【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

20 緋色 13

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 迂闊だった。皇族からの呼び出しを断ることはできないとはいえ、もう少し考えを巡らすべきだった。
 平和ボケしていたな。

「ご苦労」

 無表情に廊下を雑巾で拭いている乙羽おとわに声をかける。びくっ、と体が揺れた。ほとんど意識を飛ばしていたのだろう。この幼なじみの心の自衛方法は知っている。
 目に光が宿ると同時にみるみる涙が盛り上がってきた。

「お帰りなさいませ、緋色ひいろさま。留守をお守りできず……まことに、もうしわけ……」

 伏せた頭が床に付くほど下がり、ひくっと喉が鳴った。

「誰も、怪我は無いか」
「……はいっ」
「よくやった」
「いいえ。……いいえ。なるを、なるを」
「おとわ」

 ことさらゆっくり名前を呼ぶと、ぐっと言葉を飲み込むのが分かった。
 そのまま成人なるひとの部屋へ進む。蹴破られた扉が見える。生松いくまつが床を拭いていた。立ち上がって頭を下げるのを手で制す。

「無事で何より」
「熱が高いので、心配です」
「分かった、急ぐ」
「は」

 自室に戻り、城へ行くために着ていた黒の軍服を脱いで、皇族用の赤の軍服に着替える。銃を、腰につけたベルトの両腰に二つずつ差し、手榴弾もぶら下げる。ナイフを二本。
 成人なるひとを連れて帰るだけだったな。この程度でいいか。
 準備していたら、少しは頭が冷えてきた。ふー、と一度深呼吸をする。
 扉を開けると、常陸丸ひたちまる利胤としたねが待っていた。軍服を着て同じような装備が整っている。

「場所は?」
成人なるひとは裸に剥かれていたので付けられず、赤虎せきとらさまに付けました。今、城の敷地内です」
「了解だ」

 もう三時を過ぎている。成人なるひとの食事をあまり抜きたくない。また抱き心地が悪くなってしまうからな。

「夕食までに帰る」

 乙羽おとわが、深く深く頭を下げて見送っていた。

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