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18 ハンバーガー記念日
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「ほら、メニュー」
渡されたハンバーガーのメニュー表を見た一太は拍子抜けした。
ハンバーガーひとつ百五十円?
もちろん色んな種類のハンバーガーがあって、ひとつ五百円と書いてある品もあるが、一番安いものは百五十円である。
「どうする? 他の店も見てみる?」
一太にメニュー表を渡してから横で待ってくれていた松島が、少し屈んで尋ねてくる。渡辺と伊東はハンバーガーの気分じゃないとのことで、フードコートの他の店を見て回っているらしい。安部と岸田はスマホを手に、すでにハンバーガー屋の行列に並んでいる。
「あ、いい。俺もハンバーガーでいい」
すぐに安部と岸田の後ろに付いて並ぶと、二人ににっこり笑われた。松島も隣で笑っている。
ほっとしながらも、では弟は何故、五百円でも足りないなんて言ったのかと不思議に思った。より多くのお金をせびるための嘘にしては、かなり本気で突き飛ばされたのだが。
「アプリの割引きチケット持ってる?」
振り返った岸田に話しかけられて、持っていない、と首を振ると、岸田がスマホの画面を見せながら教えてくれた。このハンバーガー屋のアプリを入れていたら、通常より安く買える割引券があるらしい。バイトしているコンビニでも、スマホの画面をレジで読み取って割引きの値段で購入する人が増えているから、最近はそういう割引き方法なのだろう。
「村瀬くんもアプリ入れておく?」
一太は少し迷ったが、今買おうとしているハンバーガーの割引券は無かったので断った。もしあったら、そのアプリを入れてみても良かったけれど、一太のスマホはWi-Fiの無いところでそんなにたくさんは使えない。
百五十円だから、これ以上割引きなんてできないよなあ。安いし。
「僕も入れてみようかな」
「入ってないの?」
「うん」
松島の言葉に、岸田が真剣な顔で言う。
「よく利用するなら入れておきなよ。私なんて小さい頃、広告の割引券が無いとハンバーガー買えないんだと思ってたよ」
「え、まじ?」
安部が驚いた声を上げた。
「まじよ、まじ。割引券が無くても買えると知ってからも、結局チケットのあるものから選んじゃうんだよねえ。だって三十円とか割引きしてくれるんだよ。普通に暮らしてて何もせずに三十円もらえないし、天から降ってもこないんだから」
「おお、名言」
「こういう積み重ねがその内大きく効いてくるの!」
「おお……、そうだな。そうかもな」
安部が少しひきつった笑いをこぼしているが、岸田の言葉は本当に名言だ、と一太は思った。そうだ、三十円は降ってこない。
岸田さんと一緒の買い物は気が楽だな、と一太は少しほっとした。
アプリの割引券を示しながらハンバーガーの注文を終えた三人の後で、ハンバーガーを一つ、と注文する。
「ご一緒にポテトは如何ですか?」
明るい声で勧められて、へ? と驚いてメニューを見た。ポテト、ポテト……。一番小さな品でも百六十円? ハンバーガーより高いじゃないか! それをご一緒に? 何で?
「あ、いらないです」
「畏まりました。お持ち帰りですか?」
「いえ、店内で食べます」
「お飲み物はどうされますか?」
座る席が空いているかとフードコートを見渡した時に、無料でどうぞ、と書いた水とコップが置いてあった気がする。
「いらないです」
「…………畏まりました。百五十円です」
「はい」
やった。消費税も込みの値段だった。
一太は支払いを終えて心底ほっとした。それから、じわじわと喜びが湧いてくる。
ハンバーガー。ハンバーガーか。
食べてみたいと思っていた。こんなに安いとは知らなかった。何でもやってみるもんだな。
友達とハンバーガーを食べられる日が来るなんて、やっぱり家を出てきて正解だったんだ。
渡されたハンバーガーのメニュー表を見た一太は拍子抜けした。
ハンバーガーひとつ百五十円?
もちろん色んな種類のハンバーガーがあって、ひとつ五百円と書いてある品もあるが、一番安いものは百五十円である。
「どうする? 他の店も見てみる?」
一太にメニュー表を渡してから横で待ってくれていた松島が、少し屈んで尋ねてくる。渡辺と伊東はハンバーガーの気分じゃないとのことで、フードコートの他の店を見て回っているらしい。安部と岸田はスマホを手に、すでにハンバーガー屋の行列に並んでいる。
「あ、いい。俺もハンバーガーでいい」
すぐに安部と岸田の後ろに付いて並ぶと、二人ににっこり笑われた。松島も隣で笑っている。
ほっとしながらも、では弟は何故、五百円でも足りないなんて言ったのかと不思議に思った。より多くのお金をせびるための嘘にしては、かなり本気で突き飛ばされたのだが。
「アプリの割引きチケット持ってる?」
振り返った岸田に話しかけられて、持っていない、と首を振ると、岸田がスマホの画面を見せながら教えてくれた。このハンバーガー屋のアプリを入れていたら、通常より安く買える割引券があるらしい。バイトしているコンビニでも、スマホの画面をレジで読み取って割引きの値段で購入する人が増えているから、最近はそういう割引き方法なのだろう。
「村瀬くんもアプリ入れておく?」
一太は少し迷ったが、今買おうとしているハンバーガーの割引券は無かったので断った。もしあったら、そのアプリを入れてみても良かったけれど、一太のスマホはWi-Fiの無いところでそんなにたくさんは使えない。
百五十円だから、これ以上割引きなんてできないよなあ。安いし。
「僕も入れてみようかな」
「入ってないの?」
「うん」
松島の言葉に、岸田が真剣な顔で言う。
「よく利用するなら入れておきなよ。私なんて小さい頃、広告の割引券が無いとハンバーガー買えないんだと思ってたよ」
「え、まじ?」
安部が驚いた声を上げた。
「まじよ、まじ。割引券が無くても買えると知ってからも、結局チケットのあるものから選んじゃうんだよねえ。だって三十円とか割引きしてくれるんだよ。普通に暮らしてて何もせずに三十円もらえないし、天から降ってもこないんだから」
「おお、名言」
「こういう積み重ねがその内大きく効いてくるの!」
「おお……、そうだな。そうかもな」
安部が少しひきつった笑いをこぼしているが、岸田の言葉は本当に名言だ、と一太は思った。そうだ、三十円は降ってこない。
岸田さんと一緒の買い物は気が楽だな、と一太は少しほっとした。
アプリの割引券を示しながらハンバーガーの注文を終えた三人の後で、ハンバーガーを一つ、と注文する。
「ご一緒にポテトは如何ですか?」
明るい声で勧められて、へ? と驚いてメニューを見た。ポテト、ポテト……。一番小さな品でも百六十円? ハンバーガーより高いじゃないか! それをご一緒に? 何で?
「あ、いらないです」
「畏まりました。お持ち帰りですか?」
「いえ、店内で食べます」
「お飲み物はどうされますか?」
座る席が空いているかとフードコートを見渡した時に、無料でどうぞ、と書いた水とコップが置いてあった気がする。
「いらないです」
「…………畏まりました。百五十円です」
「はい」
やった。消費税も込みの値段だった。
一太は支払いを終えて心底ほっとした。それから、じわじわと喜びが湧いてくる。
ハンバーガー。ハンバーガーか。
食べてみたいと思っていた。こんなに安いとは知らなかった。何でもやってみるもんだな。
友達とハンバーガーを食べられる日が来るなんて、やっぱり家を出てきて正解だったんだ。
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