああ、今はここまでにしよう。後は頼む。常陸丸ひたちまる、帝国の王家と高位貴族の、名前と顔写真を調べたい」

 機械を潰すことで、成人なるひとの記憶は二日飛んだ。人格は、いい感じに我儘になっている。さいと名乗るこの男は、何年分の記憶が混濁している? 本当は、どんな人間だったのだろう……。
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