【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

21 成人 14

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 喉が乾いた。
 背中が痛い。仰向けで寝かせられていたので、ちょっと持ち上げて横向きに……。
 がちゃっと上に上げられている右手と両足が音をたてた。

「動くな」

 銃口が頭に押し当てられる。
 硬い台の上に、鎖に繋がれ拘束されているらしい。裸のままだ。とりあえず左手は拘束できなかったようなので、横向きになることができた。

「言葉が分からないのか?それとも、撃たないと思っているのか。いい度胸だな」
赤虎せきとら殿下。撃たないでください。やっと手に入った生きた戦闘人形ドールです。もういない。最後の戦闘人形ドールですよ」

 もういない……。
 そして俺も、もう戦闘人形ドールじゃない。
 必死の声を上げた白衣の男が近付いてきて俺の背中を眺めた。

「酷い打ち身の後があります。これが痛むのかもしれません」

 そう言いながら手にした注射を俺の両太腿に打つ。すぐに足が重くなって、力が入らなくなった。
 水が飲みたかったけど、諦めて目をつぶる。体が熱い。はあ、と息をはいたら頭に押し当てられている銃口に力が入った。痛いんだけど。

「腹が立つ」
忍部しのぶべ昌治まさはるが奏上申し上げます。兵器研究のため、この戦闘人形ドールの命、今しばらくお預けくださりませ」

 目を開けて見ると、忍部しのぶべ昌治まさはるが両膝を付いて、左拳の上に右手を添えて掲げ頭を下げている。

緋色ひいろをからかう間だけ、預けてやる。朝から待たせているからな。昼餐ちゅうさんを共にして、更に苛立たせてやろう」

 相変わらず銃を構えて近くにいた五人の軍人のうち、二人を残して赤虎せきとらは出ていった。
 忍部昌治はそれを頭を下げたまま見送ると、ほっとしたように立ち上がり俺の顔を覗きこんで、左目の瞼を持ち上げた。白衣の男が更に一人、近付いてくる。

「博士、危ないですよ。意識があるのでしょう」
「薬を打ったから足は動かぬ。大丈夫だ。ふむ。左目は完全に機能停止しているな」
「身体中の傷痕は、治っているようですね。背中の打ち身は最近ですか。発熱は、これが原因の可能性が高い」
「こうも熱が高くては、急に機能停止する危険がある。しかし、赤虎殿下の気が変わる前に調べを進めたい。解熱剤を挿入しておくか」
「その間に昼食にしましょう。……これも、何か食べるのでしょうか」

 これって言うな、これって。俺には成人なるひとという立派な名前がある。言わんけど。
 お尻の穴に異物感がして、ぎゅっと体に力を入れた。気持ち悪い。

「解熱剤を入れにくいから、力を抜け。……散々穴を使った痕があるじゃないか。何を初心うぶな反応をしているんだ」
「ほう。酷い使われ様だな。戦闘人形ドールにはそんな用途もあるのか。以前解剖した二体は、どうだったかな」
「内臓や脳の中にばかり気をとられて、外側のことはあまり覚えていませんね。保存状態も良くありませんでしたし」

 ぎゅうぎゅうとお尻の穴に薬を押し込まれて、嫌な記憶がたくさん出てきそうになる。
 こういう台の上も懐かしい。薬品の匂い、白衣の人。物を扱う手つき。
 お尻の穴に突っ込まれる色んなもの。
 こみ上げてくる胃液を台の上にぶちまけた。もう、どうでもいいか……。
 目を閉じる時、右手が見えた。きらきら光る指輪。緋色との約束。
 死んでは駄目だ。生きることを諦めては駄目だ。
 覚えてる、覚えてるよ……。
 
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