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 よし、それじゃ、と陽子は立ち上がった。先ほどまでとうってかわって、何だか元気いっぱいな様子だった。

「お父さんと晃の朝ご飯、作ってくるねー。洗濯物も、乾燥機に放り込んじゃお。ちょっと待っててね」
「ん? いや。待て待て待て」

 誠が、その腕を掴んで止める。
 手伝おうかと立ち上がりかけた一太の腕は、晃に掴まれていた。

「説明してから行ってくれると助かる」
「何を?」
「三人で話していた内容だな」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ」

 誠の言葉に、あれ? と首を傾げた陽子は、けれど、座り直さなかった。

「私ね。晃といっちゃんがとても仲良しなのは知ってたんだけど、それはほら、二人とも今まで友だちがあんまり居なかったから、初めてこんなに仲良しな友だちができて嬉しいんだろうなあ、って思ってたのよ。晃に、いっちゃんと付き合ってるって言われても、ちゃんとした意味で受け止めてなかった。今は、誰よりいっちゃんと遊びたいから、そうやって言ってるんじゃないかなーって。でも、二人の左手の薬指にお揃いの指輪を見たとき、これは駄目だと思っちゃった。男同士で付き合うのは普通じゃないって分かってて、それでも相手の指にあかしを付けたいなんて、そんな本気の気持ちを見せられて、駄目だと思ったのよ」
「な、なるほど?」

 一太は、がっくりと肩を落とした。やっぱり、駄目なことだったか。ごめんなさい。俺が、晃くんに指輪をプレゼントしたいなんて思わなければよかったのに。

「だって、苦労するのは目に見えてるでしょ。男同士では結婚できないんだし。いつまでも独身ってだけでも、色々言われるのは分かってるんだから。分かってるなら、生きやすい道を示してあげたかった。晃は、病気が治って、ようやく普通の生活を送れるようになって生きやすくなったんだから、これからもそうであって欲しいと思っちゃったのよ。いっちゃんもね。いっちゃんも、これまで散々苦労したんだから、せめてこの先は、なるべく苦労しない道を示してあげたかった。だから、二人は、一番、誰よりも仲良しの友だちってことじゃ駄目なのかなあって、それをね、聞いてみたの」
「そうか」

 一息に言って、陽子はふふ、と笑う。

「でも、駄目だって。二人とも駄目だって言うから、私、どうしたらいいんだろうって悩んでたんだけど」
「うん」
「さっきお父さんと話してたら、思い出しちゃった。晃が元気になって、自由にしたいことができるようになればそれで充分、って思ってたこと」
「そうか」
「なので、晃のしたいことを全力で応援する事にしました」
「へえ?」
「苦労するのなら尚更、協力し合うのが大切じゃない?」
「ああ、うん。まあ、そうかな?」
「と、いうわけで、いっちゃん」

 一太は、へ? と顔を上げる。

「晃のこと、これからもよろしくね。あ、それと、熱が下がるまでお手伝いは禁止だから、大人しく寝ててね」

 陽子は、一太と自分の食べ終わった食器をまとめて持つと、軽やかな足取りで台所に入っていった。
 
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