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218 まだ答えは出ていないけれども
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「おせちにお肉が入っててびっくりした」
「そう? あー、でも確かに、よく聞くおせちの中身にウインナーや骨付きチキンはないよね。僕や姉があんまりおせちの品を食べないから、食べられるものを入れたんじゃない? 母さん、やりそう」
晃は、けらけらと笑う。
そうか、誕生日パーティと同じで、それぞれの家で色んな物が入ってるものなんだなあ、と一太は何となく察した。
誕生日パーティも、今日のようなのが家でのパーティの普通なのか、と聞いたら、他の家のことは知らないと晃から返事がきた。全くその通りだ。よそのうちを覗かせてもらったりできないのだから、どんなことをしているかなんて分かりはしない。
「家でケーキ作る人もいれば、買ってくる人もいるだろうし、プレゼントだけもらって終わりとか、パーティしないとか。外に豪華な食事を食べに行くとか」
晃の言葉に、そういえばと一太は思い出した。昔のことだ。今日はご飯を作らなくていい、と言われ、次の給食まで食事無しかとがっくりして、でも少し休めるとほっとしたあの日。冷蔵庫に入っていたのはケーキ屋の箱と、買ってきたご馳走だった。あれはオードブルというのだったっけ? 様々な、ちょっと豪華なおかずが入ったものが置いてあった弟の誕生日。そして、綺麗に包装されたプレゼントの箱。
うん。色々だ。色々違うんだ。それなら、おせちが色々であることも納得できる。
一太はずっと「普通」を知りたいと思って生きてきた。おかしくないように生きるには、普通を知っていなければならないと。でも、晃くんのうちでやっている事が普通かと晃に聞いて、そうだと答えは出なかった。確かに、一太が唯一知っていた誕生日の様子と違う。でも、どちらも間違ってはいないのだという。
そんな風にそれぞれの家庭で色んなことが違うなら、どうして皆は、一太は違う、おかしいと確信を持って言うのだろう。そこが分からない。
うーん、と悩んで、一太は布団にごろんと転がった。
晃の部屋にはすでに布団が敷いてあるので、風呂も終えて脱力した一太はそのまま、ふうう、と深い息を吐いてしまう。やはりよそのうちで緊張していた所もあったらしい。どんなに良くして貰っても、失敗してはいけないとの思いは心の内から消えることはない。
ずっと。子どもの頃からずっと、どこにいても、失敗をしてはいけないと緊張して生きてきた。家でも学校でも職場でも。だから、それが通常の状態であったのに、そのことに疲れてこんなにだらんとしてしまうなんて、一体どうしたことだろう。
「疲れた?」
見上げると晃が優しく頭を撫でてくれた。優しいその手に頷きそうになって留まる。
疲れるなんておかしい。あんなに良くしてくれているのに。少しの手伝いで美味しい物を食べさせてもらって、ずいぶん楽をさせてもらっているのに。
「ずっと一緒に暮らしていても、ちょっと離れて一人になりたい時とかあるからさ。よそのうちで気を使ってたら疲れるのは当たり前だよ」
「当たり前……」
「そう。そういう時は、この部屋に二人でこもってゴロゴロしてよう? 母さんも、流石にここに勝手に入っては来ないからさ」
「……いいの?」
「もちろん。あ、でも、僕が一緒に部屋にこもったら一人になれないか」
「え?」
一太は驚いてしまった。考えてみるに、一太がこうして寛いでいるのは晃といる時だ。一人の時じゃない。一人だと逆に、あれもしようこれもしようとばたばたと動き回ったりして疲れてしまうことがある。何もしていないことが不安で堪らない。
けれど、晃といる時は違う。晃といればぼんやりと座っていても特に不安はなかった。本を読んだりテレビを見たりするのも、晃が一緒ならしてもいい事のように思える。
「一緒がいい」
「え?」
「晃くんと一緒が一番のんびりできる」
「いっちゃん……!」
同じように寝転がった晃が、一太をぎゅっと抱きしめた。
ああ、気持ちいいな。
一太もぎゅっと晃を抱きしめ返す。
相変わらず、一太には普通は分かっていない。でもこれからは、誰かにおかしいと言われても、どこがおかしいの? と言い返すことができる気がした。
