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今夜飲もう(テツヤ目線)

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 「テツヤ兄さん、今夜うちで飲もうよ。」
レイジから言われた。仕事が珍しく夕方に終わり、明日は休みというタイミングだった。当然、
「オーケー。何か買って行こうか?」
と、答えた。
「うちにはビールくらいしかないから、他に飲みたい物があれば持ってきて。」
レイジが言った。
 ウイスキーを一瓶買って、レイジの家に行った。部屋の玄関に入ると、靴が二足。ん?これ、レイジの靴じゃないよな。
「誰か居るのか?」
俺が聞くと、出迎えたレイジが、
「あ、うん。」
歯切れの悪い返事をした。廊下を通ってダイニングまで行くと、なんとリョウ兄さんが座っていた。
「あ。」
思わず言うと、リョウ兄さんはひょいっと片眉を上げた。
「あー、リョウ兄さんも来てたんですね。」
ひとまずそう言うと、
「ああ。お前も来るとは知らなかったよ。」
怒った風でもないが、ちょっと唇をとがらせてリョウ兄さんが言った。
「テツヤ兄さんも座ってよ。」
レイジの奴、何を考えてるんだ?ああ、もしかしたら俺を誘った後に、リョウ兄さんから誘われて断り切れなかったとか。きっとそうだ。
「カンパーイ!」
三人でグラスを合わせた。リョウ兄さんが持ってきた赤ワインを飲む。リョウ兄さん、これをレイジと二人で飲むつもりだったのか?レイジはまだそんなに飲めないのに。
「それにしても、お前らビッグになったよなー。」
リョウ兄さんがしきりに感心していた。俺たちはこの5年で、飛躍的に知名度を上げた。休む暇もなく歌やダンスの練習をしたし、テレビやラジオやイベントにたくさん出演してアピールしてきた。その努力のたまものだ。
「特にお前ら二人はさあ、格好良く成長したよなー。レイジなんて可愛い男の子だったのに、すっかり格好いい大人になってさあ。」
「そんな、中身はあまり変わっていませんよ。」
レイジが既に赤い顔をして言う。酒のせいか、いつもよりも口数が多いような気がする。
 俺は面白くなかった。レイジはリョウ兄さんの隣に座るし、リョウ兄さんはレイジの事ばかり見ているし、すっかり酔ったリョウ兄さんは、そのうちレイジの肩に腕を回し、顔と顔がくっつきそうな程近づいている。
「リョウ兄さん、けっこう酔ったみたいだし、水でも飲みますか?」
俺が言うと、レイジが俺を見た。
「あ、俺水持ってくる。」
そう言って、レイジが立ち上がろうとすると、リョウ兄さんはそれを許さなかった。
「どこ行くんだよ、レイジ。」
「水を持ってきます。」
「そんなのいいから、俺と付き合ってよ。」
なんか、言ってる事がおかしくないか?
「え、あの・・・ん?!」
唖然。リョウ兄さんがレイジにキスをしたのだ。俺は思わず立ち上がった。酔っていて足がふらつくが、それでもテーブルの向こう側に回って行き、まだ唇を離さないリョウ兄さんをレイジから引きはがし、顔を殴った。
「イッテー!何するんだよ!」
リョウ兄さんは床に転がりながら、頬に手を当てた。
「レイジに手を出すな。」
「お前、誰に向かって・・・。」
リョウ兄さんは立ち上がると、俺の顔を殴った。
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