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十三
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「いの、いのだ。ああ、いの、ねてる」
「しっ。余四郎さま、静かに。伊之助殿が起きてしまいます」
「うん。……ああ、いのがうっていった。いたい? いたいのか、いの」
「余四郎。静かに出来ぬなら、部屋から出すぞ」
「いやだ。だめだ。しずかにする。……ああ。からだが、へんないろだらけだ。……これ、ぜんぶいたい?」
「そりゃ痛いだろう。あざは、小さなものが一つできても、触れると痛い。これだけ大きければ痛いに決まっている」
「いたいのか、いの。かわいそうに。こんなにいたくなるくらいころんだのか」
「若様。どのように転んだとて、こんな形のあざが付きはしませんぞ」
「ええ! でも、なりましゃは、いのがころんだというたではないか」
「ん……ん、っしろ、さ、ま……?」
余四郎さまの声がする。
伊之助が、ずっと聞きたいと思っていた、余四郎の。
「ああ、ほら、余四郎さま。お声が大きい。伊之助殿が目覚めてしまったではないですか」
これは、小太郎さまの声。
起きなくては。せっかく、大好きな二人の声がするのだから。
「これ、ええっと、いの様? 無理に目覚めようとするでないぞ。今、傷の様子をみておるでな。触れると痛かろうで、あまり苦痛を感じぬように、感覚を鈍くする薬をあなたにかがせたのだ。骨接ぎをちとやり直す故、かなり痛む。そのままぼんやりとしておれ」
身じろぎをした伊之助に話しかける声。これは伊之助の知らない声だ。優しそうな、男の人の。
「それにしても狭いな。手当ても見舞いも一苦労だ」
この声も、伊之助は知らない。はきはきとした子どもの声。
ずいぶんとたくさん人が……。
ん? よくこの部屋に入れたな?
「それでは皆様、一度部屋から出てください。動けん」
「しろうはいる」
「なんでだよ。医者が出ろって言ってるだろ。出るぞ」
「しろうはいののいいなずけだから、そばにいなくちゃいけない」
「いや、こういう時は側にいない方がいいんじゃないか」
「なんで?」
「お前、先ほど、診察中に伊之助がうっと言っただけで、痛いのか、痛いのかとひどく心配していただろう? 治療の最中はかなり痛むと医者が言っているのだから、見るに堪えないんじゃないか」
「みるにたえない?」
「そう」
「みるにたえないって?」
「え? ええっと、だからつまり」
「見ていられないでしょう、ってことですよ」
「みれる」
「いや、無理ですよ」
「っしろ……さま。でて……」
「……! いの。でも」
我慢するつもりだが、この優しく触る人がかなり痛いと言うのなら、うめき声を我慢できないかもしれない。伊之助はぼんやり思う。苦しむ姿を余四郎には見られたくない。
「狭いから、三人ともとりあえず出てください。できたら呼びますから。梅千代さま、余四郎さまの耳は塞いどくように」
三人が出て行く音に、伊之助はほっと息を吐く。
「お、良い感じです、いの様。では」
「あ。ああああああ! いっ! あああ!」
その後、右腕を襲った激痛にこらえきれず伊之助は叫んだ。
そんな中でも、余四郎に聞こえていなければいいな、と頭の隅で思った。
「しっ。余四郎さま、静かに。伊之助殿が起きてしまいます」
「うん。……ああ、いのがうっていった。いたい? いたいのか、いの」
「余四郎。静かに出来ぬなら、部屋から出すぞ」
「いやだ。だめだ。しずかにする。……ああ。からだが、へんないろだらけだ。……これ、ぜんぶいたい?」
「そりゃ痛いだろう。あざは、小さなものが一つできても、触れると痛い。これだけ大きければ痛いに決まっている」
「いたいのか、いの。かわいそうに。こんなにいたくなるくらいころんだのか」
「若様。どのように転んだとて、こんな形のあざが付きはしませんぞ」
「ええ! でも、なりましゃは、いのがころんだというたではないか」
「ん……ん、っしろ、さ、ま……?」
余四郎さまの声がする。
伊之助が、ずっと聞きたいと思っていた、余四郎の。
「ああ、ほら、余四郎さま。お声が大きい。伊之助殿が目覚めてしまったではないですか」
これは、小太郎さまの声。
起きなくては。せっかく、大好きな二人の声がするのだから。
「これ、ええっと、いの様? 無理に目覚めようとするでないぞ。今、傷の様子をみておるでな。触れると痛かろうで、あまり苦痛を感じぬように、感覚を鈍くする薬をあなたにかがせたのだ。骨接ぎをちとやり直す故、かなり痛む。そのままぼんやりとしておれ」
身じろぎをした伊之助に話しかける声。これは伊之助の知らない声だ。優しそうな、男の人の。
「それにしても狭いな。手当ても見舞いも一苦労だ」
この声も、伊之助は知らない。はきはきとした子どもの声。
ずいぶんとたくさん人が……。
ん? よくこの部屋に入れたな?
「それでは皆様、一度部屋から出てください。動けん」
「しろうはいる」
「なんでだよ。医者が出ろって言ってるだろ。出るぞ」
「しろうはいののいいなずけだから、そばにいなくちゃいけない」
「いや、こういう時は側にいない方がいいんじゃないか」
「なんで?」
「お前、先ほど、診察中に伊之助がうっと言っただけで、痛いのか、痛いのかとひどく心配していただろう? 治療の最中はかなり痛むと医者が言っているのだから、見るに堪えないんじゃないか」
「みるにたえない?」
「そう」
「みるにたえないって?」
「え? ええっと、だからつまり」
「見ていられないでしょう、ってことですよ」
「みれる」
「いや、無理ですよ」
「っしろ……さま。でて……」
「……! いの。でも」
我慢するつもりだが、この優しく触る人がかなり痛いと言うのなら、うめき声を我慢できないかもしれない。伊之助はぼんやり思う。苦しむ姿を余四郎には見られたくない。
「狭いから、三人ともとりあえず出てください。できたら呼びますから。梅千代さま、余四郎さまの耳は塞いどくように」
三人が出て行く音に、伊之助はほっと息を吐く。
「お、良い感じです、いの様。では」
「あ。ああああああ! いっ! あああ!」
その後、右腕を襲った激痛にこらえきれず伊之助は叫んだ。
そんな中でも、余四郎に聞こえていなければいいな、と頭の隅で思った。
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