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こんがラガる
3.
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次の日、ゆきは同じミステリー小説同好会に属する、工藤健と一緒に、同好会に与えられた図書室の隣にある小さな部屋にいた。そこは本来は図書室に入りきらない本を置いておくための部屋だったが、学校側の好意でミステリー小説同好会のメンバーが集まるのに、使うことを許されていた。
健は、小説家志望という夢のイメージとは違い、背の高く、筋肉質な身体づきで、ほお骨の出たゴツゴツとした顔立ちだった。
和人は良子と話をするために遅れるとのことだったので、ゆきは健と二人きりだった。
身体つきは大きくても基本的にミステリー小説以外に興味のない健に対して、ゆきとしては特に物怖じすることはなかった。
「ねえ、健さん。最近、お兄ちゃん、どうですか?」
「どうって、どういうこと? 今度の会報の締め切りに間に合いそうもないってこと?」
逆に健に質問され、ゆきはため息をついた。
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
果たして和人が良子にちゃんと聞けたのか気になるところだったが、それとは別に言いしれぬ不安感がある。それが何なのか、ゆきとしては分かっているような、分かっていないような、自分でも得体の知れない感覚だった。
もしかしたら、分かっていても、認めたくないだけかもしれない。
ゆきは胸の鼓動が少し早くなり始めていることに気づき、ことさら声を大きくした。それは不安感をぬぐうためだった。
「健さん、最近、小説は書いてるんですか?」
「おお。よく聞いてくれた。もちろん書いてるよ。いわゆる特殊設定ものだ」
特殊設定ものとは、宇宙空間や魔法の存在するファンタジー世界、あるいは人類が滅亡しかけている地球など、文字通り特殊な環境での謎を解くミステリー小説である。
「最近、流行りのやつですね。どんなのにするんですか?」
「どんなのか、いろいろ考えたんだけど、ドッペルゲンガーものでいこうかと思っているんだ」
え?
「ドッペルゲンガーって知ってるかい? いってみれば自分の分身なんだ。もう一人の自分っていうやつ。もし、分身と出会ってしまうと、死ぬっていわれてるんだけどね。この設定なら、けっこう面白いミステリー書けるかなって思ってさ」
「……不老長寿の魔女を主役にしたミステリーはどうですか?」
ゆきは軽い口調でいったが、健は少し眉をひそめただけだった。
健は曽祖父の代からこのO町に住んでいるので、幸子のことは当然知っている。ゆきの軽口を面白いとは思わなかったようで、また読書に熱中し始めた。
ゆきは内心舌打ちした。
外では部活動に励む生徒たちの声が聞こえる。
にもかかわらず、ゆきは奇妙な静けさを感じていた。
突然、ガラリと戸が開いた。
「あ、お兄ちゃん」
ゆきは和人の顔を見た。
その顔は、どこか拍子抜けしたような、何かに気を取られているようなそんな表情だった。
そしてゆきは、自分がその視界に入っていないことに気づいた。
健は、小説家志望という夢のイメージとは違い、背の高く、筋肉質な身体づきで、ほお骨の出たゴツゴツとした顔立ちだった。
和人は良子と話をするために遅れるとのことだったので、ゆきは健と二人きりだった。
身体つきは大きくても基本的にミステリー小説以外に興味のない健に対して、ゆきとしては特に物怖じすることはなかった。
「ねえ、健さん。最近、お兄ちゃん、どうですか?」
「どうって、どういうこと? 今度の会報の締め切りに間に合いそうもないってこと?」
逆に健に質問され、ゆきはため息をついた。
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
果たして和人が良子にちゃんと聞けたのか気になるところだったが、それとは別に言いしれぬ不安感がある。それが何なのか、ゆきとしては分かっているような、分かっていないような、自分でも得体の知れない感覚だった。
もしかしたら、分かっていても、認めたくないだけかもしれない。
ゆきは胸の鼓動が少し早くなり始めていることに気づき、ことさら声を大きくした。それは不安感をぬぐうためだった。
「健さん、最近、小説は書いてるんですか?」
「おお。よく聞いてくれた。もちろん書いてるよ。いわゆる特殊設定ものだ」
特殊設定ものとは、宇宙空間や魔法の存在するファンタジー世界、あるいは人類が滅亡しかけている地球など、文字通り特殊な環境での謎を解くミステリー小説である。
「最近、流行りのやつですね。どんなのにするんですか?」
「どんなのか、いろいろ考えたんだけど、ドッペルゲンガーものでいこうかと思っているんだ」
え?
「ドッペルゲンガーって知ってるかい? いってみれば自分の分身なんだ。もう一人の自分っていうやつ。もし、分身と出会ってしまうと、死ぬっていわれてるんだけどね。この設定なら、けっこう面白いミステリー書けるかなって思ってさ」
「……不老長寿の魔女を主役にしたミステリーはどうですか?」
ゆきは軽い口調でいったが、健は少し眉をひそめただけだった。
健は曽祖父の代からこのO町に住んでいるので、幸子のことは当然知っている。ゆきの軽口を面白いとは思わなかったようで、また読書に熱中し始めた。
ゆきは内心舌打ちした。
外では部活動に励む生徒たちの声が聞こえる。
にもかかわらず、ゆきは奇妙な静けさを感じていた。
突然、ガラリと戸が開いた。
「あ、お兄ちゃん」
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