【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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17 分からないことが怖い

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 外食の話がどんどん進んでいく。エプロンを一枚しか買わずに済ませたから財布にお金は残っているが、何せ外食の値段と言えば、松島にお礼をしようと調べた時に、一人分が千円では済まなかったことは確認済みだ。怖い。足りるだろうか。そういった場所で、おかしくない振る舞いができるだろうか。

「あの、俺、もう……」

 思いきって言ってみる。

「買い物できたし、帰ろうかなって」
「あ、何か用事あった? バイト?」
「じゃあ、村瀬くんだけ帰る?」

 渡辺と伊東がにこやかに提案してくれる。
 ああ、他に帰る人はいないのか。こうして出掛けたら、皆でご飯を食べて帰るのが普通なのか。じゃあ今、普通でない提案をしてしまっている?
 いや、村瀬くんだけ帰る? と言ってくれているということは、おかしくはないのかもしれない。用事がある人が帰るのはあり。でも問題は。
 ここで一人で放り出されたら、とても家まで帰りつけそうにない、ということだ。

「ハンバーガーだけ食べて帰ろ? ね? そんなに高くないから。大丈夫だから」

 松島が、一太の手を両手で握って一生懸命説明してくれている。ハンバーガーは高くない? いや、そんなはずはない。一太だって何にも知らない訳じゃない。友達とハンバーガーを食べに行くからお金を寄越せ、と一太に掴みかかった弟に仕方なく五百円玉を渡したら、こんなもんで足りるかよ! と吐き捨てて、千円札を無理矢理奪って行ったのだから。

「あ、でも、俺……」
「フードコートには色んな店があるし、ハンバーガーが苦手なら他のものも見てみよ、ね?」

 松島は優しく言いながら、先に歩き出した他の四人について歩き出す。一太の手はしっかりと握ったままだ。
 一人では帰れない。松島に一緒に帰ってくれと言うのも申し訳ない。
 食べに行くしかない。
 一太は覚悟を決めて松島の手を握り返した。

 
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