何故かは分からないけれど、そんな気がした。
「そう? あー、でも確かに、よく聞くおせちの中身にウインナーや骨付きチキンはないよね。僕や姉があんまりおせちの品を食べないから、食べられるものを入れたんじゃない? 母さん、やりそう」
晃は、けらけらと笑う。
そうか、誕生日パーティと同じで、それぞれの家で色んな物が入ってるものなんだなあ、と一太は何となく察した。
誕生日パーティも、今日のようなのが家でのパーティの普通なのか、と聞いたら、他の家のことは知らないと晃から返事がきた。全くその通りだ。よそのうちを覗かせてもらったりできないのだから、どんなことをしているかなんて分かりはしない。
「家でケーキ作る人もいれば、買ってくる人もいるだろうし、プレゼントだけもらって終わりとか、パーティしないとか。外に豪華な食事を食べに行くとか」
晃の言葉に、そういえばと一太は思い出した。昔のことだ。今日はご飯を作らなくていい、と言われ、次の給食まで食事無しかとがっくりして、でも少し休めるとほっとしたあの日。冷蔵庫に入っていたのはケーキ屋の箱と、買ってきたご馳走だった。あれはオードブルというのだったっけ? 様々な、ちょっと豪華なおかずが入ったものが置いてあった弟の誕生日。そして、綺麗に包装されたプレゼントの箱。
うん。色々だ。色々違うんだ。それなら、おせちが色々であることも納得できる。
一太はずっと「普通」を知りたいと思って生きてきた。おかしくないように生きるには、普通を知っていなければならないと。でも、晃くんのうちでやっている事が普通かと晃に聞いて、そうだと答えは出なかった。確かに、一太が唯一知っていた誕生日の様子と違う。でも、どちらも間違ってはいないのだという。
そんな風にそれぞれの家庭で色んなことが違うなら、どうして皆は、一太は違う、おかしいと確信を持って言うのだろう。そこが分からない。
うーん、と悩んで、一太は布団にごろんと転がった。
晃の部屋にはすでに布団が敷いてあるので、風呂も終えて脱力した一太はそのまま、ふうう、と深い息を吐いてしまう。やはりよそのうちで緊張していた所もあったらしい。どんなに良くして貰っても、失敗してはいけないとの思いは心の内から消えることはない。
ずっと。子どもの頃からずっと、どこにいても、失敗をしてはいけないと緊張して生きてきた。家でも学校でも職場でも。だから、それが通常の状態であったのに、そのことに疲れてこんなにだらんとしてしまうなんて、一体どうしたことだろう。
「疲れた?」
見上げると晃が優しく頭を撫でてくれた。優しいその手に頷きそうになって留まる。
疲れるなんておかしい。あんなに良くしてくれているのに。少しの手伝いで美味しい物を食べさせてもらって、ずいぶん楽をさせてもらっているのに。
「ずっと一緒に暮らしていても、ちょっと離れて一人になりたい時とかあるからさ。よそのうちで気を使ってたら疲れるのは当たり前だよ」
「当たり前……」
「そう。そういう時は、この部屋に二人でこもってゴロゴロしてよう? 母さんも、流石にここに勝手に入っては来ないからさ」
「……いいの?」
「もちろん。あ、でも、僕が一緒に部屋にこもったら一人になれないか」
「え?」
一太は驚いてしまった。考えてみるに、一太がこうして寛いでいるのは晃といる時だ。一人の時じゃない。一人だと逆に、あれもしようこれもしようとばたばたと動き回ったりして疲れてしまうことがある。何もしていないことが不安で堪らない。
けれど、晃といる時は違う。晃といればぼんやりと座っていても特に不安はなかった。本を読んだりテレビを見たりするのも、晃が一緒ならしてもいい事のように思える。
「一緒がいい」
「え?」
「晃くんと一緒が一番のんびりできる」
「いっちゃん……!」
同じように寝転がった晃が、一太をぎゅっと抱きしめた。
ああ、気持ちいいな。
一太もぎゅっと晃を抱きしめ返す。
相変わらず、一太には普通は分かっていない。でもこれからは、誰かにおかしいと言われても、どこがおかしいの? と言い返すことができる気がした。
何故かは分からないけれど、そんな気がした。
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