【完結】人形と皇子

かずえ

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第一章 初めての幸せ

8 十三 2

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 動けるようになってしまった。どうしよう。動けないふりをするべきか。でも、トイレは自分で行きたい。
 動いたら、常陸丸ひたちまるが怒るかな。
 トイレ、行きたい。
 我慢の限界なので、ベッドからそろりと下りた。ふらふらするけど、立てる。ま、傷は痛いけど。
 でも、トイレ、どこだ?
 見計らったかのように、扉が開いて、常陸丸ひたちまるが入ってきた。
 立ってる俺を見て、反射的に銃を突き付ける。うん、凄い。この人、凄い。強い!
 
「いつ、立てるようになったんだ? ああん? 何してやがる」

 いつ、と言われると今です。トイレ行きたい。でも、口がきけないふりしてるんだよね、俺。どうしよう。
 股を押さえて、じっと見つめてみる。通じないかなー。

「……何かしたいことあるなら、口で言ってみろ。聞いてやるから」

 銃は下ろさないままで常陸丸ひたちまるが言った。これ、通じてるよね。意地悪。

十三じゅうさん?」

 名前呼ぶとか、もう意地悪。喋れるの知ってるよってこと? 涙目になってきた。
 トイレ。
 そこに緋色ひいろが来る。

常陸丸ひたちまる、やめろ、どうした?」

 常陸丸ひたちまるの銃を上から掴んで下ろさせる。俺を見て、ちょっと笑った。

「立てるようになったのか。トイレか?」

 すぐにそう言ってくれた。緋色《ひいろ》、優しい。付いておいでと言われて一歩踏み出すと、膝から崩れ落ちた。

「ああ、もう。口きかせるつもりだったのに」

 常陸丸ひたちまるが、ぶつぶつ文句を言いながら脇に手を入れて立たせてくれた。
 緋色ひいろが、常陸丸ひたちまるから俺を受け取り半分抱えるようにしてトイレに連れていってくれる。トイレ、部屋の中にあった。良かった。
 右手しかないと、トイレも大変……。病人用のワンピースみたいな服で良かった。そして、終わったら立てない。トイレ行きたいという、切実な気持ちが体を動かしたらしい。終わったら、もう体動かす原動力が無いっていうか、脇腹痛いっていうか、老廃物出したら力も抜けたっていうか……。
 座るタイプのトイレで助かったなあ。

「甘やかさないでくださいよ、口で言わせようと思ったのに」

 トイレの前で、常陸丸ひたちまるの声がする。意地悪。でも、倒れたとき起こしてくれたなあ。

「銃を突き付けるな」
戦闘人形ドール立ってたら、怖いでしょうよ」
「歩けないだろうが」
「条件反射ですよ。銃を突き付けたって、十三じゅうさんが怯える訳でもなし」
十三じゅうさんってホントに名前か? 数字だぞ」
「13体目ってことなんじゃないですか? 分かりやすいじゃないですか」
「それは、名前ではないな」
「でも、そう呼ばれてたんでしょうよ。飴食って、あんだけ喜んで思わず出たし、さっき名前呼んだ時も、返事しかけてたし」
「ずるいよな、飴。あんな喜ぶなら俺がやりたかった。チョコレートは、俺がやるから渡すなよ」
「粥しか食えない病人にチョコレートは駄目ですよ」
「ところで、遅いな」
「動けないんじゃないですか? 本当は、重病人だから」
「……」

 緋色《ひいろ》が、トイレから救出してくれた。ありがとうー。
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