【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第一章 初めての幸せ

7 緋色 1

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 執務室にいても、戦闘人形ドールが気になって仕方ない。移動も面倒くさいので、戦闘人形ドールの部屋にソファを運ばせた。ここで書類を読めば、様子をいつでも見られて一石二鳥。いつ目を覚ますか分からないしな。一日で起きたり、二日寝てたりする。
 時々、何か喋ってる。あ、それ、とか、痛い、とか。うん、とか。寝言だな。

「何で、こうなったんですかね」

 ぶつぶつと、常陸丸ひたちまるが文句を垂れながら書類に目を通している。

「別に付き合えとは言ってない。お前は執務室に戻ればいいだろ」
「いつ目を覚ますか分からない、動けるようになった戦闘人形ドールの側に、皇子を一人で置いていけと? 俺は貴方の何ですか?」
「友人」

 間抜けな面で、こっちを向く常陸丸ひたちまるが面白い。にやにや笑ってやると、はあ、とため息をつかれた。

「ご機嫌ですよね、最近」
「おう」
「これっすか?」
 
 常陸丸ひたちまるが嫌そうに戦闘人形ドールを見る。

「可愛いだろ」
「いや、ぜんぜん」
「そうか?」

 苦しそうに息をしているが、時々うっすらと笑うのが不思議だ。痛いって寝言を言うのに、幸せそうに寝ている。

 起きたときに粥を食べさせたら、とんでもなく美味しいもの食べたーって顔で平らげた。いや、粥だよな。あまりに美味しそうに食べるから一口味見してみたが、うすーい塩味の、米の味もあまり無い粥だった。ま、一週間ぶりくらいの飯なら、何でも旨いか。
 そういえば、脇腹ぐちゃぐちゃの怪我してたけど、食べさせて良かったのか? 内臓破れてたら出てくるな……。


 もう、執務室、ここにしちゃえ、と机も持ち込んだ。見張りも兼ねて一石二鳥だ。常陸丸ひたちまるも大人しく隣で仕事してる。
 目を覚ましたのに気付いて声をかけると、うんうんと頷く。腕で支えなくても座れるようになったな。粥は美味しいみたいだな。頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。可愛いな。

「お前、なんて名前だ?」

 ふと思い立って聞くと、むぐ、と口をつぐんだ。おや、黙秘か。口がきけないふりかな。

「年はいくつだ?」

 ぱち、と右目が瞬く。こりゃ、自分でも知らないな。見た感じ十四、五歳だが。
 常陸丸ひたちまるがつかつかとこちらに来る。

「口がきけないふりか? しゃべれるのはわかってるんだぞ。おまえ、前に水飲んで、おいしいって言ったしな。寝言言うしな」

 ちょっと目を伏せるのは寝言に照れたのか? 可愛いな。

「そのうち、教えてくれ。俺は緋色ひいろだ。二十二歳」
「ひいろ」

 小さな小さな声が聞こえた。思わず呟いたらしい。嬉しくて、また頭を撫でようとしたら、常陸丸ひたちまるがどっかりとソファに腰を下ろした。
 色々と質問するのを素知らぬ顔で聞き流している。そんなすぐに喋るわけない、と見ていると、常陸丸ひたちまるがポケットから飴を取り出して、戦闘人形ドールの口に放り込んだ。しかし、簡単に敵の食べ物を口にするなあ。毒入ってたら死ぬぞ。
 面白いくらいびっくりした顔で口の中で飴を転がしている。食べ方を知らないらしく、涎がべたべた溢れてくる。ごっくんしろ、ごっくん、と常陸丸ひたちまるが言うと顔をこくこくと動かした。
 違う。
 可愛い。
 常陸丸ひたちまるが諦めたように、濡れタオルで顔を拭う。もったいないらしく、いやいやと顔を振って、舌でべろべろと口の回りを舐めようとして、更にべたべたになっている。
 くすくす笑って見ていると、小さな声が聞こえた。

十三じゅうさん

 え? と顔を覗き込んだけれど、ぷいと顔を背けてしまった。常陸丸ひたちまるを見ると、

「名前っすね、たぶん」

 と、飴で釣れたことに驚いていた。
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